新薬史観

地雷カプお断り

【ネタバレ注意】TENETの解説とか考察とか難癖とか感想とか

TENETを見た。2回見た。

公開初日にIMAX、そして今日4DXで鑑賞した。

2回目はボロボロ泣いた。マジで。

2回見て気がついたが、この映画、初回とそれ以降でガラリとジャンルが変わる。

難解SF映画から、人間の意志や友情について目が向くようになる。

少なくとも自分はそうだった。

絶対に2回は見た方が良い。

 

以下、解説考察難癖感想と非常にごちゃついていて申し訳ないのだが、いずれにせよネタバレを多分に含む。未視聴者や、これからいろいろ考えたい人は見ないようにしてください。ちなみに、映画の解説としては、パンフレットがめちゃくちゃ助けになる。とはいえ、あれだけでは足りないところも当然あるので、自分が気になった作品のシーンとか構造とかについていろいろ考えていきたい。

 

 

 

まず、作品内の重要な言葉の意味について。

-----------------------------------------------------------

エントロピー】(分かる人は飛ばしてね)

エントロピーとは、熱力学の概念で、乱雑さのことである。

よくあるエントロピーの例として、「温度によって別々に分けられた2部屋」が挙げられる。

ここでの温度とは、「粒子の速度」と考えてもらって問題ない。

温度が高ければ粒子の速度は早いし、温度が低ければ粒子は遅くなる。

身近なイメージとしては、氷と水蒸気がある。

まったく動かない水分子は氷に、ビュンビュン飛び回る水分子は水蒸気に、その間にある速度のものが水となる。

ここで、温度で分けられた2部屋を想像してほしい。

真ん中には壁があり、片方の部屋は熱く(空気の粒子がビュンビュン飛んでいて)、もう片方の部屋は冷たい(気体ではあるが、粒子はそこまで動かない)。

では、この壁を取り払うとどうなるか。

当然、時間が経つとそれぞれの粒子が混ざり、冷たい部屋にも速い粒子が、熱い部屋にも遅い粒子が入り、どんどん両方の部屋の粒子の速度は均一になっていく。

これが、「エントロピー(乱雑さ)の増大」である。

この乱雑さは、決して減少することはない。

例えば、40℃のお湯が100L入っている湯船に、同じ100Lの2℃の水を入れたとしよう。ザブザブしっかり混ぜて、完全に混ざった状態にする。おそらく温度は20℃くらいになるだろうが、さて、この200Lの湯船から100Lを取り出すとして、完全に40℃、或いは2℃の水を取り出すことはできるか、という問題である。もちろん何度でも試行して良いが、おそらく無理だとわかるだろう。

実際にこれ(エントロピーを減少させること)が無理であることは、過去に偉い人がいろいろな数式で証明している。かの「熱力学第二法則エントロピーが増大する方向に物事が進む)」である。

※豆知識

実は、もしこれ(エントロピーを減少させること)が可能なら、という思考実験がある。「マクスウェルの悪魔」と呼ばれるこの悪魔は、ひとつひとつの粒子の速度(温度)を完全に認識し、速度ごとに瞬時に壁を開けたり閉じたりするのだ。結果として、悪魔は完全に2つの温度が混ざった状態(エントロピー大)からでも、温度によって分けられた2部屋の状態(エントロピー小)を作ることができるのである。

なぜこの話をしたかと言うと、カーターが何度も口にする「契約した悪魔」とは、恐らくこの「マクスウェルの悪魔」を指しているから、という小ネタである。世界全体をエントロピーが減少する方向に進めることができる悪魔とは、マクスウェルの悪魔以外にあり得ない。

 

-----------------------------------------------------------

【時間とエントロピー

これは映画でも言われているので詳しくは書かないが、ようするに、

エントロピー小(例:手にした銃弾、新品の皿、40℃のお湯と2℃の水)

から

エントロピー大(例:落とされた銃弾、割れたお皿、混ざった20℃の水)

の方向に時間が進むというものである。

間違えてはいけないのは、時間とエントロピーで、先にあるのがエントロピーである。

エントロピーの大小があって、初めて時間が生まれる。

現実世界では、エントロピーが大きくなる方向に時間は進むのだ。

しかし、もしもエントロピーを減少させることができれば――マクスウェルの悪魔がいれば、時間は逆方向に流れることになる。それが「逆行世界」である。

自分たちは、「皿は割れるもので、割れたものがひとつに戻るわけがない」と経験的に知っている。①綺麗な皿→②割れた皿という順序以外あり得ないから、この方向に時間が流れる(ように信じている)のだ。

しかし、もし②→①の流れが実現すれば、「割れた皿から綺麗な皿が生まれる」という概念が当然になれば、時間の流れは逆転することになる。逆行世界の人間からすれば、この時間の流れが正しいことになり、地球の歴史はどんどん巻き戻されることになるのである。

-----------------------------------------------------------

 

 

さて、これまで簡単に解説したが、エントロピーと時間の概念が分かっていれば、作品の流れも容易に理解できる。

【作品の構造について】

複雑な話に思えるが、登場人物が何をしているのか、というのは比較的わかりやすかったように思う。

今回のストーリーを簡単に説明していく。

まず大前提として、今回の映画は第三次世界大戦について描いている。

世界大戦といっても、国と国との戦いではなく、未来と現在との戦いである。

何故未来から攻撃されなければいけないのか。

→環境破壊によって、未来人は地球と人類に未来がないことを悟ったから。

・食糧問題と環境問題を解決するには、住処を移すのが手っ取り早い。

・それでは何処に住もうかと考えても、他の星に移るための宇宙航空技術はない。

・地球はすべて開拓されていて、行き場がない→このままでは未来人は全員死ぬ!

さあどうするかと未来人が悩んでいたところ、ある科学者が、物質のエントロピーを逆転させる技術を生み出した。先述したように、エントロピーの逆転は、実質時間の巻き戻しである。しかし、皿のエントロピーを逆転させるくらいでは、人類の生存には何も意味が無い。

地球そのもののエントロピーを逆転させることが大事なのだ。

そうすると、環境汚染してきた歴史は逆再生され、どんどん地球が綺麗になっていくのである。枯渇していた石油も、どんどん戻るようになる。「石油を燃やしてエネルギーを得る」というアクションが逆になり、「エネルギーを取り出すたびに石油が生まれる」ということになるのだ。

そのうえ、逆行が順行ということになり、第三次世界大戦を行う未来人たちにとって、時間の流れは非常に有利なものになる。なぜなら、この時間の反転により、現代人はあたかも「逆行の世界にいるように感じる」ようになってしまうからだ。

(※とはいえ、実はこの辺りの解釈は自信がない。作中の話を拾うに、どうも装置を起動させた場合、未来人だけは逆行世界に耐えることができ、現代人は即死するらしい。即死は言い過ぎにしても、恐らく現代の動物はすべて窒息死するだろう。まあそこはいいのだが、生き残るのは未来にいる生物だけ、というのが納得できない。アルゴリズムを起動しているのは現代なのに、なぜその時に存在しない未来が話に出てくるのか。アルゴリズムを起動させた時点で、未来は存在せず、代わりに過去が「未来」になると思うし、そうなった場合、未来人の姿は何処にもないはずである。もし現代で起動して、未来でアルゴリズムが作動するのなら、その時空間を越えた通信技術が絶対に必要になるはずだ。仮にその通信がうまく行き、なんらかの手段で未来を起点に地球が逆行したとしても、逆行人類は「うんこを肛門から吸収して食物を吐き出しエネルギーを得る」ことになるのではないか。それを未来人は受け入れるだろうか、などなど疑問は大量にある。理解不足なのかなあ)

まあそれはそれとして、人類が生き残るためにはこの手段しかない!と未来人は思ったわけだ。そして、実際に世界そのものを逆行させる「アルゴリズム」の開発に成功したのだが、開発者はそこで思い悩むのである。

「逆行して過去の人間から資源を奪うのはいいけれど、自分たちの先祖を殺したら、その子孫の俺たちは死ぬのでは……?」

至極当然の悩みであり、それが作中でも言われた「祖父(親殺し)のパラドックス」である。ただ、この作品ではこの問題は放置されている。「未来人は、祖先を殺しても俺たちは死なないと信じている」というニールの言葉で決着がついている。

しかし、勿論そうは考えない人間もいて、開発者本人がまさにそうだった。こんなアルゴリズムを起動するのはヤバすぎる!と思ってか、9つに分解して、最も安全だと思われる「過去の核保有施設」に隠したのだ。

保有施設が安全である理由は、作中でも述べられているが、冷戦当時、「核」が戦争の抑止力になっており、最高機密だったからである。

(※ここで想像してほしいのが、この「過去の核保有施設」にアルゴリズムを隠した人物の存在である。話によると、数世代先の未来人との戦争が第三次世界大戦だった。一世代は30年で、数世代を3世代と置くと、およそ90年先の未来人に目をつけられたことになる。この大戦の起源は、当然「地球全てを逆行させるアルゴリズム」の開発と同時だと考えられるので(ないものを基準に作戦を立てることはできないので)、90年後の未来人が、10代のセイターに「アルゴリズムについての情報」を送りつけているのだ。現在のセイターを40代とすると、現在から30年前ということになる。

つまり、未来人は現在に辿りつくまで90年、さらに10代のセイターにたどり着くまで30年の、合計120年(!)を遡っていることになる。

作中でも書かれていたが、この逆行装置はタイムマシンではなく、逆行装置を通り、逆行世界にいた時間だけ過去に遡れるというものである。10日前に行くには、逆行世界で10日間を過ごさねばならない。

そう考えると、未来人は120年間も逆行世界にいたことになる。

つまり、本作に至るまでの話の流れとしては、こういうことになる。

アルゴリズムを開発した博士「地球を逆行させるアルゴリズム作りました」

未来人A「お、それ使ったら現代人を殺せるやんけw」

博士「それはいけない。おい、君たち。今からこのアルゴリズムを分割して、昔に隠してくれ」

助手ABC「何年前ですか」

博士「90年前」

助手ABC「ひえ~」

未来人A「おい、博士はアルゴリズムを過去に隠したみたいだぞ。俺たちも過去でアルゴリズムを回収できるやつを探さないと」

未来人B「そうだな。時代と立地的にも、このセイターってやつに託すのが良いのでは」(←どうやって調べたのかは謎)

未来人A「よし、じゃあお前達。この資料を10代のセイターに届けてくれ」

未来人CDE「何年前ですか」

未来人A「120年前」

未来人CDE「ひえ~」

だいたいこんな感じである。

現代に帰って来れないのは当然として、生きている間にセイターに辿り着けるかも怪しい。なんなら、逆行しながら子孫に代々アルゴリズムを渡したとか、そう言う話になってくる。自分はこれにはあまり納得できない。戦争を仕掛ける側の未来人が1世代先という設定でも、セイター側は片道60年になるし、なかなかどうしてすごいことですよ)

で、ここまで書くと「セイターである必要性は?」「本当に120年も遡るのかよ」とかいろいろな話が出てくると思うのだが、まあひとつ考えられるのは、未来人がウン十年前の人間に作戦か機密事項か権利書かを記した書類を、セイターだけでなく、いろんな時代の、いろんな人間に渡していた、という筋書きである。これはどういうことかと言うと、大きな根底にあるのは量子力学の「エヴェレットの多世界解釈」だ。

これは、「ありとあらゆる平行世界が存在しているが、それらはそれぞれ消えることもなく、ただ存在している。その世界線にいる人間が他の世界線を認識できないだけで、いろんな世界線が確かに存在している」というものである。

ややこしくなってきたが、もう少し踏み込む。

実はこの解釈は、作中で何度も言われる「起こったものは仕方ない」という台詞の説明にもなる。「無知が武器になる」「過去に戻ってアクションをすれば、現状を変えることはできる」などの要素もあったが、要するにこの作品では、

・過去で起こった事象は、それ自身が消えることは絶対にない

・過去の事象へのアクションは、過去の事象の取り消しではなく、その事象からの分岐となる

・上記の意味で、無知(未来や分岐を知らないこと)は、その分岐の可能性を多様にする(という点で武器になる)

ということである。理解できただろうか。

要するに、「この映画はひとつの世界線に過ぎない」のである。

このストーリー以外で、セイターではない誰かがアルゴリズムを集める役目を担ったかもしれないし、名のない男の代わりに、別の誰かが選ばれたかもしれない。

が、起こったことは仕方ないのである。

現時点で起こっている事象は、決して消える訳ではない。過去に戻ってはアクションを起こし、別の世界線に少しずつ分岐していくだけである。そうして、過去と未来が形づくられていくのである。

 

以上のことを纏めると、今回の話は恐らくこんな感じになる。

①セイター・名のない男が関わらない世界

アルゴリズムを開発した博士が過去にアルゴリズムを分割して隠す

博士の行動を読んで未来人が過去の人間を選ぶ

→セイター以外を選ぶ 他の世界線

→セイターが選ばれる ①’へ

 

①’セイターが関わる世界への分岐

セイターは資金を稼ぎ最強になる

様子を把握した博士側が、過去の人間で信頼できるものをTENETとして組織し、セイターを阻止するために兵を募集する

→名も無い男以外が合格する/誰も合格しない 他の世界線

→名も無い男がテストに合格する→ ①’’へ

 

①’’セイターと名のない男が関わる世界への分岐

ここにきてようやく、作品の世界線の大元にたどり着く。それを示しているのが、【TENET】のタイトル表示である。名もない男が薬を呑んで死を覚悟した瞬間、TENETと画面に表示される。あれこそが、名もない男が「未来でTENETを組織することが決定した」瞬間でもあるのだ。

ならば、それ以前にオペラハウスで、名のない男をニールが助けてくれたという時系列はどう説明されるのか。

この辺りの理解は難しいと思うのだが、個人的には、過去と未来の挟み撃ち戦略だと思っている。「TENET」のタイトルもそうだが、Nを起点に、丁度未来と過去から「TENET」になるように工夫されている。これと同じ現象が、この物語でも起こっているのだ。

より詳しく説明すると、この宇宙にはありとあらゆる世界線が存在している。ひとつの区分として、第三次世界大戦が起こる、最初と最後がTである世界「T○○○T」があり、ちょうど振動する弦のように、最初と最後を結ぶ過程が無数の選択肢をとっている①の世界がある。

次に、セイターが決定された時点で世界は「TE○ET」となり、或いはこのとき、振動する弦の中程を押さえると両端が揺れるように「T’E○ET’」となる。これが①'の世界。(T'はTとは少し違う世界線の分岐。Eが入るための帳尻合わせ)

最後に、名も無い男が薬を呑んで、この男の登場が確定する。これが「N」である。さっきと同じように揺れる弦の真ん中を押さえるので、「T"E'NE'T"」となり、これが①"の世界となる。このNが入ったことにより、TとEは揺れる。つまり、Nが入るための帳尻合わせが起こるのだ。

当然、端が揺れれば真ん中も揺れる。真ん中が揺れれば――というように、この揺れては止めて、という作業は何度も続き、その分岐がまた平行世界になる。そして、この振動が止まることは決してないのだ。

自分たちが映画で観た「TENET」も、そういう意味では「TENE'T」くらいのものだと思う。(最後のシーンで、キャットが息子を手にした新たな世界線に変化しているし、恐らくまた振動によって過去も変化する)

なんとなく理解できただろうか。

挟み撃ち作戦のように、両端からNを決定するのである。

まあ、この解釈自体個人的なもので、特別何かを根拠にしているわけではないのだが、自分のなかではこれが一番しっくり来ている。

そうでなければ、名もない男が「自分が主役のはずでは」「あなたは主役じゃないのよ」というやりとりをしないと思う。主役という単語は真ん中を思わせ、「TENET」のNを彷彿とさせる。タイトルの入るシーンも、名のない男がTENETという組織に組み込まれた瞬間を指し示している。

異論は認めるが、これはこれでアリではないだろうか。

あとの作品の流れは、パンフレットを読めば十分理解できると思う。

 

と、ここまで考察して、もうTENETの謎はないかなあと思ったりするのだが、それはそれとして気になっている部分があるので、是非他の人の意見が聞きたい。

それが、最後のキャットのシーン。子供と一緒に帰って、新しい現実になって良かったねとなるが、あの男が渡した電話を持っていたということは、あそこにいたのはセイターを殺したキャットのはずである。名もない男は、素性を隠してニールを雇うまでこっそり一人で生きていくから、元の時間の自分と出会うこともないだろうが、キャットはガッツリ息子と会っている。しかし、あの時間にはキャットがもう一人居るはずなのだ。

もうひとりのキャットは何処に行ったんだ……。

 

ごちゃごちゃした文章になってしまったが、自分が書きたいことはそれなりに書けたと思う。何かコメントあればください。

 

【最後に】

なんか堅苦しい文章ばかり書いてしまったけれど、映画としてはすごく人間味に溢れた最高の映画だったと思う。

なんと言っても、2周目に観るニールの良さったらもう、すごいよ。最初にインドで顔見せられた瞬間にボロボロ泣いてしまった。この二人の友情の始まりと終わりが反転しているのが切なすぎて。あんなに美しい友情なのに……。どっかのサイトでカサブランカのオマージュだって言ってて「それか!」ってなった。

あと、未来の自由な自分に憧れるキャット。セイターの束縛を受け入れていたキャットが、男とのふれあいによって、最後に(そして最初に)自由になるという構図が良すぎて、そこでも泣いちゃった。

あ、ニールがキャットの息子説は、割とあると思います。名もない男が未来でニールを雇う際に、キャットを救うためという動機にもなるので。でも、それにしてはニールと男の関係は暖かすぎるので、もっと良い未来の思い出があるのではないかと思ったりもしています。

あと、最終的に作品のテーマは、やっぱり自分の意志で未来を作っていく力ですかね。今回は未来を作ると同時に過去も作ることになるけれど、いずれにせよ、物語の主人公になるためには自分の意志で、自分の力で動くことが不可欠で、そうして初めて成功や自由を手にする事が出来る。そういうメッセージもあったと思っています。

とにかく、話したいことに尽きない最高の映画でした。

絶対に2回は見た方がいいですね。マジで。