PS4ソフト「十三機兵防衛圏」をプレイし終わった。
プレイ時間およそ30時間、この間に何度、星雲賞にゲーム部門がないことを嘆いたか。
だが、ないなら作れば良いのだ。常に誰かが未来を作り、人類の文化は受け継がれていく。
よって、ここに星雲賞ゲーム部門を創設し、「十三機兵防衛圏」を受賞させる。
異論はご自由に。
初めに断言するが、このゲームをやっているかやっていないかで、今後のありとあらゆるアニメ・漫画・ゲームコンテンツへの目が変わる。それほどまでにすごいゲームだった。
簡単に例えるなら、「こんな旨い寿司(回らない寿司)を食ったら、回転寿司なんて行けないよ!」と言ったり聞いたりするあの台詞。それをゲームでやってのけたのが「十三機兵防衛圏」だ。
だが、これは一種の呪いでもある。要するに、「もう安い寿司じゃ満足できないよ!」現象だ。それは事実であり、十三機兵防衛圏は一種の「呪い」だと、自分は認めざるを得ない。これまでに自分が触れてきた、そして今後触れるだろう、アニメ・漫画・ゲーム作品を霞ませる、それだけの面白さがこのゲームには備わっている。それが呪いでなくて何であろうか?
自分はゲームオタクというほどでもないので、プレイしてきたゲームは多いわけではない。要するに、「おまえが他に面白いゲームを知らないだけだろ」と言われると、それは事実なので言い返せないが、それでもこのゲームは、ありとあらゆる人類に「おまえはプレイしたか?」だと言いふらしたくなるような高揚感を与えてくれる。
事実、自分はいま、その高揚感でインターネットを通して問いかけている訳だが、かつての自分に同じような高揚感をくれたゲームに「ever17」がある。
このゲームは知る人ぞ知る大傑作ギャルゲーなのだが、何が何でもネタバレ厳禁、絶対にこの名前でインターネット検索をするなと、まるで「検索してはいけない言葉」のような扱われ方をされている。当時、中学生くらいだった自分は、何の前情報もなくたまたま中古ゲーム屋で見つけて「このキャラみんな、かわいすぎw」とジャケ買いしたから良かったのだが、その中身のシナリオたるや、あまりの出来の良さにガチで発狂してしまった。その後、「高揚感」に取り付かれ、「いいから何も聞かず、何も調べずにこれをプレイしてくれ」と、5人くらいの友人にプレイさせた記憶がある。
当時は、インターネットをうまく使いこなせていなかったため、このようにブログで記事を書くことも出来ず、リアルで友人に貸すことでしか「高揚感」を共有出来なかった。それが今、こうしてインターネットでこのような大傑作を周知できるようになって、過去の自分と今の自分がつながるような、不思議な気持ちになっている。
○
話を戻そう。十三機兵防衛圏の話である。
このゲームも、「ever17」同様、絶対に検索してはいけない言葉に追加したほうが良い。何が何でも公式サイトと商品ページ以外のサイトには行っては行けない。血迷ってもツイッターで検索して、自分のようなオタクの感想ブログを開いてはいけない。そういうゲームである。ならばおまえは記事を書くなと言われるとそれまでだが、自分にはこのゲーム作品を絶対に全人類に周知しなければならない使命のようなものを感じてしまったのだ。これは一人の人間にどうこうできるものではない。インターネットを見ると、同じように使命を帯びた人たちが多数いるが、みなネタバレを恐れるあまり、このゲームの魅力について十分に語れていないように思う。
ただ、気持ちは分かるのだ。本当はみんな、ネタバレしまくりの記事を書きたいだろうに、「ここから先は未プレイ勢は見ないでください」と書いても、絶対に見る人間がいる。日本人全員が日本語を読めたらいいのだけれど、そうではないのだ。それが分かっている以上、うかつなことは書けない。ただのオタクである自分が、このゲームの魅力を少しでも損なわせることが恐ろしくて仕方ない。
だが、書かなければ何も伝わらないのだ。
この記事は、できる限りネタバレがないように書いている。ただ、ネタバレを気にしすぎると何も書けなくなるので、個人的に大丈夫だと思うところだけ紹介していこうと思う。
『オーディンスフィア』『ドラゴンズクラウン』など、個性的なファンタジー世界を生み出してきたアトラス×ヴァニラウェアのタッグがお贈りする完全新作『十三機兵防衛圏』。本作は過去~未来それぞれの時代に生きる13人の少年少女たちが「機兵」と呼ばれる巨大なロボットに乗り込み、人類の存亡をかけた最後の戦いに身を投じるSFドラマチックアドベンチャーです。キャラクター同士の会話で浮かび上がる「キーワード」を操る新感覚アドベンチャーシステム「クラウドシンク」や様々な種類の「機兵」を編成・駆使して、街を襲う巨大な敵「怪獣」と戦う爽快シミュレーションバトルなど作りこまれたゲームシステムが本作への没入感を高めます。
これはAmazonのゲーム紹介文だが、あくまで作品の外側の説明に過ぎない。もうひとつ説明文を載せてみる。
運命が起動する。
「緊急速報をお伝えしています。隕石のように飛来してきた大型の未確認物体は建物を壊しつつ、現在も……」
TVキャスターが日常の終焉を告げる。逃げ惑う人々の中、押し寄せる絶望に立ち向かう少年少女の姿があった。彼らは「機兵」と呼ばれる巨大なロボットに乗り込み、人類の存亡をかけた最後の戦いに身を投じる――
全ての世代の少年少女に贈る! ジュヴナイル群像劇本格SFアドベンチャー!
これが、ゲームソフト裏の説明である。大体物語の内容は掴めただろうか。
もしこの時点で興味があれば、是非公式サイトのリンクを踏んで、実際にどういうゲームシステムなのかを知って欲しい。
さて、このゲームは「崩壊編」「追想編」「究明編」に分かれる。
メインである「崩壊編」「追想編」に加え、感動したゲームシステムとシナリオについて、極力ネタバレを避けてこのゲームの魅力を語ろうと思う。
○崩壊編について
崩壊編は、ざっくり言えばシミュレーションバトルゲームだ。説明にもあったとおり、「機兵」と呼ばれる巨大なロボットを動かして、ミサイルとかバンバン撃ったりシールド張ったりデバフをかけたりして敵と戦うのだ。まあ面白い。機兵にもいろいろな種類があり、近接戦闘に優れた第一世代、万能型の第二世代、遠距離型の第三世代、飛行支援型の第四世代と、機種によって得意分野が異なり、使用できる技も違う。
そして画面を見れば分かるように、最高に爆発している。もうあちこちで爆発している。エリア1~2はまだいいが、3に入ると訳が分からんくらい爆発して脳汁が止まらなくなる。次々襲ってくる敵はなかなかに手強く、「倒せね~!」となることもあったが、機兵を強化しまくるとなんとかなった。ブラボやダクソで、「パリィも分からんし行動パターンも分からん、立ち回りも知らんけど、めちゃくちゃ回復して両手で斧を振り回したらなんとかなった」という脳筋の自分でもストレスなく楽しめたので、ちゃんと考えると最高に楽しい戦略ゲームになっていると思う。多分。
ちなみにクリア後に解禁されるエリア4は、脳筋ではまったく歯が立たずにプレイしていない。
で、こんな感じのアクションゲームはあくまでサブ的立ち位置になっていて、メインはやっぱり「追想編」ということになる。
○追想編について
まず、追想編にかかわらずなんだけれど、本当にキャラの造形がいい。男の子はかっこいいし、女の子はみんなかわいい。
その上、百合っぽい要素もありましてね……。下の写真を見て欲しいんですけれど……。
これはメインキャラの鷹宮さんと南さん(どっちも女の子)の写真なんですが、黒髪の鷹宮さんは成長して不良になってツンツンしてるんだけど、南さんにはめちゃくちゃ甘くて、「なっちゃん、なっちゃん」ってすごい懐いていて……行動原理が常に南さんなんですよね……もう本当にこういうのが大好き過ぎて、見てよこの幸せそうな南さんの表情……無理すぎる……。この二人の絡みを見るためだけにストーリー進めてたところある。
で、もちろんキャラは他にも大量にいて、まあ十三機兵というだけあってメインキャラは十三人もいるんですが、誰一人として嫌いなキャラいないんですよ。プレイするの嫌だな~ってキャラがマジで誰もいない。あとこれだけは声を大にして言いたいんだけれど
「男の娘」が出ます!!!!!!(クソでか大声)
(公式サイトのキャラ紹介より画像引用)
残念ながらプレイはできないけれど、物語に深く関わる重要なキャラで、しかもメインキャラの厳つい男が、その男の娘に惚れているんだから(画像のリーゼントではない)もう、終わりですよ。しっかりとしたBLをぶち込んでくれます。嬉しすぎて発狂しそうになった。
本当は全員紹介したいんだけれど、流石に十三人全員はきつい。
ただ絶対に言っておきたいのが、十三人全員が主人公であるということ。これを実現させたシナリオには、笑いがとまらんかった。すごすぎて。キャラについては外見以外で触れると確実にネタバレになるんで、これ以上は話しません。魅力的なキャラ一覧は公式サイトから見てください。
ただ、絶対にGoogleやpixivで画像を漁らないこと。
「少しだけ……画像だけ……」が検索の手を軽くし、思わぬネタバレを踏むことなんて、数え切れないくらいある。正直、この男の娘は、小悪魔的な性格してるしかわいいしで性癖すぎて何度も画像を漁ろうと思ったんだけれど、絶対にネタバレは踏みたくない一心で先にプレイし終えることができた。(実は2回だけツイッター検索とGoogle画像検索したけど、まあギリギリ堪えた)
で、キャラの次は背景なんだけど、これが本当にぐっさりと刺さる。特に大人なら見ているだけで涙が出そうになる。見てくれこの背景を。
どうですか?僕はもうあまりに綺麗すぎて言葉が出なかった。このゲームは強固なSF世界観を基底にしているんだけれど、それよりずっと強く「青春ジュブナイル」を意識していて、あの頃を思い出すかのような、やわらかな水彩タッチかつひたすらにこだわった「光」の演出。もう本当にすごい。こんな綺麗な世界を歩けることの嬉しさといったら、モンハンでモンスターを狩らずに散策に耽った時以来ですね……。
で、ここまでキャラ、背景と述べてきたんだけれど、それよりも自分が感動したのが、システム設計。このゲームは、とことん「ストレスフリー」を意識している。
○ゲームシステムについて
先ほども簡単に触れたように、このゲームは「崩壊編」「追想編」「究明編」の3つに分かれる。基本的にプレイヤーは、崩壊編でアクションゲームやりながら、追想編でストーリーを進める感じになる。が、このゲームのすごいところは、こうやってしっかりとストーリーとバトルを分けているところにある。
①「崩壊編」と「追想編」を分けている
これが非常にでかい。基本的にこういうゲームは、ストーリーを進めると絶対にバトルが必要になる。ソシャゲとかでもそうだが、シナリオを薦めるためにはクソつまらんバトルを大量にやらなくちゃ行けない、「おれは今シナリオが読みたいのによ~!」ってイライラする。それがこのゲームには一切ない。語弊を生まないように説明するが、決してバトルをスキップできるとか、やらなくて良いわけではない。ただ、いつバトルをするのかはプレイヤーに委ねられているし、先にストーリーを進めるように誘導される。
誘導の仕方も巧みで、キャラのシナリオを解放するごとに、バトルを有利にすすめるアイテムが手に入る。つまり、シナリオを読めば読むほどバトルが楽になる。自然とプレイヤーは追想編に入り浸るようになるし、読んでいる途中で、急にバトルが差し込まれることもない。これを実現したのが、「追想編」という言葉通り、「追想」という形式を取ったからだ。つまり、「崩壊編」が今で、そこに至るまでの話を「追想編」で知っていくということになる。だから、途中でバトルが差し込まれることがない。なぜなら追想だから。これは本当にすごいシステムだ。やれば分かる。マジですごい。
で、ここに付随して絶対に言っておきたいのが、各キャラのシナリオの最後に見ることが出来る機兵を呼ぶシーン。これがね……本当にめっっっちゃくちゃかっこいい!!
涙が出そうになるくらいかっこいい。最後の最後に、今までの追想を受けて機兵を呼ぶ、あの決意に満ちた表情、呼ぶときのアクション、マジで絶対に見て欲しい。アニメだと魔法少女にしろ戦隊ものにしろ、各回でバンクになって回を重ねるごとに微妙に変化したりしてエモくなると思うんだけれど、このゲームでは、各キャラが機兵を呼ぶのはシナリオの最後の最後、たった1回だけなんです。その1回にすべてが詰まっている。激アツだよ。本当に。
閑話休題。システムの話に戻ろう。
②一度に表示される台詞が短い
これがすごい。何がすごいって、まあ後でシナリオについては語りますが、これだけ重厚なシナリオなのに、すべて台詞だけで紡がれる。台詞自体めちゃくちゃ練られていて、頭の上に表示される2行程度の台詞を読んでいくだけ。フルボイスだけれどスキップもできるし、シナリオがポンポン進んでいく。これがすごい良かった。
③各キャラのシナリオのセクションが短い
群像劇だから、ゲームシステムは、「428」とかに結構似ている。「各キャラの○○を読むと解放」みたいな感じで、いろんなキャラの話をつまみながら、どんどん作品世界を知っていく感じ。ここでも、ちょうどいい謎の残し方、短さを追求していて素晴らしい。
④「クラウドシンク」システム
追想編は、頭に思いついたワードを相手に投げかけて進めていくのだが、そこでキーワードをプレイヤー自身も簡単に整理できるので、複雑な話も理解しやすくなっている。いろいろ飛び移る群像劇だからこそ、このシステムが本当にありがたい。
⑤「究明編」の素晴らしさ
最後に、「究明編」について。基本的にあまり使わないパートなのだが、ここでキーワードや時系列の整理がなされる。これもすごい親切で、キャラ個別に時系列を管理できたり、難しい用語を復習できたりと至れりつくせり。で、ゲームクリアするだけでは多分シナリオの全容を理解するのは難しい、それほどすごいシナリオになっている。そこで、クリア後にここに入り浸って頭の中を整理して、再びすべてがつながる快感を得られる。欲を言えば、用語整理の画面であいうえお順などに並び替えることができれば良かったのだが、まあ今でも問題はない。ありがたいシステムだ。
⑥プレイ時間がそこまで長くない
うまく進めると、多分30時間くらいで終わるゲームだ。追想編が面白すぎて止まらないため、体感はもっと短いかもしれない。とにかく、これくらいのプレイ時間で得られる快感は、コスパを考えると破格。
以上述べたように、このゲームは複雑なシナリオを最大限補助するように、様々な角度から工夫がされている。ゲームをやっていてここまでストレスフリーだったのは初めてレベル。ありがたいことですね。では最後に、シナリオについて話します。
○シナリオについて
オタクが良いコンテンツを勧める際によくやるものに、実質構文というものがある。「これは実質ジョーカー」「これは虚淵脚本」「子供向け奈須きのこ」「ディケイド」「攻殻機動隊」などなど、予想もつかない(鬱気味の)作品との関連を示すことで、「どんなものだろうか」とオタクの気をひく行為である。ちなみに上記作品はすべて『映画すみっコぐらし』でツイッターサーチを掛けると出てくるものだが、結局オタクは、自分の持っている引き出しのなかで、もっとも近い要素を持つ作品を口にしているだけに過ぎない。主要キャラがバンバン死ねばAnotherだし、母親が子供を産むときに死ねばどれもCLANNADなのだ。そういう文脈で、この「十三機兵防衛圏」を実質構文で紹介しようと考えたが、正直、SFの傑作で思い浮かぶ作品のどれを選んでもネタバレになってしまう。それくらい、この作品は今までに出てきたすべてのSFアニメ・漫画・ゲーム作品を下敷きにしており、それらをうまくまとめ上げ、誰も見たことのない世界に到達してしまった。そんなゲームだ。
「あなたが考えるSF作品の傑作はなにか」と問われて、頭に思い浮かべたものが、既にこの作品には組み込まれている。
思い浮かばなくても良い。何も思い浮かばなかった人は、それだけで本当に羨ましい。「実質○○」の引き出しを持たない人にとって、このゲームの到達点は狂気に映るだろう。たった30時間で想像力の限界に突き進むこのゲームを、あなたは果たしてどんな目で見ることになるのだろうか。
何よりも恐ろしいのは、このゲームは企画・制作に6年も掛かっていることだ。引き出しを持つ人間からしても、この事実に驚嘆を隠せない。制作の6年間を考慮すると、「これまでの数々の作品が組み込まれている」事実は未来の先取りを意味し、この作品が異常な先見性とセンスに満ちていることが分かるはずだ。
それでいて、SFの設定の緻密さを見ると、グレッグ・イーガン作品ばりの強度を持っている。軽くSF大賞をもぎり取れるくらいのシナリオだ。冒頭にも述べたが、星雲賞(日本SF大会による参加者投票)にゲーム部門があればぶっちぎりで獲得できる。それほどのシナリオになっている。
絶対にあなたの期待を裏切らない、ということを書いてしまうと、それ自身がネタバレになってしまうので困るのだが、この記事は世の中に「十三機兵防衛圏」を広めるためのものであって、プレイする時には、ここに書かれていることはすべて忘れ、ゲーム内のすべてをありのままに受け取って欲しい。なんか知らんけどロボットがバンバンミサイル飛ばすゲームくらいの解像度で、PS4にディスクを入れて欲しい。
そして全てに打ちのめされ、高揚感に満たされて、あなたもまた、何らかの手段でこの傑作を誰かに勧める未来を期待する。