新薬史観

地雷カプお断り

吉屋信子「わすれなぐさ」感想

フォロワーに誕生日プレゼントで送ってもらった本……自分はお返しに酉島伝法の総集編を送りました。未読ですが……。

 

百合(少女)小説の原点かつ最高峰として名高い吉屋信子だが、自分は「花物語」でスゲ~!ってなったくらいで、これは読んだことがなかった。反省している。

文章の綺麗さというか、台詞が昔の女の子の口語そのものなのか、あるいは創作のうえでの言葉遣いなのかは判断できないが、本当に昔は美しい言葉を使っていたんだなと。

今みたいにメールやLINEがないから、と老人のようなことをいいつつ、対面以外では手紙でしか自分の意志を伝える方法がないというのは、不便ながらもめちゃくちゃいい時代だったなと思う。何しろ手書きだし、何しろ自分の言葉だし。自分はこのブログのおおよその記事のように、いいものを見ると感想を書かずにはいられない。というのも、感想をかかねば自分の意見をまとめることができず、文字を挟むことでようやく思考が整理できる(それが正しいのは分からないが)ような人間だから、文字にはかなり興味があるのだ。Twitterみたいに有名人の文章を気軽に読むこともできず、憧れの人の安否を知ることもできず、好きな人一個人に対しては、自分から動かないことには、なにひとつ情報を得る手段がないという時代。そんな時代だからこそ、感情の振れ幅が大きくなるというのはあると思うし、大きなイベントがないからこそ、人と人が出会った時の衝撃が大きくなる。

吉屋信子はそういう百合を書いていて、オバケや機関銃が出るわけでもなく、ただガールミーツガールで作中の人物の運命が、世界には小さく、個人には大きく変わる様を描いている。

本作の登場人物として牧子、陽子、一枝の3人の主要人物がいるのだが、この3人がこれまた非常に魅力的で面白い。特に陽子の行動力、精神の美しさは目を見張るものがあり、物語を動かす駆動力になっている。陽子が動きすぎるあまり、少し一枝の掘り下げが微妙だった部分もあるようには思うが、終わりにかけての3人の行動の描き方が本当に良くてびっくりしてしまった。

一応、牧子をめぐる三角関係ということも言えるのだが、個人的には、牧子を中心とした「女性の自立」をテーマにした小説という風にも読めるように思う。まだまだ男尊女卑の精神が根強かった時代に、この作品を産み落とした吉屋信子の力強さは賞賛に値すると思う。あと、エンターテインメント性も確立されているため、百合にあまり興味がない人にとっても、非常に面白く読めると思う。オススメです。

プレゼントしてくれた某フォロワーに感謝。まあ自分がおくった本も良書には違いないのだけれど、流石に方向性が違いすぎて申し訳なくなってきたな……。