新薬史観

地雷カプお断り

本日6年間通い詰めたラーメン二郎を退店しました

本日を以て大学入学と同時に入店し、6年間通い詰めたラーメン二郎某店から退店しました。

自他ともに退店しそうにない人だと認めていた私がなぜ退店することに決めたのか、自身の振り返りの意味も込めた退店エントリです。

嘘です。

なんだよ退店エントリって。

こう書くとまるでラーメン二郎に居座り、6年間も寝泊まりをしていたゴジラ級の迷惑客だったかのような書き方になるのですが、退職エントリの退職に対抗すべき単語が「退店」以外になかったもので、このようなかたちになりました(?)。

そもそもなぜ退店(単に足が遠のくという意)することに決めたのか。

引っ越しするからです。終わり。

 

なにかしら続けて二郎系で内部告発するような捻くれた文章を書きたかったのですが、別に二郎にイラついたことはなく、そもそも自分は二郎内部に属する人間ではなく、ただの客なので何も書くことはなかった。

なので僕と二郎との思い出を書こうと思います。

 

思い出、あるいは二郎についてのエッセイ

①ファーストコンタクトは最悪だった。友達に半ば騙されるかたちで連れてこられ、山盛りのラーメンに度肝を抜かした。店前で吐くのをなんとか堪え、「二度と来るか!」と友人に毒づいた翌週には一人で二郎に並んでいた。DVされるヒトの気持ちとはこのようなものだろうか。誠にヒトの感情とは奇々怪々なものである。

 

②いまは昔、「habomaijiro」あり。

彼はかつて、全国に展開する任意の店舗の二郎を毎日食べ、独特な言語表現で二郎の感想を書き記し「ラーメン二郎を食っているだけで」3万人近いフォロワーを獲得した伝説の人物である。この文体は「habomaijiro」構文と言われたり言われなかったりし、今もなお二郎の感想構文として使用されている。多分。

さて、ご存じかどうかは知らないが、二郎とは一杯食すだけで2000キロカロリーはくだらないと言われる恐ろしいカロリー爆弾である。それを毎日食べる人間が体調を崩さないわけもなく……。

開始してからおよそ1年、彼は更新を途絶え未だに沈黙し続けている*1

ちなみに彼の初ツイートはコレである。

驚くべきことに何も感想を書いていない。

さて、同時に彼の(インターネットへの掲載の)初めてが西台駅前店であることも分かるのだが、その後しばらく同じ店舗が続く。このため、デスノート初期のLの名推理である「最初にデスノートで死んだ人間が日本人だったからキラも日本人だろ」理論を援用し、自分は勝手に「habomaijiroは西台駅前店近郊に住んでいるだろ」と推理している。

だからなんだと言う話だが、要するに自分は(そして当時の二郎オタクは)ネトスト紛いのことをする程度には彼の影響を受けていた。

皆がhabomaiチルドレンと言っても良かったのではないだろうか。俺だけなのか?

というわけで、2016年の自分は彼が「完飲。」というからあの濃いスープ(汁)を完飲するようになったし、「ウンメ~!」と言うから「ウンメ~!」とツイートするようになった。おかげさまでめちゃ太りました。

 

③二郎行脚の旅が始まる

二郎に嵌まると、何故かいろんな店舗に行脚をしたくなる。どうやら音ゲーマーも同じような指向を持ち合わせているらしく、たまに流れてくるツイートで「ゲーセン行脚」なる単語を見て「何処でも出来る音ゲーのために旅行するのは気持ち悪いな~」と思っていたのだが、まったく他人のことを言えた身ではないので心を改めました。ひどいこと言ってごめんなさい。

さて、二郎は全店舗の8割くらいが関東に存在するので、地方住みの自分はアイドル声優やアニメ系ライブのついでに二郎に顔を出すようになり、おかげさまで8割方の二郎は制覇することが出来た。地元より関東の地理に詳しくなったので良かったです。

最終的にはアイドル声優のライブ無しに飛行機に乗って関東の二郎(確かこの時は府中店)を食いに行き、友人と酒を飲んで帰るようになった。これも良かったです。

 

④二郎を自分で作ろうと思う

何かと自分でやりたがる人間なので、先人の知恵も借りて二郎を手作りすることにした。というか、そのときの記事を書くためにこのブログを始めたのだが、あまりに熱が籠もりすぎて3万字近く書いて満足して公開することなく消しました。このブログに残っているものはすべてその燃えカスです。

それは置いといて、二郎で使われている麺を製麺するためには手動の製麺機(現在は製造中止されているので、基本中古での購入)が必要なんですよね。なのでそれを購入したり(最初に買ったヤツはボロ過ぎて使い物になりませんでした)、業務用の粉を買ったりまあいろいろやって作りました。家二郎。家で作る二郎だから家二郎です。

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これが手動の製麺機。やればわかりますが、生地が硬すぎてパスタマシーンだと確実に壊れます。

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肉 部位は忘れた。多分肩肉

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初めて作った家二郎

はい。ちなみに味は格別の一杯……と言いたいところですが、二郎に関しては大量の豚や豚骨ゲンコツ、ニンニクをしっかり溶かし込んだスープを大容量で作れるかどうかに全てが掛かっているので、家で食うより(大人数を想定した)店で食ったほうが絶対に良いです。何より手間が掛からないしコスパが良い。良い思い出にはなるけれど。

ちなみに自分はこの話を役員面接で話して御社から内定をもらいました。

 

⑤年明けに開店凸を狙う

あれは確か1月の4日か5日。二郎はだいたいこれくらいの日に年始営業を始めるわけだが、自分はある年にとち狂い「絶対に誰よりもはやくこの店舗で二郎を食う!」と心に決め、キンキンに冷えた空の下、午前6時から列に並んだことがあった。営業は11時からなのでおよそ5時間前に並びはじめたことになるのだが、当時の自分は「ジロリアンとは恐ろしいものだ」という強迫観念があったことから「もしかしたら朝6時には自分と同じような考えの人間がいるのでは?」と考えてしまい、めちゃ早起きして並びに行った。誰にも「今年のいちばん」を譲らせたくないという強い想いがあってのことだったが、並んでから2時間は誰も来ず、8時ごろになってようやく店員が現れ「えっ!?なに、もしかして並んでるの?」「はい」「やばいね君! まあ開店まで死なずに頑張って」という会話を交わし、野菜や豚の業者が続々と店舗に商品を搬入していくのを眺めながら、虚無で立ち尽くしていた。

2番目の客が来たのは9時半のことである。まったく以て無駄な3時間半を過ごした訳だが、まあこういう日があっても悪くない。

そして開店すること11時、ようやく入店し着丼したラーメンに手をつけようとしたのだが、あまりの寒さに手が完全に凍えてしまい、熱いラーメンの丼を持つことが出来なかった。割り箸を持つことすら不可能で、手が震えて全く力が入らないのだ。自分はこれ以降、朝一番に並ぶことを辞めることにした。つまらないプライドは捨てましょう。

 

⑥二郎を直前で拒否られる

何としてでも二郎を食べたい時がある。自分はその日、ラボのミーティングでめちゃくちゃに疲れており、「二郎を食わなければならなかった」。これはカミュ『異邦人』で、ムルソーが太陽の日差しのせいで殺人せざるを得なかった衝動と非常に似ていると思う。

その日の自分は二郎を食わざるを得なかった。何故二郎を食いたいのかと聞かれると「太陽のせい」だと答えただろう。

そんな心持ちで二郎に向かい、並んだ先でゲラゲラ笑っている高校生二人組から「あ、なんか今日は僕らで終わりみたいッスよw」と言われた時の気持ちがあなたに分かるだろうか。自分は発狂に近しい衝動を覚え、そのときの怒りをひたすらTwitterの鍵垢で吐き出した。内容は主に全く悪くない高校生二人や社会および政治経済に向けてのものだったが、自分はその陰鬱なツイートを驚くことに1時間近く続けていたことに後ほど気付いた。

途中で半泣きになりながら、二郎と関係のない普通のラーメン店に入った。二郎と全然味が違っていて泣いた。

 

⑦早食い二郎対決

オタクと二郎に入店したとき、早食いバトルが勃発する。これはポケモンにおける「トレーナーの目と目が合ったらバトル!」と同じ原理である。オタクが二郎に入店し、隣同士の席についたら早食いバトルが始まるのだ。

そんなわけで何年間かバトルをしていた自分であるが、当時はボロ負けしていた相手にも次第に勝てるようになり、なかなかの速度が身につくようになった(二郎の早食いはマジで太るので辞めましょう)。

一度、圧倒的速度を決め込んだことがある。基本的に2ロット(ひとかたまりの注文のこと、およそ5~7人ごとに麺をゆでる流れや回転のことを言う)が同居する店内において、自分は2ロット目の最後にマシマシをオーダーして誰よりも早く完食をしたのである。これはウマ娘に例えると、出遅れが発生して10バシン差の最後尾だったのが、途方もない大差しで1着になるようなものである。実際に店内はざわついた。マックや電車コピペに近いものを感じるので、どう捉えてもらっても大丈夫です。

というわけで自分は井の中の蛙になっていたのだが、この前二郎インスパイア店で行われた早食い対決の様子を見ていると、自分よりバカ早い人間がうじゃうじゃいて(これが努力型と天才型の『差』かあ……)とプリパラ2nd seasonのみれぃの気持ちになり、二度とイキらないようにしようと思いましたぷり。

 

⑧戦線離脱するオタクと私

時は過ぎ2020年とか2019年になるのだが、自分と同じように二郎が好きだったオタクと勝手に早食い対決をしていると、自分が圧勝して終わったことがある。そいつはなかなかの強敵だったため、ついに自分もここまで来たかとほくそ笑んでいたのだが、彼は二郎から出て突然「俺、もう無理かもしれねえ」と口にした。何がと聞くと、「二郎が」ということである。

「もう、昔みたいに食えねえ。速くも食えねえし腹がキツい。歳だ」

それは事実上の引退宣言であった。

このときの感情をどう表現すればいいだろう。自分と同年であるはずの彼は歳を迎え、俺だけ歳を迎えていないこの現象をなんと名付けよう。ウラシマ効果とでも言えばいいだろうか。確かに彼の足は最近二郎から遠のいていた。しかしながら、自分は毎週のように玉手箱のごとき二郎の湯気を顔に浴びている。歳を取るべきは自分ではなかろうか。そうでなくてどうして自分だけが若くあり続けているのか。なぜ自分だけ未だに「二郎で早食い対決だ!」なんて盛り上がれているのだろうか。

俺は坊やか。

そうなのだと思う。

その日は二人で黙って帰った。途中で「俺はこっちだから」と言って、彼は静かに角を曲がった。

 

⑨最後の二郎

もう日付が変わるが、今日は最後の二郎納めだった。

 

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令和3年3月20日土曜日、ラーメン二郎札幌店、ラーメン全マシ800YEN

最後に店主にひとことだけでも挨拶をしようかと思ったが、助手二人の構成だし、そもそも自分はただの客だということを思い出すと何も言えなかった。6年間も通ったとは言え、ラーメン二郎は客と店主が最後の言葉を交わすような空気の店ではないし、仮にそういう空気だったとしても、自分は陰キャなのでそういうのは自分から言わない。

ブログには書くけれど。

勝手に二郎を知り、勝手に二郎に狂わされた6年間だった。普通の飲食店では味わえないような経験と味覚を二郎は自分に与えてくれた。巷はシンエヴァが話題で、「俺たちもエヴァから卒業か」という感想が散見されるが、正直自分は二郎からの卒業の方が感傷的になってしまう。いつしか二郎の感想に「habomaijiro」構文を使わなくなったことを思い出したり、「完飲!」とか言って真面目にスープを全部飲まなくなったことを思い出す。思えばあの当たりから、自分の二郎の卒業は着々と秘密裏に進んでいたのかもしれない。

別にまた来ればいいじゃん、とは思うのだけれど、引っ越し先には暖簾分けの二郎がない。「暮らしの側に二郎がない生活」というのは、これまでの生活とはまったく違うかたちになるだろうと思う。ふとした時に二郎が食えない。なるほど健康になって大変喜ばしいことではあるのだが、そうやって健康を気遣いだしたあたりで、着実に自分は大人に向かっているのだろう。

さらば、すべてのエヴァンゲ二郎。

引っ越し先の駅のホームでたたずんでいる僕。

見知った女性が僕に手を伸ばす。その手を取る僕、健康のために走り出す僕たち。

あとは実写の空撮で終劇である。

 

長い間くそお世話になりました。

*1:実は本人ではないかと言われているアカウントは見つかっているのだが、本人である確証はなく、habomaiチルドレンとみるのが妥当だろう