新薬史観

地雷カプお断り

遠山えま「ひゃくえん!」感想

marshmallow-qa.com

 

マシュマロを頂いたので読んだ漫画作品。

これは個別に感想を書くべきだと思い、改めて筆を執る。

 

浪費家の百(もも)と、倹約家の円(まどか)が同居しながら貯金し、二人の夢を叶えようと奮闘するストーリー。百は原付の免許を取る、円はドイツにいるおじいちゃんに会うために、それぞれ10万円と100万円を貯めようとするのだが、まあなかなかうまく行かない。百は親から仕送りをもらった瞬間にほとんどを使い切るし、円は親からの援助を一切受けずにバイト代だけでなんとかしているので、そもそも貯めることが出来る金額が少ないのだ(当然百よりかはずっと多いのだが)。というわけで、貯める金額が一桁違う彼女たちだが、目標までのペースはだいたい同じ感じで、歩調がうまく噛み合っている。

と、ここまでならなんてことない貯金漫画なのだが、問題は百合としての要素が強すぎる点にある。本当にめちゃくちゃ好きですこれ。ほのうみの話になって申し訳ないのだけれど、この漫画はほのうみが好きなオタクなら全員ハマると思う。それくらい親和性が高いし、めっちゃおんなじツボを突いてくる。これがね、百合豚の凝りに凝った性癖に効くんですわ……。

 

とか言っても、殆どの人に「ああ、はいはい。お前は何でもかんでもほのうみに当てはめすぎなんだよ」と言われてそうなので、証拠としてこの漫画の一部を抜粋して、個人的にかなり良かったストーリーを紹介したいと思う。

 

・第3円目

百と急接近したお嬢様の京華にもやもやし、敵意を向ける円。友人からの「もしかして焼き餅?」という言葉に顔を真っ赤にして全否定する円。(ここまではよく見る展開)その日の終わり、百の夢が、「二輪の免許を取る」から「二輪の免許を取って、後ろに円を乗っけてあげる」に更新されていることに気がつく円。

↑これマジでなんなんですかね? やきもちに対しての救いが強すぎる。

 

・第6円目

せっかく貯めた10万円を無くす百。みんな総出で夜遅くまで探すが見つからず、「しょうがないよ。また稼げばいいじゃん」という友人の言葉に作り笑いを浮かべる百。友人が帰った後で、寝ようとする百に、円は「もう一回探すぞ。大事なお金はな、また稼げばいいってものじゃないんだ。とことん付き合うぞ、百」と語る。思わず声を上げて泣く百。

↑ここが本当に良くて、(10万円という金額の多寡はともかく)他人にとってお金はお金でしかないのだけれど、この二人にとっては貯金が二人の共同節約生活そのものと結びついている。いわば、貯めたお金がそのまま二人で過ごした時間を示しているわけで、その苦楽が染みこんだお金を絶対に見つけ出そうという円の気持ち、これもうめっちゃいいですよね。この二人にしかないお金の価値なんですよ。しかも、もしここで百のお金が見つからなかったら、自分のお金をあげようとすら決意する円。その根底には「百にはやっぱり笑顔で居て欲しいから」ってのがあって、自分の夢よりも優先される同居人の笑顔なんて、そんなのもう大好きじゃん!!!!!頭がおかしくなる……。

 

・第10円目

広い銭湯に入っているのに、いつもの癖で円の隣にくっつく百

↑単純に推しカプがくっつくの性癖なのでやめてほしい(やめてほしくない)。

 

・第15円目

百が新聞配達のバイトをして一気に貯めたお金を貯金箱に入れるとき、わざわざ円の手を取って、「私が貯金するところ見てて!褒めて!」といわんばかりの笑顔(台詞はない)を円に向ける百。その意図をしっかり汲んで、百の頭を撫でてあげる円。めちゃ嬉しそうな百。

↑これ!!!!!!!!!!!!!!ほんまに何!?ガチで狂いそうになった。犬か?褒めてほしそうな顔をするな、その笑顔、いやマジでさぁ……何? 良すぎる。

 

・第16円目

風邪を引いた円のために、友人一同こぞってお見舞いにくる。お高い夕張メロンなんかも送ったりする人もいるなかで、百はお金がないけど、ナースになってずっと側で看病してあげると約束。

↑お金(節約)のために集まった二人が、お金(価値のあるもの)とは違うものを渡すことで満足し合っている関係が強すぎる。これほのうみでもあるんですけれど、海未のために穂乃果がなけなしのお小遣いをためて数百円のジュースを奢ってあげるという話があって、なんというか、そういう自分のダメなところを理解しながらも、自分にできる精一杯を出して、なおかつそれで相手も満足する関係に弱いのかもしれない。それで許し合えるのが良いというか、許してもらえるのが分かって甘えているのがいいと言うか。

 

・第19円目

些細な味の好みで別居にまで発展した二人。あんな奴と同居していたのだから、他の誰とも同居できる!と言って、百も円も、それぞれ友人の家で生活させてもらうことに。結局二人はお互いが恋しくなって家に帰ったところでばったり出くわすのだが、円は素直になることはできずに、解約のための鍵を百に渡そうとする。百が堪えきれずに泣き出し、「円じゃなきゃやだっ」「円がいいよぅ」と円を抱き締める。円も「私だって同じだ~っ!」と抱き返す。家に戻り、「アレとアレ取ってくれ」で通じる会話に「最高の相性じゃないか」と笑顔になる円。

↑これ本当に同居ものならテンプレなんでしょうけれど、それにしても王道はやっぱりいい物で、お互いがお互いの居心地の良さを実感するってのがすごく胸に来る。泣きそうになってしまった。しかも、この二人のすごいところは、幼なじみ百合しか会得できない「アレとアレ」を既に身につけていて、実質幼なじみの属性を帯びているんですよね。すごいことですよコレ。同居の力強さを感じた。

 

・第21円目

男と待ち合わせして、バイクに乗っけてもらう百を目撃し、タクシーに乗って追いかけてしまう円。

↑あのね……そういうところが大好き。うんうん、気になって追いかけちゃうよね。

 

・第23円目

ガチの留年の危機なのに、遊んでばかりいる百に対し、円は怒って勉強会をするぞと言う。結局百のペースに乗せられ、勉強もせずに何故かコンビニで爆買いしてしまうのだが、楽しそうな百を見て「こりゃあダメだな……。まぁいいか……留年しても私が面倒見れば……」と考える円

↑自分が何を言っているか理解しておられます????????????お前は百のなんなんだ??????????????

 

・第25円目

今までサンタが来たことがないと話す円のために、自分がサンタになってあげようと寒空の下でバイトを一心に頑張る百。結局お店がしまっていて、円が欲しかったものをバイト代で買えずに、家でガチ泣きしていた百を帰宅した円が見つける。「円のサンタになりたかったのに無理だった……ごめんねぇ……」と泣く百に、「馬鹿だな。百が一緒に居てくれるのが最高のプレゼントだよ」と返す円。すると百は「えっ!?私がプレゼントでいいの!?超タダじゃん!」「やったー♡ あげるあげるーっ♡ 一生面倒見てーっ」と抱きしめ円を押し倒す百。

↑この話、本当に良すぎて涙が出ちゃった。ていうか、言葉遣いといい場面といい、マジでSIDほのうみ感があってもうめちゃくちゃに大好きな話。そうやって気軽に「一生面倒見て」って言える関係がさあ、本当に……俺は……。ああ苦しい死んでしまいたい。

 

・第28円目

実は円はとある財閥の令嬢で、許嫁がいて……という展開。円を連れ去った円の父親に対して、百が言った台詞が「そしたら誰が私の面倒、一生見てくれんのーっ!?」

↑ギャグシーンなのだが、実は割と百は25円目の台詞を大切にしていたってのが大好きポイント。端から見たらお馬鹿で、緩い約束なんだけれど、本人からしたら切実なんですよ。その少女同士の約束ってのが本当に好き。

 

・第29円目(神回)

これについて、簡単にあらすじを書くのは戸惑われる。絶対に漫画で直接あなたの目で見て欲しい話。28円目の次話ということで察してほしいのだが、この話を読んだ瞬間に自分のなかでこの漫画が忘れられないものになってしまった(王道ではあるんだけれどね)。マジでめっちゃいいです。オタクが大好きなものをめちゃくちゃに詰め込んでいる。ここに来て二人の馴れ初めをぶち込んでくるっていう演出もうまいんだよな……。マジで最高ですよ。

 

・第32円目(番外編)

これは友人である兆子の話なのだが、兆子一家の生き方がめちゃくちゃに気持ちよくて大好きな話。端から見たらただのケチなんだけれど、そこにはちゃんと人のため、大好きな誰かのためという思いがあって最高。兆子のことが大好きになる。

 

・第38円~最終円まで

ここで一気に括ったのは、ここから一気に終わりに向けて物語が展開していくからだ。この辺りに関しては、ひとつひとつの要素を拾うよりも、全体を見ながら受け止める方が良い。ここまでいろいろ話を開示してしまったが、肝心のラストをネタバレするとなると、いよいよ作者様に申し訳ないのでおおまかに。

二人の節約生活がどのように終わりを迎えるかと言うと、互いが夢を叶えるタイミングを手にした時である。それは二人の同居の終わりを意味し、あるいは関係の変化をもたらすのかどうか、という話になってくる。

で、自分がこの作品を読んで良かったと思ったのが、まさにこの物語の帰結のさせ方で、ここまで百合文脈で物語を綴っているのに、まったく性的な関係を思わせなかった手腕がすごい。関係性においてよく言われる、友情は恋愛と比べて上下はない、恋愛が最上位ということはない等々の文言が、非常に巧く表現されている。この物語において、百と円は、ただ互いに離れがたく思っていて、自分たち以外に同居できる人間はいなくて、二人だけがお互いを支えることができるという点に尽きる。それ以外の何物でも無いのだ。

非常に面白いのが、考えれば考えるほど、これが百合なのか分からなくなるところだ。自分としては間違いなく百合なのだが、要素を拾っていけば百合なのかが分からない。社会に敵対する関係でもなく、純粋に(互いの身体を)求め合っているわけでもない。ただ、同居の時からの「約束」は効いていて、ここは自分のなかの百合観(二人だけの世界で完結している些細な約束)に合致している。けれども、この二人については約束というより相性がぴったりという方が強い気がして、それが自分を、百合より友情の方に分類したがらせるのかも知れない。

 

・まとめ

ひゃくえん!」は、自分も名前を聞いたことがない漫画だったのだが、これはもっと周知されるべき作品だなと思った。昔は、今ほどオタクの百合レーダーの強度が強くなかったこともあり、数年前の作品になると、「思えばあの作品は百合だったな」という感想が散見される。「ひゃくえん!」はきっとその類いのもので、今連載していれば、きっと、もっとオタクに騒がれていた作品ではないだろうか。

特に、SIDのほのうみの関係性が好きなオタクには、絶対に性癖にクる関係性が描かれていると思う。ほのうみに出会う前にこれを読んでいたら、俺は一生百円に狂っていたのかもしれない……。

何はともあれ、マシュマロ主さん、素敵な出会いを有難うございました。

気になった方は是非読んで見てください。