電気ってめちゃ便利だ。でも無尽蔵ではない。
つまり財布の中身とよく似ていて、消費者金融からお金を借りていないほとんどの人間は、賃金から必要なものや欲しいものを順序つけて購入していく。足りない場合は来月でも別にいっかと思う。消費者金融には駆け込まない。手元にあるものでうまくやる。有限なリソースについての考え方ってだいたいそういうものだ*1。
そういうわけで、「電力不足の時に優先的に切られるべき電気製品ランキング」というものを考えたくなった。
だって電気も資源も有限だし、人間の欲望は無限大だ。財布の中身とよく似ている。だからそろそろ私たちは優先順位をつけなきゃいけない。
というわけで、私が人類を代表して「これ別に電気で動く必要なくね?優先的に電気を切るべきだろ」ランキングTOP3を発表します*2。
「必要無さ」の考え方について
生活に役立つ電気の役割は、主に「電気にしかできないこと(例:電気信号、情報演算等)」と「運動エネルギーの伝達手段(例:歯車の効率化等)」の2パターンがある。このうち、削っても生活に最低限支障が出なさそうなのは後者であるので、その辺りから攻めていく。また、当然のことながら、ランキングの算出には削減効果の計算も必須となるだろう。スマホに入れたいアプリゲームの容量が10GBだとして、10MBのアプリばかりを削除していても徒労である。そのため、削減効果が最も高いものから順序付けることでそれなりの正当性を担保したい。なお、計算根拠や計算過程はかなりガバガバなので、その辺りはご容赦ください。
というわけでいよいよランキングの発表となりますが、ページをスクロールする前に「こいつマジで要らないだろ」って電気製品を頭に思い浮かべてくれるとより楽しめると思います。
それでは3位の発表から!
電力不足の時に優先的に切られるべき電気製品ランキング
第3位 広告用デジタルサイネージ(想定削減電力 10GWh)
これ絶対要りませんよね。国民が深刻な電力不足に陥っているなら、まず切るべきは電子媒体の広告だと思います。なぜなら広告が人間の生命に提供する生理学的メリットは一切ないので(デジタルサイネージに特化した会社の人間は死ぬかもしれないが、紙媒体で頑張って欲しい)。
さて、気になる削減電力の計算ですが、色々なサイトを参考にしました。デジタルサイネージの消費電力は結構簡単に出てくるのですが、数量となると膨大すぎて流石に計算できません。そのため、デジタルサイネージ市場規模からデジタルサイネージの出稿費用を計算し、おおよその数を算出することにしました。個人ブログとしては十分頑張っているほうでしょう。
では、まずは市場規模についてです。
こちらのサイトによると、2021年のデジタルサイネージの市場規模は
「交通」が343億円、「店舗(商業施設)」が108億円、「屋外」が75億円、「その他」が68億円という内訳になっています。ここで「その他」の存在がややこしくなるので「屋外」と纏めましょう。これは、屋外のデジタルサイネージの方が明度の分だけ消費電力が上がるため、できる限り最大削減効果を算出するための工夫です*3。
続いて、交通に関する出稿費用を算出しましょう。
こちらのサイトによると、
主要9路線、15秒、1週間、4,800,000円
とのことです。1ロールは最長20分単位らしいので、1日あたりの広告枠は80個であることも分かります。また、1年はおおよそ52週間です。
ですので、主要9路線のデジタルサイネージを1年間ジャックした時の広告費用は、
4,800,000*80*52=19,968,000,000(199億円)
ということになります。かなりの額ですね。これだと2021年度のデジタルサイネージの「交通」343億円の2/3を主要路線の出稿料で占めてしまうことになりますが、主要と言っている以上、こんなものなのかもしれません。
次に、デジタルサイネージ1枚あたりの広告単価を算出するために、主要9路線の広告用のデジタルサイネージの数を調べましょう。
ここでの主要9路線とは、山手線、中央線快速、京浜東北線・根岸線、京葉線、埼京線、横浜線、南武線、常磐線各駅停車、中央総武線各駅停車とのことだと記載があります。
この路線全部を調べるのはなかなか困難ですが、ささっと検索すると、以下の記述を見つけました。
山手線の電車は1本あたり11両編成で、全52本の車両数は合計で572両です。
山手線は1日に「何周」する? 早朝から深夜まで走る電車も その走行距離は…? (乗りものニュース) - LINE NEWS
なるほど。では、まずは山手線に絞って考えていきましょう。
肝心なのは、その車両にどれだけのデジタルサイネージが設置されているかです。
電車通勤の人間は殆どが理解していると思いますが、あまり電車に乗らない方のためにもイメージ図を共有します。以下の画像のように、車両のデジタルサイネージ広告(15インチ)はドアの上部に設置されていることが殆どです(もう一方の画面は必要な情報を提供しているため切るべきではないと想定しています)。
では、次に知るべきことは、1車両あたりのドアの数です。
調べてみると、今走っている山手線の車両(山手線E235系)は4ドア方式っぽいですね。つまり1車両あたり、8つのデジタルサイネージ広告があることになります。
そうすると、山手線全体に存在するデジタルサイネージ広告の概数は
8*572=4576
ということになります。結構ありますね。
他の路線でもこのように計算することで、おおよその「交通」に関わるデジタルサイネージの数が分かるという考え方です。
ただ、山手線以外の路線の在籍本数についての情報は殆ど見つかりませんでした。
車両の型番毎の保有台数を纏めている鉄オタはかなり居たのですが、みなさん路線毎の在籍本数にはあまり興味がないみたいです。仕方が無いので、1時間あたりの運用本数を各路線の運用・在籍本数として算出することにしました*4。結果は以下の通りです。
山手線 11両×52本=572
中央線快速 10両×30本=300
京葉線 10両×24本=240
埼京線 10両×19本=190
横浜線 8両×9本=72
南武線 6両×25本=150
常磐線各駅停車 15両×23本=345
中央総武線各駅停車 10両×49本=490
以上、主要路線の運用車両数は2609両となります。
よって、簡単のためにすべての車両を4ドア方式とした場合の広告用デジタルサイネージの数は20872枚となります。
さて、その20872枚のデジタルサイネージを1年間ジャックした時の広告費用が19,968,000,000円ということなので、ディスプレイ1個あたりの山手線デジタルサイネージの年間広告料はおおよそ956,688円になります。高すぎますが、年間だとこんなものなのかも?
さておき、これでようやく「交通」関連のデジタルサイネージの数が分かることになります。年間の「交通」広告費用が343億円であることから計算して、35853枚という概数が得られました。
続いて、「店舗(商業施設)」ですが、ここからは簡単に算出していきましょう。計算方法は基本的に上のやり方と同じです。
レジ前広告(ディッパーダンチャンネル) 15秒 関東28店舗 2週間 160,000円
イオンチャンネル 15秒 全国200店舗 2週間 650 万円
オフィストイレ内広告 2週間 (想定表示回数 85,000回) : ¥250,000
デジタルサイネージ広告の料金相場、導入費用を徹底解説│ガクセイ協賛
これはレジ前のデジタルサイネージですね。よってレジの数で単価も変わることになります。ディッパーダンは写真を見る限り、ほぼ1レジなので良いのですが、
イオンのレジ数なんて規模によって異なるし適当に設定するしかありません。だいたい平均で8くらいはあるんじゃないでしょうか。と思って適当に調べたらマジで7~8枚でした。冴えているな自分。
イオンチャンネル|サイネージメディア開発室 博報堂DYアウトドア
さて、イオンチャンネルもディッパーダンチャンネルも5分1ロールとのことですので、
ディッパーダンチャンネル:16万円*20枠*26(週)/(28*1)(店舗*レジ)=297万円(年額)
イオンチャンネル:650万円*20枠*26(週)/(200*8)(店舗*レジ)=211万円(年額)
という計算になります。かなり似たような数字になりましたね。平均をとり、店舗のデジタルサイネージの1枚あたりの広告料は254万円(年額)ということなりました。
よって、「店舗(商業施設)」にあるデジタルサイネージの枚数は4252枚という結果になりました。本当かなあ。これ、別のアプローチの仕方としては、広告費用を挟まずに全国の商業施設に入っている店舗数から出すというのがあって、多分そっちのが良いような気もするのですが、全店舗が広告用のデジタルサイネージをやっているわけじゃないでしょうから何とも言えないんですよね。広告である以上、絶対にお金が動くはずですから自分のアプローチも誤りではないと思うのですが、体感よりも1桁くらい数字が少ないような気がするんですよね。まあ今回は仕方ないな。
最後に「屋外」です。
新宿アルタ 15秒 2回/1時間 7日間 700,000円
幕張メッセ 15秒 4回/1時間 7日間 210,000円
横浜駅ビル 15秒 4回/1時間 2週間 50,000円
デジタルサイネージ広告の料金相場、導入費用を徹底解説│ガクセイ協賛
ピンキリですね~。当たり前のことですが、広告って立地で価格が大きく左右されるんですよね。もうこんなの真剣に考えても時間の無駄でしょうけれど、一応計算はします。
新宿アルタ:700,000円*120枠*52週間=43億6800万円(年額)
幕張メッセ:210,000円*60枠*52週間=6億5520万円(年額)
横浜駅ビル:50000円*60枠*26週間=7800万円(年額)
さて、こうして見ると「屋外」+「その他」で143億円なので、その1/3を新宿アルタが占めていることになります。マジかよ。絶対に計算間違っているだろと思いながらも、計算は計算なので受け止めます。つまり新宿アルタを外れ値と設定して、残りの99億3200万円で屋外のデジタルサイネージの枚数を探っていく方針です。そこで、幕張メッセと横浜駅ビルの平均値を、平均的な屋外デジタルサイネージの広告費用とすることにします。その場合、屋外のデジタルサイネージ広告の枚数は
99億3200万円/3億6660万円=27枚
ということになりました。もうここはガバガバでいいと思います(これまでもガバガバだけれど)。
よって、以下まとめです。
日本に存在する広告用デジタルサイネージの枚数は
「交通」35853枚(15インチ)
「店舗(商業施設)」4252枚(32インチ)
「屋外」+「その他」新宿アルタ(600インチ)+その他27枚(180インチくらい?)
だということが分かりました。
ここで、以下より屋内と屋外のデジタルサイネージの消費電力を用いると、
屋内用デジタルサイネージの電気代を見てみます。大きさ50インチ・消費電力120Wのデジタルサイネージを1日8時間・月30日にわたり運用した場合、電気の消費量は120W(=0.12kW)×8時間×30日で28.8kWhです。
次に、屋外用デジタルサイネージの電気代を見てみます。大きさ50インチ・消費電力260Wのデジタルサイネージを1日8時間・月30日にわたり運用した場合、電気の消費量は260W(=0.26kW)×8時間×30日で62.4kWhです。
デジタルサイネージの電気代は?ランニングコスト・初期費用まで徹底解説 | 最高最良のデジタルサイネージ LED TOKYO
「交通」5時~24時, 365日電車が稼働すると想定し、
35853*0.12*(15/50)*19*365=8,951MWh
「店舗(商業施設)」10時~21時, 364日(1日のみ正月休み)に店舗が開店していると想定し、
4252*0.12*(32/50)*11*364=1,307.5MWh
「屋外」+「その他」新宿アルタに合わせて11時~20時、364日(1日のみ正月休み)に店舗が開店していると想定し、
新宿アルタ(600インチ)+その他27枚(180インチくらい)
→180インチ31枚分とすると
31*0.26*(180/50)*9*364=95MWh
となるので、総計で10,354 MWh(10 GWh)ということになります!
いや~長かった!
ちなみに下記環境省のサイトを覗いてみると、1世帯の年間消費エネルギーは全国平均で4,322kWhとのことなので、広告用デジタルサイネージを1年間止めるだけで約2400世帯の電力を救うことができます。
電力不足の時に優先的に切られるべき電気製品ランキング
第2位 動く歩道(想定削減電力 49 GWh)
電気を使った上下移動について考えると、まず浮かぶのがエレベーターとエスカレーターでしょう。これらは「階段を使えよ」という観点から不使用を勧告することも可能なのですが、エレベーターは大きめの荷物リフトの観点からしても有能であるため、停止は非合理的だと言えます。一方で、エスカレーターで輸送可能な荷物の底面積は足場程度のものしかないことを考えると、占有スペース的にもエスカレーターの活用方面は人間の輸送が主となるでしょう。
とはいえ、エレベーターは待機時間が長い上、一度の輸送人数が少ないというデメリットがあります。少子高齢化社会において、足腰が弱い人の上下移動の手段としてエレベーターを補佐する役割としてもエスカレーターが欠かせないことを考えると、停止することによるコストメリットを稼働によるメリットが上回りそうです。
しかし、「動く歩道」はどうでしょうか?
あれの存在価値を正確に語ることができる人間を自分は知りません。決して高速移動ができるわけではないし、あれに乗ったところで短縮できる移動時間はせいぜい数十秒でしょう。全ての歩道が動くならまだしも、一部分だけ加速してもマジでしょうもない。そう思いませんか?マジで要らないと思います。
そういうわけで、動く歩道の削減電力を考えましょう。
大変ありがたいことに、下記の一般社団法人日本エレベーター協会『2020年度昇降機設置台数等調査結果報告』にて、「動く歩道」の設置台数が分かります*5。これ、本当に計算がしやすいので助かります。デジタルサイネージ関係者も一般社団法人作れ!
https://www.n-elekyo.or.jp/about/elevatorjournal/pdf/Journal35_01.pdf
これによると、2021年8月時点の動く歩道の全国の保有台数は1129(うち5台は新規設置)台と書かれています。
次に、下記日立の製品資料から有効長さ100mの速度30(m/min)の水平式エスカレーターの消費電力が7.5kWであるとの記載がありました。
https://www.hbs.co.jp/products/escalator_walkway/new/autoline/pdf/mxal_re511r_0906.pdf
よって、主に利用されている施設が空港内、駅であることを考慮し、稼働時間を6時~22時であるとした場合の削減電力は
7.5*16*365*1129=49,450,200kWh(49GWh)という結果になりました。全国の動く歩道を1年間止めるだけで、11500世帯の消費電力を賄うことができます。
電力不足の時に優先的に切られるべき電気製品ランキング
第1位 ローラーコースター(ジェットコースター)*6(想定削減電力 699 GWh)
電力不足という未曾有の危機に遊ぶなんてけしからんことです。嘘です。しかしながら特に貴重な電力を消費して、一時期の快楽のために位置エネルギーを浪費するようなことはあってはなりません。その代表格がローラーコースターだといえるでしょう。
……ていうかそもそも、ローラーコースターってマジで怖くないですか?死亡事故もたまに起こりますし、なんで遊園地に置かれているのか意味が分かりません。どう考えても死亡事故があったときのリスクを考えると、「ローラーコースターを置かないこと」が娯楽施設として最適解な気がするのですがどうなんでしょう。ローラーコースターが担うスリラー要素は、上下に激しく移動する絶叫マシンにでも任せておけばいいと思うんです。
よって、私はここにローラーコースターのない遊園地を提案します。
遊園地には全然行かないので分かりませんが、ローラーコースターが動いて無くても「まあええか」で済ませる人が殆どだと思います。違いませんか?違ったらすみません。
というわけで、全国的にローラーコースターを停止させたときの削減電力を算出します。例の如く、全国のローラーコースターを纏めた資料がなかったので適当に概算することになります。本当にどいつもこいつも一般社団法人日本エレベーター協会を見習って欲しい。
さて、保有台数の多い遊園地は以下の通りです。
ナガシマスパーランド 12台
那須ハイランドパーク 8台
東京ディズニーランド 6台
富士急ハイランド 4台
日本一のジェットコースター数!ナガシマスパーランドを家族で楽しむ | るるぶKids
【2019年冬情報追記あり】那須ハイランドパークを思う存分楽しむための徹底ガイド|お出かけNote
クソでかい規模でもこの程度であると考えると、ほとんどの遊園地には0~2台のローラーコースターが配備されていると考えていいように思います(平均保有台数1)。
以下の資料から、全国の遊園地数は115であることがわかるので、
上の外れ値は別数えとして、
12+8+6+4+(111*1)=141台でいいような気がします。
また、下記記事にて、遊園地に詳しそうな人がローラーコースターの消費電力150 kWだと仰っているので(真偽不明)、そのまま拝借しちゃいましょう。
遊園地を運営するのに、一体いくらかかるの? ー 遊園地はなぜ潰れるのか Part2 | てすろく旅行記
ローラーコースターのローラーは、コースターを上に上げるときにのみ稼働するので、おおよそ運行時間の3分間隔(+3分で観客乗り降り)で稼働すると考えて、1時間に10本走るものだとしていいように思います。
日本の名作ジェットコースターランキングBEST10 [遊園地] All About
常時遊園地の営業時間はおおよそ10時~19時(USJ参考)のようなので、
150*141*10*9*365=699,409 MWh(699 GWh)
という計算になりました。全国のローラーコースターを止めるだけで17万4800世帯の電気を賄うことができます。
いかがでしたでしょうか?
みなさんが考える電気製品はランクインしていましたか?改めて結果を見てみましょう。
電力不足の時に優先的に切られるべき電気製品ランキング
第1位 ローラーコースター(想定削減電力 699 GWh)
第2位 動く歩道(想定削減電力 49 GWh)
第3位 広告用デジタルサイネージ(想定削減電力 10GWh)
なるほど。
【結論】
広告用デジタルサイネージをちまちま消すよりローラーコースターを全部止めた方が70倍くらい節電効果があるし、動く歩道を止めるだけでも5倍効果がある(筆者調べ)。
ぜひ皆さんも止めた方がいいと思う電気製品ランキングを作成してみてくださいね♪♪♪
自分は二度とやりませんが……。