新薬史観

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平田オリザ「火宅か修羅か」「南へ」「この生は受け入れがたし」観た!

最近いろんな映像作品を観ているのだが、普通に観るペースが速すぎるのと、二次創作を久しぶりにやってしまったので感想記事が追いつかない。後々書いて行こうと思いますけれど、実はウマ娘にはまったこともあり、かなり時間がない。ひえ~。頑張って書いて行きます。

で、今回は忘れないうちに今日観た平田オリザの作品の感想をメモを書きます。

今日観たのは3作品。全部図書館でVHSとかいうオーパーツを扱ってようやく観れるものなので、非常に手間がかかる。あと画質が悪すぎる!逆にこの数十年で技術はとても向上したのだなあと感心せざるを得ないわけです。自分は資本主義がかなり嫌いなのですが、こうして年月を越えて文化作品に触れることができるのも、すべては資本主義のお蔭ですので、私なんかはもう資本主義に足を向けて寝られない訳ですね。ああ有り難や有り難や。

閑話休題

 

「火宅か修羅か」

実はこれを観る前に平田オリザが何を意識して舞台を制作しているかという映像を観ており、それがめちゃくちゃ強く反映されているなあと感じた作品。具体的に言うと、①あえてふたつにグループを分けて別々の会話をさせる②台詞が聞こえなくなってもいいので声を被せる③めちゃ脱力して演技するあたりだろうか。ここらへんが所謂「現代演劇」の特徴らしいが、確かに西洋の作品(まあ自分は本場の舞台なら「レ・ミゼラブル」くらいしか観たことがないが)に比べて静かだし空気や時間を極限まで現実に近づけている。ここらへんの試みは西洋で生まれた演劇を作法というものを日本の文化に基づいて再構築するような試みらしいのだが、見事にその仕事は果たせているなあと感じる。

でも、これが正直あんまり面白くない。結局どこまでも忠実に現実に基づいているわけだから、「作られている」という空気がない。自分はこの作為性を「虚構っぽい」というフレーズでかなり雑に解釈しているのだが、後の舞台にも共通して言えることとして、どこまでも虚構っぽさが見当たらない。虚構っぽい作品が大好きな自分からしたら、平田オリザのつくる演劇は、ちょっと相性が悪いのかもなあと感じた。

なんというのだろうか。虚構っぽさがないからこそ、自分は作品に切実さを感じることが出来ず、ゆえにだらりと受け流して観てしまう。それが平田オリザの狙った演劇のスタイルなのかもしれないが、自分はこのスタイルだと「作品を真剣に観る」という行為が封じられたようでかなり困る。実際に自分はこの作品を「旅館での知らない人たちの一日を切り取っただけの作品」というように感じられ、原作にあるだろう登場人物の葛藤を丁寧に汲み取ることが難しかった。確かに、僅かに崩れる台詞の間(ま)や距離感、表情(画質が荒くてかなり厳しかった!)の変化や声の調子からは感情の機微を感じ取ることは可能である。ただ、どのように変わったかというより「変化した」という事実そのものを受け取るに留まっている感覚で、かなりむずがゆい。ここらへんに関しては、自分の作品を鑑賞する態度にも関わってきそうな問題なので、感想を確定する前にもうちょっと平田オリザの作品を鑑賞することにします。

 

「南へ」

これは現代社会(バブル当時!)への皮肉がしっかり効いていて良かった。自分は人間が嫌いなので、人間の愚かさが描かれた作品を好きになる傾向がある。この作品に出てくる人間は、みなバブルに浮かれて、金にものを言わせて人種差別や労働者差別をばんばんやる。それが愚かしいということがしっかりわかる作りになっているので、前作よりかは面白さが分かったし、観ていて楽しめた。けれども別に心に残るわけでもないし……う~ん。やはり受容体がズレているのかな?

そういえば思い出したけれど、前作と本作で強烈な空気の読めないキャラを演じていた渡辺香奈さんが印象に強く残った。彼女は平田オリザが想定する「ニュートラルな身体」からめちゃくちゃ外れている演技をしているように思うのだが、恐らくあれでゴーが出ているということは、あの強烈さが渡辺さんのニュートラルな姿なのだろう。すごいヒトだなと思った。

 

「この生は受け入れがたし」

青年団弘前劇場の合同公演。これは割と好きだった。「寄生虫学者」と「東北」という「普通(かなり意図的に使っています、東北民の方ごめんなさい)」から逃れた二つの属性が合わさった環境で起こる生活描写という点でかなり面白い。実際にインタビューを観るとここの差異を出したいと考えられていたそうだし、それがしっかり作品に反映されていて良かった。その差異の識別を可能にしている、東北弁と標準語(やや訛り)を使い分ける演者さんの演技がすごすぎる。かなり卓越した技術ではないだろうか。話自体も、普通の人は恐らく知り得ない寄生虫の知識がふんだんに盛り込まれており(自分は寄生虫が好きなので8割方知っていた)、飽きずに物語を追えると思う。一方で、寄生虫のもつ「寄生」という概念と、人間が謳いがちな「共生」という概念の対比が露骨に表現されていて、そこが面白くも残念だった。確かに視点としては面白いのだけれど、この誘導は作為的だし、虚構っぽい。でも平田オリザが目指している日常生活らしさが極限まで求められていて、事実それが成功しているのだけに、自分からすると「現代演劇」がブレているようにしか思えなかった。なので全体を通して考えると微妙。面白かったんですけれどね。ギャグなんかは結構笑った。

 

感想は以上。とりあえずは図書館にある平田オリザの作品を全部見ようと思っているので、いつになるかは分かりませんが、代表作の「東京ノート」や「ソウル市民」も観ることになると思います。面白い(というか自分に平田オリザ作品の受容体が備わっている)ことを願います。