新薬史観

地雷カプお断り

大森靖子さんのアルバム「洗脳」を聞いた感想

大森靖子「洗脳」(2014)を聞いたので書きます。

 

・絶対絶望絶好調

 バックで流れているディズニーチックな、パレードチックな音楽、名前ついているんですかね。けっこうみもりんの曲に多いんだけどわからんな。とにかく、そのパレード的なやつとうまく主旋律?がかみ合っていてとても良かった。あと「人生なんて約束なんて~」あたりは歌詞が詰まっていて、非常に心地良いリズムだった。

歌詞については、タイトルにもある「絶対絶望絶好調」の3つの重なりが気になった。「きれい きもい きらい」「ボーイ ボーイ ぼーっとしてるボーイ」のように、リズム的に3が意識されているように感じる。絶対と絶望と絶好調って、正直「絶」以外に共通点がないんですよね。対義語でも類語でもない。「きれい」「きもい」「きらい」も、多分「きから始まっていで終わる3文字」という意味で選ばれているような、とにかくリズム重視な姿勢が見える(気がする)。

なので、タイトルからこの曲のイメージを掴むことは自分には難しい。強いていうなら、冒頭に「愛しているなんてつまんないラブレターマジやめてね。世界はもっと面白いはずでしょ」と挿入されるつぶやきだろうか。端的にいって愛と面白さ重視という感じになるわけだが、「ハム速」や「白血球」「地雷」など、どう考えても脈絡がないように見える(あったとしたらすごい)。なので、多分リズムを楽しむ曲なんだろう。わからん。それこそ「手グセ」で書いたような、そんなイメージがする。悪い意味ではなくてね。

 

・イミテーションガール

なんかね、イントロがすっごい内田彩のソロ曲みがあるんだよね。分かる人にだけわかればいい。

タイトルからも「模造の少女」がテーマになっているわけだけれど、全体として嶽本野ばらの少女像を強く感じた。嶽本野ばらの書く小説が死ぬほど好きだから、この曲もすごい好き。世界に「ファック」&ピースをしたり、「似合わない街」に行こうとしたり、「睨まれて」帰りたくなったり、「ぼくの世界」「ぼくだけのぼくのへや」「手首のテープをかえして」などなど、自分の世界に閉じこもりつつ、世界全体に向かって反発している様はまさにと言ったところ。

気になるのは、「ぼくが抱きしめられなかった あの子の声」「おかえり」の部分で、多分ぼくは少女なんだけれど(あるいは女装している少年か?)、あの子も少女なのだろうか。「抱きしめる」というアクションに、恋人を連想させるんだけれど、これは百合ということでよろしいのか。あと、「嫌いにならないで」「このまま死んじゃうのは 嫌」など、「あの子」を失う、あるいは失ったまま(それか何も成し遂げられないまま?)死ぬ恐怖を見るところに、やはり交際関係を思わせる。ただ、この嫌いにならないでが、本当に「あの子」に向いているのかは怪しくて、もう「あの子」は過去の人間かもしれないし、「手首のテープをかえして」は多分世界全体に向けての言葉なので、「嫌いにならないで」も世界に向けて発信しているように見えるのが難しい。

これらを考えると、この歌詞には「模造品の少女」「世界への反骨」「自分だけの世界」「このまま死にたくない」「あの子」と様々なイメージが漂っているのだが、果たして少女は何を模造しているのかというところが最も大きなポイントだと思う。

ここで、「ブサイクだった卒アル」や「手首のテープ」「からまってる」などのキーワードを見ると、おそらく過去の自分が嫌いで仕方なくて、変わろうとしている段階(「今つらい転調」もなんとなく示唆?曲自体も転調してるみたいだからただのメタ発言かもしれんが)なのかもと思う。それを踏まえると、もしかしたら「あの子」は過去の自分ではないかと、ふと思った。つまり、「ぼくが抱きしめられなかった あの子」というのは、愛することが出来なかった過去の自分ということになり、「おかえり」という声は、過去から今に向かって「変わらなくていいんだよ」「変わるのってつらいでしょ」みたいなニュアンスにもとれる。でも「このまま消えちゃうのは嫌」なので、過去の自分から変わろうと悪戦苦闘している感じなのかなと。

それで肝心な「模造」だけれど、これはもしかしたら「自分ではない何か」全般に対しての模造なのかなと。他のものに変わるためには何か参考になるべきものが必要なので、そういう意味で、ありとあらゆるものに模造している少女という歌詞になっているのかなと思いました。この解釈には自信がありません。

もっと個人的にしっくり来るのが、序盤でもちらりと言った「女装している男の子」で、「ぼくがあつめてきたフィギュア」に微かな男の香りがする。あと、「似合わない街」というのは、個人的にファッション的な似合わなさを連想していて、そういう意味で女装しながら歩く街、街の人々は自分を睨むという画ができるように見える。まあこれはゴスロリを着る少女でも成り立つんですが。

でも、イミテーションガールというからにはやっぱり何かを模造している必要があるわけで、女装はその最も足る物じゃないですか。あくまで男は女になれず、模造するしかないという。個人的には、この解釈が一番しっくり来ますね。合っているかは知りませんが。

 

・きゅるきゅる

めっちゃメロディーが好きだ。ライブですっげえ楽しそう。

この曲は別に解釈とかしなくても十分魅力が分かる。

「愛しているからできることなんて そんなに多くはないのよ」という部分で、「あ~そうかもな~」と思った。普段ほのうみという最強カップリングに触れているので、愛があれば何でもできると思いがちだが、案外そういうわけでもなく、好きだからといってそんな何でもほいほいはしないよなと現実的な目を持った。好きな言葉。

一つ気になるのが「水色のレイディー」で、なんとなく今までピンクを少女のカラーとして捉えていたので、同じパステルカラーの水色も似たように少女を表す色なんでしょうかね。別に伏線ってわけじゃないけれど、水色、ピンクについては覚えておきたいところではある。

 

・ノスタルジックJ-pop

曲と歌詞のギャップがすごく気持ちいい。メロディは王道、泣かせにくる気迫を感じるのに対して、荒れたさりげない生活が息づいている歌詞が非常に良い。

端的に言えば、セフレの関係だったけれど、もうなんかそういう「ちょうどいい関係」に疲れて、ふつうに安定した暮らしと愛情が欲しい女性の曲ですね。

自分を「多目的トイレ」という表現が非常に良いし、相手を「知らない有名人」とするのも楽しい。歌詞に楽しいが溢れている。

ただ、「消化器はいらない」「せんせいあたしパーなんです」というのが、果たしてどういうことを示しているのかはうまく掴めなかった。臓器売買(まさか)? あるいはよく食べ物を恋愛と関連付けているから、愛情を解する器官ということだろうか。「パー」というのは、きっと望み薄な関係をずっと引きずってしまう脳内のお医者さんに向けての言葉だとは思うが、わりかしここらも、言葉の響きが楽しいので深く考えなくて良い気がする。素直に良い曲だと思う。

 

・ナナちゃんの再生講座

ん~言葉遊び!今までもそういう曲が多かったから言葉遊びが好きなのかなと思っていたけれど、こうもがっつりと来ると笑ってしまう。なんの講座なのか全くわからんかったけどまあええやろ笑

 

・子供じゃないもん17

め、メロディ好き~~~~!

オタクが大好きなメロディマジで勘弁してくれ、すごい好きだ。女子生徒が男性教師に迫る曲ですね。この「先生って生徒のことイヤらしい目で見てるんでしょ~クスクス♡(GODではない)」って感じにあふれた歌詞、好きです。先生と女子生徒ものということで、「ハナマル☆センセイション」というガチを思い出した。そっちの方も曲が最高なんですよね。どうも自分はこういう曲に弱いのかも。

 

・呪いは水色

前に書いた「水色」がさっそくタイトルに出てきてびっくりした。「きゅるきゅる」では水色が悪者扱いされていたが、やっぱり大森靖子さんは水色に悪いイメージを持っているのだろうか。どっちも同じパステルカラーなんだけれどね。なんとなく曲調的に桑田佳祐に歌って欲しい気がした。大森靖子さんに失礼かな。ただ歌って欲しいだけなんで許してほしい。歌詞の解釈はやや難しく、「夜を越えても」に強い力を感じるのだけれど、タイトルは「呪いは水色」なんだよね。

 

・ロックンロールパラダイス

「30分だけスターになりたい」という感情は、おそらく誰にでもある感情で(多分)、よくライブ行って「あの舞台の上からの景色や声援はどんな感じだろうか」「コーレス楽しそう」と思ったりするし、実際にそれを夢見る演者さんも多いんだが、まあ、それに見合う美貌や技量、それを手にいれる時間と労力を考えるとやっぱいいやってなる。

で、この曲はそういう願望を歌ったのかと思うと少し違っていて、 どうやら自分は「君」を救いたいらしい。ひとりの人間の生を救ってあげるためだけに「30分だけスターになりたい」という願望は、「今の自分では君を救えない」という諦めと、「スターならきっと君を救えるはず」という希望が入り交じっていて切実だ。スイカの1000円チャージ、プールみたいなお風呂の我慢ときて、そのためなら一生をかけてもいいという急に重い言葉を用意することで、ちょっと照れて恥ずかしいながらも、本気でそう思っているのが伝わってきて、なんというか等身大の切実さを感じる。そういう曲でした。うまいなあ。こういう曲。

 

・私は面白い絶対面白いたぶん

 ん~~~~~ごちゃついていてあまり好きじゃないです。でも最後の自動ドアの下りは「えっ、そうなんだ」って思っちゃったな。そうなんだじゃないが。

 

・きすみぃきるみぃ

「1g 300万」「1リットルx3」でもそうだけど、やっぱり3という数字が好きなのかな。母音が「an」だから韻踏ませやすいのもあると思うけれど。

曲としてはゆったりとしていて、言葉の開き方「きすみぃきるみぃ」と適度に力の抜けたカタカナ「チェンマイ」「ラタトゥイユ」「エコポテチ」、「飲み過ぎだyo あたしんち oideyo」などなどで、なんとなくほろ酔いの気分を思わせる。純粋に人恋しくて自分の家に来て欲しい女性の姿がうまく表現されていて、結構好きです。

 

・焼き肉デート

 歌うのくっそ難しそうな曲だなというのが第一の感想。メロディー自体はかなり好きな部類。イントロとアウトロたまらん。「いつかしずかなとこで2人だけで話したいね」に全てが詰まっていて、要するに「ただの大人数のうるさい焼き肉」を無理矢理デートと解釈する女の意地の曲ですよね。これでもかというくらいに自分に脈なしの情報をぶち込んできて、ラブレターを渡す勇気もなく、明日こそは頑張るという後ろ向きな気持ちが切実で良かった。途中のラップは焼き肉中の会話に心のなかで突っ込みを入れているような感じなのだろうか。あまり分からんが、まあ全体としてのリズムがとても楽しかったので良かったです。

 

・デートはやめよう

 「焼き肉デート」のあとにこの曲を置くのはいいですね。このアルバムのなかで唯一うまく良い関係を築けているカップルの曲じゃないですか。完全に自分の弱みを見せきった甘えた感じ、自分を着飾らなくてもいい感じ、相手の弱みを見せてほしいなど、深い関係特有の空気がある。「デートはやめよう」と言えるその関係こそいいよねという。まあ、自分はデートなんてしたことありませんが……。

 

・おまけ~スーパーフリーポップ~

単純に聞きやすく、心地よくて好き。でも、特別これといったものはないかも。おまけという名前に頭があまり働かなくて良いモードになっているのかな。

 

以上。全体をひっくるめて「洗脳」というタイトルだが、その意味を掴むのは難しいかな。リード曲があるならわかるんだけれど。

個人的に好きだった曲は、「イミテーションガール」「きゅるきゅる」「子供じゃないもん17」「きすみぃきるみぃ」「焼き肉デート」かなあ。

次もなんかアルバム聴こうと思います。