新薬史観

地雷カプお断り

虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 第11話感想

狂いました。

スクールアイドルフェスティバルについて

どの会場にも、いろんな人の想いが籠もっている。侑は何かひとつを選べないということで、全員の夢を全部叶えようとするワガママなお祭りを企画する。
非常に面白いですよね。まさに侑の存在を体現するかのようなお祭り。
ここでも、「何かひとつを選ばない」という虹ヶ咲の精神が生きているんですよね。まあこれが「たったひとりの私を選んでほしい」歩夢をさらに追い詰めることになるんですが。


歩夢と侑の心情・関係描写まとめ

この回は、演出の伊礼えりさんがすごい技を使っている。もう暗喩ぶちこみまくりである。気がついた範囲で書いて行きたい。

・歩夢の「私も手伝うよ」から見せる一連の表情
歩夢はみんなで叶える夢に興味が無いので、「私も手伝うよ」というのは、せめて侑の隣で手伝いをしたいという意味なのだが、侑からは、歩夢はアイドル側で、ステージに専念してほしいと指摘される。この時、歩夢がかすかに諦めの笑みを浮かべた心情についてはやや難解なのだが、おそらくせつ菜が、歩夢の気持ちを代弁しようとして、「私たちだってステージを作りたい」と言ったところで、「それは違うんだけどなあ。私が支えたいのは侑ちゃんだけで、みんなと違ってステージには興味がないんだよ」ってあたりの諦めの笑みな気がする。あるいは、「やっぱり、みんな侑ちゃんのことが好きなんだね」「私の居場所(侑ちゃんのサポートがしたい)を奪おうとしてくるんだね」あたりも多少はあるかもしれんが、後者はやや敵意があるので、これを選ぶのは危険に思う。ただ、歩夢の心理状態はかなり限界を迎えているので、ないとは言い切れない。

・歩夢が手にしているカップの外側を流れる結露。
ここら辺はすでにツイッターで言われていたのでみんなも知っていると思うが、外側(同好会のみんな)と内側(歩夢)のスクフェスへの温度の差について表現している。

・バス待ちまでの交通標識「歩行者専用」
これに関しては意味というより、イメージとしての力が強いように思う。二人で手を繋いでいる、という絵が、歩夢と侑の束の間の意思疎通を示している。あるいは、歩行者(歩む=歩夢)専用道路というダジャレも成立しているが、それはちょいダサい気がするので多分没。バスが来た瞬間の歩夢の曇り顔がかなり辛い。

・焼き菓子同好会の作った歩夢のクッキー
これ、完全に頭から抜けていたんだけれど、そういえば歩夢にもファンがいたんだよなと。これは12話で歩夢の自信獲得に使えるかもしれないので、記念記録。こういう手駒もアリだなという感じ。

・りなりーが食べた、ピンク色の部分だけ欠けた虹のクッキー
これは確かに不穏なんだけれど(虹のピンク色=歩夢だけが欠けている)、少し冷静になって見ると、同好会の推しのメンバーのために作られたクッキーを、フェスのサイトを作っているりなりーが食べる。またそのときに話されているのは、フェスのことを友達にもっと話してもいいですか、というもので、文脈としては「フェスをもっと拡大しても良いか」というものになる。で、クッキーを食べて美味しい(=スクールアイドルへの肯定的な感情、ファンの応援への肯定的な心理)が描かれているのに、そのモチーフであるクッキーが、歩夢の負のイメージと結びつくのかな、というところに違和感を覚えた。まあ逆に考えると、何もかもがポジティブなイメージで作られたカットなのに、歩夢だけが欠けて物語が進んでいる、という描写では確かに効果的かもしれない。でも、その欠けさせた人間がりなりーであり、なおかつそのクッキーが美味しいというのに、「歩夢が欠けた!」と考えるのはやりすぎかなと。例え制作側が意図していても、よくないと思う。それなら最初から、「失敗して上の部分だけ欠けちゃって……」という風にやればいいのであって、歩夢の欠損を璃奈に負わせるのは違うと思う。ここはやや解釈違い。
また、後半部分でも、改めて完成品を見せてくれるというシーンがある。こちらの虹は一切欠けてはいないため、やはり虹の欠けで歩夢の離反をイメージさせるというのは悪手に感じる。絶対にたまたま齧った部分がピンクだっただけ。

・ランニング中に歩夢が侑を見かけるシーン
カメラの動きがすごい特徴的で、ラブライブ!でまったく見ない動き方をしている。多分電車に乗っている時とか、街中で歩いているときにでも、「たまたま好きな人とすれ違った」ような、ラブコメに多い動かし方で(個人の感想です)、そういう意味でも、歩夢から見た侑の視線が恋愛的なものを示唆していると考えても良い気がする。
まあカメラまったく勉強したことがないので、これは戯れ言です。

・パスケースを見ながら眠りにつくシーン
ここが本当に良くて、全てに疲れ切った歩夢が、ようやく手にした安堵の地という意味合いが大きい。二人の約束の象徴であるパスケースを見ながら眠りにつく行為は、自分が願う世界への逃避を意味していると思う。つまりここでは、侑と二人きりの世界に行きたい、昔に戻りたいというような夢を願っており、実際に侑に起こされたことで満たされるという構図。「侑ちゃんなら待っててくれるでしょ」「うん、そうだね」というやりとりには、自分は本当にそのままの意味が込められていると思っていて、きっと侑はその言葉に偽りなく、歩夢のことを待つんだろうなと思ってしまった。なおこの見方については特別な根拠はありません。

・「せつ菜ちゃんとは一緒に帰らないの?」のシーン
まだ仕事があるから帰れない、という台詞に歩夢はすごく安堵する。ここでは歩夢の独占欲が描かれるわけだが、逆に考えて、「なぜ侑はせつ菜を待たなかったのか」という点も考えるべき。つまりここには「歩夢には出来て、侑には出来なかったこと」が書かれていて、上の話と照らし合わせて、「侑ちゃんなら待っててくれるでしょ」「うん、そうだね」との齟齬が生まれる。つまり、ここで2通りの解釈が出来て、
①侑は誰かのために待つことが出来ない(約束を守れない、発現に責任がない)
②侑は歩夢のためになら、本当に待つことが出来る
というものである。
自分はこれからの解釈も含めて②を推すのだが、これは何を意味するかと言うと、侑からせつ菜への感情の否定であり、侑から歩夢への感情の肯定である。つまり、歩夢に出来て侑に出来なかった理由は、「相手のことを本当に思っていなかった(やや恋愛的な視線で見ていなかった)から」だと言い切ることが出来る。これが、ラストの侑の食い気味の否定と繋がってくる、と自分は思う。

・交通標識で「分かれ道」を示唆される二人
まあ、はい。特に語ることはないです。これまでも散々言われてきたことなので。

・ついてくるせつ菜と逃げ場のない歩夢
歩夢の辛そうな表情が、現実に逃げ場がないことを示唆している。一人になりたくてもなれない、どこに逃げても侑の周りにいる人間が何も持っていない自分を追い詰めてくる。
また、ここに来て、せつ菜と侑が自分が分からない「スクールアイドルへの熱」を共有している点に歩夢は切り込む。その熱を侑と共有できないことが分かっている歩夢は、その事実を受け入れながらも、自分を追い詰めていく。さらに自分が知らないピアノについても言及され、ますます侑が自分から遠のいていく。

・フルカウントの赤信号
歩夢の逃げ場のなさの象徴

・脱ぎ散らかされた靴、ついていない部屋の電気
精神が摩耗した状態で帰ってきたことの表れ

・緑に光る非常口
たまたまだろうが、侑(緑)の隣こそが歩夢の唯一の逃げ場であることを示唆

・揺れる視線と侑のピアノ
視線の揺れ方が、2話で見たかすみん回のような感じで見ている人間を不安にさせるやつ。なんという技法かはしらんが、見るものに歩夢の不安感を共有させる効果があると思う。知らんが。

・侑の腕で隠れる歩夢の顔
今までも何でもやられてきたところだが、表情が見たいところでまったく見せないというのはかなり怖いことを再認識した。狂う。

・「せつ菜ちゃんの方が大事なの!?」「違うよ」
これは二重の「違うよ」がある。ここに今後の全てが書かれているので、慎重にフォローすべき。
それまでの会話をしっかり追うと、以下のようになる。

侑「(ピアノを見て)少し前から練習しているんだけれど、全然うまくならなくて。あのね、歩夢に話そうと思っていたことがあるんだ。ただ、自分でも自信が持てなくて、もっと弾けるようになってからって思ってたら時間経っちゃってさ」
歩夢「それって、ピアノのこと?」
侑「うん、それもあるんだけれど」

まずここまで。そしてこれまでの事実関係の確認として、
侑:せつ菜にピアノを弾いているところを知られたのは、まったくの偶然。本当は誰にも教えるつもりはなかった。
歩夢:侑とせつ菜は、スクールアイドルの大好きで繋がっているもの同士で、スクールアイドルが分からない自分をのけ者にして、こっそりピアノについて話し合っていると勘違いをしている。
ここを押さえていて欲しい。では台詞を見ていく。

歩夢「それって、ピアノのこと?」
侑「うん、それもあるんだけれど」

まずここで、「それもあるんだけれど」という時点で否定がされている。ここに齟齬があり、歩夢が聞きたいのは「何故侑はピアノを始めたことを黙っていたのか(大好きを見つけたことを教えてくれなかったのか)」なのに対して、侑が言いたいのは「ピアノを始めた話ではない」ということになる。なぜなら、侑にとって、ピアノを始めたことは手段であり、目的ではないからだ。
どういうことかと言うと、上の台詞を追えば分かる。

侑「(ピアノを見て)少し前から練習しているんだけれど、全然うまくならなくて。あのね、歩夢に話そうと思っていたことがあるんだ。ただ、自分でも自信が持てなくて、もっと弾けるようになってからって思ってたら時間経っちゃってさ」

ここで、何故「歩夢にだけ」言うのか、というところがある。そして並べられた「自信が持てない」「もっと弾けるようになったら」などの単語から察するに、侑はピアノを手段とした、新しい何かを始めようとしていることは自明である。
では何があるかということだが、
①みんなの曲の伴奏(作曲)をしたい
②歩夢の曲の伴奏(作曲)がしたい
③自分でソロでステージに立って、ピアノのプロになりたい
などが挙げられるだろう。で、ここから「侑はみんなと同じステージに立つか」ということを考えると、自ずと③の選択肢が消えるだろう。
また、①②の伴奏ということも、同じステージに立つという点で侑の存在意義が崩れるため、誤りである。つまり、ここでいうとこころの、本来侑が歩夢に言いたかったことは「ステージで頑張るみんな(歩夢)のために曲を作りたい」以外にあり得ないのではないかと考える。
ここで、「歩夢にだけ言うのだから、歩夢の曲を作るはずだ!」と軽率に行きたいところだが、第一話を思い返すと、歩夢が初めて自分の夢を語ったのが侑であるという構図を考えると、侑が初めて自分の夢を語る相手もまた、歩夢である必要がある、ということに異論はないだろう。つまりこれだけの情報では、侑が歩夢のために曲を作るとは言い切れない。むしろ、「誰も選べない」侑だからこそ、みんなのための曲をつくると考える方が納得がいく(自分はそうは思わないのだが……)。

ひとまずこの点は脇に置き、さらに話を進めると、

歩夢「どうしてせつ菜ちゃんには教えたの?私には言えなくて、」
侑「え、なんでせつ菜ちゃんが出てくるの?」
歩夢「せつ菜ちゃんの方が大事なの!?」
侑「違うよ」

というやりとりがされる。
ここで「なんでせつ菜ちゃんが出てくるの?」という侑の疑問はもっともで、侑からすれば、一話のように、まだピアノの腕は未熟で恥ずかしいけれども、幼馴染の歩夢にだけは自分の夢を話したくて部屋に呼んでいるのだ。
なので、「せつ菜ちゃんの方が大事なの!?」という歩夢の言葉は全くの見当違いであり、その噛み合わなさゆえに、
①「(そういう話とは)違うよ(私は歩夢と自分の夢の話をしたいんだよ)」
②「(せつ菜ちゃんの方が大事というのは)違うよ(歩夢の方が大事だよ)」
の二重の意味を持っているのだ。その重なりが、食い気味の否定に繋がっているのである。
後者に関しては、その後の侑の笑顔が語っていると思うのだが、ここは難しい。個人的解釈の向きが強い。
ただ、ここでの「違うよ」と笑顔の意味合いでさえ、意思がすれ違っているのである。
一旦リセットされた会話ではあり、歩夢も安心したのだが、侑は①を語りたくて歩夢を読んだわけで、あくまで話の流れは①に基づいている。
しかしながら、歩夢からすれば、侑の「違うよ」と笑顔は、②の意味でしか語られていないと判断しているのだ。だから、再び侑が①の話をしたところで、何も解決していないとパニックになってしまったのである。

・挟まれる脚と重なる携帯
いずれも歩夢によって、侑が無理やり押さえつけていることを示す。

・上に挙げられたまま行き場のない侑の右手
歩夢の気持ちを計りかね、受け止めることができないでいる。

以上。

 

今後、どのようにすれば上原歩夢は救われるのか?

さて、ここまで見てきた中で、歩夢と侑の約束における決定的なディスコミュニケーションこそが、今回の原因であるとわかったのだが、みんなが気になるのは「ここからどうすれば、歩夢は救われるのか?」という点に尽きるだろう。

これに関しては、自分の中では解釈が固まっていて、侑が歩夢の曲を作ればよいと考えている。
そもそも、チラリと書いたが、自分は侑の夢は「スクールアイドルのみんなを作曲で支えること」だと思っている。
で、自分はここに続きがあると思っていて、第一話のように
「でも、私はまだ未熟で、みんなの曲が作れるかはわからない。だから、まずは幼馴染の歩夢の曲を一緒に作っていきたいんだ。それでもいいかな?」
という流れではないかと考えているのだ。
歩夢が未熟ものだからとパスケースを渡したように、侑もピアノの未熟者として、歩夢に歩夢だけの曲を渡すのである。
つまり、ここで言われていることは、侑から歩夢への約束の履行に違いなく、決してスクールアイドルがどうのこうの、というものではない。あくまで幼馴染のなかでだけの会話がされているのだ。
これについては、侑から歩夢への感情の理解はともかくとして、侑は侑なりに、ずっと歩夢のことを気にかけていたというところが根拠となる。侑はずっと歩夢にかわいいと言い続けてきたし、「放課後に歩夢のことをずっと待つ」ことにも同意をした。
侑は世間一般的な幼馴染の関係よりも、ずっと深い立場にあるわけで、今回のディスコミュニケーションの原因は、ただ歩夢の自己肯定感の低さをちゃんと把握できていなかったこと、それだけに違いない。
故に、侑にとっても歩夢は第一の存在であるはずだし、「誰も選べない、何処も選べない」という選択肢の問題は、あくまでスクールアイドルに関連した話に限ることであり、それは歩夢の話とは別レイヤーであり、下位にあるものだと考える。
つまり、ゆうぽむのオタクという色眼鏡もあるだろうが、侑が歩夢の曲だけを作るという状況は十分にあり得る選択肢だと言うことだ。

そこを踏まえた上で、その作曲により歩夢がどう動くかを考える。歩夢が本当に求めているのは、「侑ちゃんだけのスクールアイドルになること」である。言い換えれば、「侑と2人きりの強固な関係性を結びたい」のである。同好会のみんなと侑が一緒にいても、苦しい思いをしないだけの繋がりを。
また、ここには歩夢の自己肯定感の低さもあると述べた。歩夢は自分に何もないのに、侑が「大好き」を見つけ、自分とは違う段階に進むことに、殊更強い恐怖を抱いている。

問題を整理すると、
①歩夢は侑と唯一かつ強固な関係を望んでいる。
②侑だけが先に進んでほしくない

この2点である。このいずれかが欠けても、歩夢は完全に満足のいく救いにならない。
で、自分が考える「侑が歩夢のために曲を作る」というアクションについてだが、これが実現することで両方は達成させると考える。
まず①については、歩夢のためだけの曲という点で唯一性がある。歩夢のために、歩夢のことだけを見て、一番に歩夢に作った曲ということであれば、歩夢が歌うたびにその関係性を自覚することができ、なおかつ自分の曲という点で唯一性がある。これは、後から他のメンバーの曲を作っても、決して侵されない領域である。また、歩夢は侑と強固な関係を望んでいるが、決して歩夢は侑と交際関係に至りたいとは明言しておらず、2人だけの世界を求めているというところがある。
で、この2人だけの世界という概念も、侑以外の他者を見ることで(または侑が他者を見ることで)、歩夢の自己肯定感の低さ、劣等感を覚えてしまうという論理に基づくところであるから、同時に②を解消する必要がある。

そこで、②の侑に置いていかれたくないという感情だが、逆を考えれば、歩夢が侑に追いつけば良い/自分の自己肯定感を高めればよい、という話になる。
そこで、①により得られた侑との曲を手にし、ステージに立って歌うことで、歩夢は、初めて自己のファンの存在を自覚することが期待される。歩夢にはファンがいるのだから(焼き菓子同好会のひとり)、それを自覚することで、自分が侑以外から必要とされることを認識し、自分が外の世界と繋がっていることに気づけば良いのだ。
そうすることで、歩夢は①と②を同時に満たし、侑への気持ちを曲げることなく、一歩前に進むことができるのではないだろうか。

 

以上、これまでかなり長くなってしまったが、自分が11話を見て思ったことの大体が書けた。個人的な解釈が非常に多く、12話は自分の理想とはまた違った形にいきつきそうだが、この映像を作れるスタッフなら、もう何を出しても正解みたいなところがある。
座して待つ。