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『パリタクシー』クリスチャン・カリオン【ネタバレ感想】

※この記事にはネタバレがあります。未視聴の方は十分お気をつけ下さい。

クリスチャン・カリオン『パリタクシー』(2022)91分、フランス

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<あらすじ>

無愛想なタクシー運転手シャルルは、金も休みもなく免停寸前で、人生最大の危機に陥っていた。そんな折、彼は92歳の女性マドレーヌをパリの反対側まで送ることに。終活に向かうというマドレーヌは、シャルルに次々と寄り道を依頼する。彼女が人生を過ごしたパリの街には多くの秘密が隠されており、寄り道をするたびに、マドレーヌの意外な過去が明らかになる。そしてそのドライブは、いつしか2人の人生を大きく動かしていく。

映画『パリタクシー』公式サイト|2023年4月7日(金)公開

 

【総合評価】7.5点(総合12点:全体10点+百合2点)

【作品の立ち位置】

オールタイム・ベスト・コンテンツ(10<x)

ガチで大事にしたい作品(9<x≦10)

積極的推し作品(8<x≦9)

オススメの手札に入る作品(7<x≦8)

まずまずな作品(6<x≦7)

自分からは話をしない作品(5<x≦6)

オススメできない作品(x≦5)


【世界構築】2点 (2点)

パリの街を走るタクシードライバーに期待する映像(パリの街並み)が思う存分に撮れており良かった。一番印象に残ったのはラストの回想のなかのマドレーヌとアメリカ軍人とのダンスシーンで、ここの二人への照明の当て方がちょっと異常レベルに素晴らしかった。ピエール・コットローという方が本作の撮影監督なので覚えておきたい。とてもよい映像だった。

 

【可読性】1点 (1点)

飽きずに見ることができた。


【構成】1.5点 (2点)

運転手の無愛想なシャルルが陽気な客のお喋り、というより自己開示に付き合ううちに自分のことも話して心を開き唯一無二の友人になるという流れは、もう681274489334478823回くらい映画で見た筋書きだが*1、過去と現実の織り交ぜ方も良く、テンプレというかお手本のような仕上がりだった。ただ、最後にシャルルが身寄りのないマドレーヌの遺産101万ユーロ(日本円で1億5000万円)をがっぽり相続する終わり方が良くなかった。金に困っている伏線や旅に出ろというシャルルからのメッセージも布石にはなっているものの、流石にテンプレすぎるし、おまけに金額がデカすぎて笑ってしまう。そこまではとても良かった流れだけにうーんという感じ。

 

【台詞】0.5点 (1点)

特に響いたものはない。

 

【主題】1点 (2点)

本作はラストのせいで「困っている老人を助けたら遺産を貰えるかもよ?」みたいな感じになってしまい、非常に道徳的な作品に落ち着いている印象を受けた。話の本筋はマドレーヌにとっては最後の(そしてシャルルにとっては家族以外ではかけがえのない)一日の思い出作りという素晴らしいものであるのだけれど、金に困っている人へ「旅をするにはデカすぎる金」を報酬として与えてしまったばかりに、どうしてもメインのメッセージがかすんでしまっているように感じられた。同様のことが、本作に散りばめられたフェミニズムへの目配りにも言えて、そもそもマドレーヌの人生は常に暴力・女性差別との闘いにあり、それに(時代的にも)鈍感なシャルルとの対話を通してフランスの女性の歴史を掘り下げていくところに面白みがあるのだけれど、家庭内暴力女性差別については現在も解決済みではないだろうし(実際にマドレーヌがつい最近まで若者と一緒に活動していた写真が出てくる)、今後も行うべき活動なのに、彼女たちへ遺産が行き渡っている描写をせずにシャルルだけを取り上げるのはしっくりこない感じがした。ただ、話の筋としてはともかく、マドレーヌの一人の人間としての考えについては全然納得できることなので、これは作品の見方の問題なのだろうなと思う。私はシャルルと遺産とマドレーヌの抱えていた問題をもう少し結びつけて欲しい派だったが、同じ理念を持って活動しているからって深いところまで繋がる訳ではないだろうし、逆に気張って話す関係になるかもしれないので(特にマドレーヌは指導者的立場なので尚更)、シャルルという一見無関係な人間にこそ遺産相続は相応しいと見る向きもあるかもしれない。そもそも遺産がシャルルにだけ行ったかどうかも不明だし(金額的に全額な気はするが)。

 

【キャラ】1.5点 (2点) 

DV夫のちんこを火炎放射器で燃やすマドレーヌと、街のど真ん中にタクシーを停めて後続車をめちゃくちゃキレさせているのにゆっくり歩くシャルルが良かった。実在感があるというか、そういう微妙な仕草にキャラの奥行きは生まれるので。マドレーヌの息子との距離感も良かった。

 

加点要素【百合/関係性】0点 (2点)

該当描写なし

 

【総括】

全体的にすごく良かっただけに、「老人乗せて感謝されて遺産貰っちゃうのかよ」「遺産の金額がデカすぎるだろ」の、主にこの2点で感動がぶっ飛んで笑いに転じたのでよろしくなかった。あと筋書きにも特段以外なところがないので(マドレーヌが夫のちんこを焼き始めるあたりで大変盛り上がるが、それが最大の予想外ポイントである)別に眺めていて新鮮味はないのだけれど、映画のお手本としては活用できそうな気がする。

*1:嘘である