新薬史観

地雷カプお断り

【コント】活きのいいセミを放流

「どうも〜マルバツ3確です〜」

「あ〜!」

「え?」

「あーーーー!」

「え、なんですか?」

「放流したいよ〜!」

「放流?」

「はぁ、はぁ……ごめん、持病の発作で放流したくなっちゃって」

「すごい発作だね。これまでの人生で色々苦労もあったでしょう」

「そうでもないかな」

「そうでもないことはないだろ。どうやって人は今の発作と付き合っていけば良いんだよ」

「そういえばこの前」

「無視かよ」

「電車の中で放流したくなっちゃって」

「何を?」

セミ

セミ!?」

「活きのいいセミね」

「活きのいいセミ!?」

「冬にね」

「冬にセミ!?」

「そう」

「冬の満員電車の中で放流するの!? 活きのいいセミを!?」

「そう」

「ヤバくない?」

「そうでもないかな」

「そうでもないことはないだろ。お前の中の『そうでもない基準』はどうなってんだよ」

「それでドンキに行ったんですよ」

「無視かよ」

「ドンキでね、レジ前に売ってるでしょ。冬でも育てられるセミの育成スターターキット」

「絶対売ってないだろ。どこのドンキだよ」

「六本木」

「絶対に売ってないだろ」

「売ってるんだな〜これが」

「そんなわけないだろ」

「それでね」

「無視かよ」

「発作が出てきた瞬間、あ〜!ってなるのよ。あ〜!放流したい〜!って」

「難儀な発作ですねえ」

「だからあ〜!ってなりながらドンキに駆け込んで、あ〜!ってなりながらレジ前のセミ育成スターターキットを掴みに行くのよ」

「迷惑な客ですねえ」

「そしたらセミ育成スターターキットが、ミミミミミミミ!!!ってうるさくてさあ!」

「いや育ってるーッ!」

「え?」

「もうそれ育ってんじゃん! 成虫でしょ!? 買ったやつは何をスターターとして育てるんだよ」

「そんなの俺が知るかよッ!」

「なんで俺が怒られるんだよ」

「それでスターターキットをレジに持って行って、ミミミミ!!ってスターターキットがブルブル震えて、俺は発作でアー!って叫んで」

「大惨事じゃねえかよ」

「店員もアー!って叫んでて」

「なんで店員まで共鳴してんだよ」

「警察もアー!って叫んでて」

「警察呼ばれてんじゃねえかよ」

「だから慌ててスターターキット買って、もう周りに謝り倒して急いで電車に乗り込んで」

「何がお前をそうさせるんだよ」

「発作だよ」

「そうでした」

「それで疲れ切った社会人がギュウギュウに詰め込まれた電車の中でね、ぶわーっ!とセミを放流してやったんですよーッ!」

「結果はどうでしたか」

「もうね(唾を飲み込んで)みんな呆然よね」

「そらそうでしょうね」

「ミミッ!って活きのいいセミが大量にビシーッと電車の壁にゴキブリみたいに張り付いてね、ミンミンミンミン鳴くんですわ! 命の限り!」

「結構なことですよ」

「ドンキの店員も喜んでね」

「着いてきてんのかよ」

「警察も『いやー良いもん見れましたわ』って」

「仲良しかよ」

「それで三人で居酒屋行って乾杯ですよ」

「本当の仲良しかよ」

「それで……うあああああ〜ッ!」

「どうかしましたか?」

「あー!」

「あっ、もしかして発作!?」

「あー!(激しく頷く)」

「またセミを放流したいの!?」

「あー!(激しく頷く)」

「でもここにセミなんて……」

「あー!(服の裏からセミを掴んで取り出す)」

「えっ!?持ってんの!?」

「あー!」

「冬なのに!?」

「あー!」

「ドンキで買ったんだ!?」

「あー!」

「それを冬の劇場で放流するの!? 活きのいいセミを!?」

「あー!(思い切りセミを放流する)」

「うわ〜!」

(劇場は暗転、セミの鳴き声がひたすら劇場に響いている)


【寄稿のお知らせ】小説すばる2023年11月号+文学フリマ東京37

お疲れ様です。最近全然更新していませんが、そろそろ流石に書いた方がよさそうなので諸々の告知を書いておきます。

小説すばる2023年11月にエッセイを寄稿しました。

ありがたいことに、小説すばるさんからエッセイの依頼をいただきました。『百合小説コレクション wiz』に掲載されたあのバスを読んでいただき、今回の依頼に至ったそうです。大変ありがたいことですね。エッセイと言わず作品も掲載させてほしい。

今回、私が寄稿したのは、「のりがたり」という「乗り物による移動」をテーマにしたコラムです。私は、前々からどこかで書きたかった、大学時代のヒッチハイクについて書きました。800字程度と短いのですが、興味のある方はこちらからお求めください(もうすぐ12月号になっちゃうけれど……)。

https://amzn.asia/d/7wm5Vet

 

②『カモガワ奇想短編グランプリ』にて優秀賞をいただきました。

最近公募に作品を出すことにハマっているのですが、奇想とついたこの『カモガワ奇想短編グランプリ』を見逃してはならないと、締め切り2分前まで原稿を書き進めて投稿した拙作が、なんと優秀賞をいただきました!嬉しい。

本当はもっと話を続けるつもりで、さらに物語を二転三転させようとしていたのですが、「時間がないからもう書きようがないし、仕方がないからこの辺りで区切ってみるか」と半ばあきらめて投稿したものだったので、土壇場の私、英断すぎる……と思いました。

選評はこちらからご覧いただけます。すごく褒めてもらえてうれしかったです。

note.com

さて、そんな拙作『幼女の王女』ですが、どこで読めるのかと言いますと……。

 

③上記受賞作が掲載されている『カモガワGブックスVol.4』が文フリ東京にて頒布されます。

こちらの『カモガワGブックスVol.4』に『幼女の王女』が掲載されます。

私だけでなく、ほかの受賞作も掲載されています。さらに、《池澤夏樹=個人編集 世界文学全集》の全レビューや、伴名練の邦訳コルタサル短篇集総解説とかもあるそうです。すごい!

詳細はこちらからご覧ください。

note.com

 

④同じく文フリ東京にて頒布される鳩アンソロに作品を寄稿しました。

こちらです。2000字と短いのですが、かなり語り口に気をつけ、練りに練りました。

鳩を追いかけ回すことに快楽を覚え、鳩から感謝状をもらおうとする男の話です。
かわいい幼女も出てきます。

頒布場所などは、下記を参考にしてください。

 

どうぞよろしくお願いいたします。

【第3回梗概】ゲンロンSF創作講座全作レビュー

はじめに

こんにちは、ねぎしそ(小野繙)です。

実は5〜6月くらいから、ゲンロンSF創作講座というものを受講していまして、これまで全然書いてこなかったSFが書けるようになるために奮闘しています。

私の今回の受講目的は、①円城塔先生に渾身の実作を読んでもらう、②(百合ではない)創作コミュニティに浸かりたい・知り合いを増やしたい、③自分なりのSFの定義を見極め、強みを活かせる分野を模索する、④自分の相対的な筆力を見極め、向上させたい……などなどがあるのですが、先日、念願の円城塔先生の実作講評があったにも関わらず、時間管理ができずに実作を未完で出すというヘマをしてしまい、①円城塔先生に渾身の実作を読んでもらえる(かもしれない)機会を失い、ヘロヘロになっていました。

ただ、いつまでも引きずっていては仕方がないので、今後は前向きに②以降をやっていくぞということで、なんとか時間を見つけて全作品の感想をレビューしていきたいと思います。これは、「書き手は常に感想を求めている(はず)」という推測によって企画するものですが、そうでない方もいらっしゃると思います。そういう方は、私のX(旧Twitter)アカウント(@negishiso)や、こちらのブログのコメントや、discord(negi#7339)や対面(小野繙の名札を首から下げた眼鏡の成人男性)等で「ああいうの辞めてくれませんかね」と苛立ちを隠さずに言っていただければすぐに該当部分は削除させていただきます。

(今回はブログで初めて「ゲンロンSF創作講座」に触れるために長ったらしい前置きを書きましたが、今後はこの前置きは消えるはずです)

 

それでは第3回梗概レビューを下に列挙していきます。気になった部分も書いているので、ご参考にしていただければ幸いです(もしかしたら上から目線かもです、すみません)。

なお、裏ゲンロンSF創作講座や講評会で順位づけがされるため、この場では特にランキングはしないものとします。

 

朱谷『蟲飼いたちの夏』

夏、気になる人と田舎で過ごすという設定がめちゃジュブナイルでいいですね。「田舎の怪異である赤い霧が、研究所で開発された自己複製マシンの蟲である」という捻りも面白いです。「断片化していたが残っていた部位は保存状態もよく生きているように艶やか」というのも描写的に面白いです。ラストの「式見は友人の遺体に残存していた蟲を葉野へ移植し、さらに不足分を自分の体内から移す」がハイライトになる部分だと思うので、ここで周囲を蟲がブンブン飛び回って赤い霧を作って二人を囲んでいたら、異質な青春として綺麗だなと思いました。また、性別を明らかにしていないなーと感じたのが意図的とのことで、ここも嬉しかったです(百合だと美味しいので)。

以下、ここら辺が気になりました。

・なぜしっかり機能する蟲の開発に成功しながらも研究所は閉鎖したのでしょうか?表に出てきていないということは、蟲に何らかの欠陥があるということであり、それが作品で捻りとして機能すると面白いかなーと思いました。

再生医療の研究所が閉まって60年以上経っていれば、もう結構な未来のはず。人々は幽霊などの怪奇に対してかなり批判的になっているかもしれず、そんな人々が赤い霧という目に見えてヤバそうな怪異を放っておくのかな、と思いました。

・蟲の機能は「自己複製」とありますが、式見の傷を治す一方で、友人の断片的な身体は保存されている、という治癒能力の境界線が分かりませんでした。個人的にはプラナリアみたいにバラバラになった身体から大量の友人が複製されていたら面白いなと思いました。

・個人的には、このテーマ的にもう一捻り欲しかったです。例えば、「蟲の自己複製=蟲に寄生された人間の増殖」として、「実は式見の事故も、式見が自分の考えでやっているように見えるだけで、蟲の本能によるものだった(山の中にはこれまでに式見が増やしてきた蟲飼いがいる)」とするのも、結構な意外性になる気がします。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/00ake17aro47/7645/

 

みよしじゅんいち『ジャイロイドウケツ』

幾何学生物群で有名なティーガーデン星系の惑星B」という書き出しがいいです。幾何学生物群ってなんだよ、とビビるので。また、幾何学生物群に美術的価値が見出されている点、それで儲けようとする人間が主人公という設定も良かったです。非常に残念なのが、この幾何学生物群ってめちゃくちゃSFとして美味しいはずなのに、数学に疎い私にとっては、梗概という短い文章では(もしかしたら長文で書いても)、そのビジュアルを具体的にイメージできず、生物の動きが頭の中で組み立てにくい点です。これ、無理に普通の文章として出すよりも、レオ・レオーニ平行植物』みたいに絵本形式で想像力を爆発させたほうがいいんじゃないでしょうか(ちなみに私は未読です)? カレイドバットやジャイロイドウケツの姿をぜひ見たいです。最後に、悪人が目をつぶされるオチも良かったです。

以下、気になった点です。

・惑星ツアーの割に最少催行人数が少なすぎる気がします(それほどコストもかけずにツアーできるようになったのかもしれませんが)。

・「シカクロッペンシカクコウネジレカイメン」が思い切り日本語なのでもうちょっと工夫が欲しい気がしました。

・バンパイアプラナリアのシーンに割く文字数が多い割に、あまり物語が動いていない気がしました。菱形のプラナリアを21回の切断で殺せるのが面白いのは分かりますが、エンタメ的な盛り上がりも、もうちょっと欲しい気がします。

・全体的に物語よりも幾何学生物群図鑑のようになっているので、やはりそれに適した媒体にしたほうが、幾何学生物群の魅力がもっと伝わるように思います。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/34411kun/7626/

 

雨露山鳥『繁殖する文庫本のパラダイムシフト』

積読は文庫本の自然繁殖を促すことが確認された」という発想が面白いです。それだけだと出オチ感がありますが、そこから繁殖するのは本ではなく物語とするところに、話の展開力を感じました。そこからは怒涛の展開で、どんどん話が広がっていくのが良かったです。特に歴史改変に繋がり、各国の関係が冷え込むあたりが良かったです。また、最後に想像力を失った「ヒト」ではないヒトの存在を示唆するのが良かったです。ファイアパンチの世界だ!と喜びました。ただ、個人的に引っかかる部分が多かったので、そこらの整合性が取れるかがキモになるように感じました。

以下、気になったところです。

・「積読は文庫本の自然繁殖を促す」という事象が、21世紀半ばになって発見されるのは、ちょっと遅すぎる気がします。文庫本の流通が世界的に始まってすぐあたりの時代のほうが飲み込めます。

・当初の文庫本の繁殖には、「購入」「密着」というファクターが必要とのことですが、後々物語同士が勝手に増殖していくにあたって、これらが足枷になっているような気がしました。特に「購入」のファクターの扱いが非常に難しく、これを物語が判断することはできなくないか?と思いました。ただ、この購入のファクターを除けば図書館が物語の大養殖場になるわけで……難しいです。

・途中で、文庫本だけではなく物語を孕むものが全て融合するようになりますが、本質がそうであるならば、そもそも積読による自己増殖が見られるのは文庫本ではなくコミックの方が観測が早そうな気がしました。(本より単価が安いので)

・中盤、物語が変わることで人々の記憶も塗り変わりますが、それならばなぜ文学者たちは物語の変化を認識できたのだろう?という疑問が残りました。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/amatsuyu/7608/

 

藤琉『踊る森を背に』

初読時は突飛な設定と俳句にどういうことだ……?と思いましたが、アピール文を読んで全てを理解しました。「生まれついて死神が見え、死を操る力を持つ幼少期の小林一茶(幼名・弥太郎)が山での恐ろしい出来事を通して死・死神に決着をつけ、俳聖として開眼するイニシエーション(通過儀礼)の物語です」という説明文がめちゃくちゃ良くて、これだけで勝ち設定感はあります。描写としては「黒く輝く無数の歹が現れ、踊り始める」シーンや、「地から、歹を右肩に黒く光らせた腐った熊、鹿、狐どもが立ち現れ、弥太郎を取り囲む」シーンが素晴らしく、想像力の力強さを感じました。以下、気になった部分です。

・私が浅学なせいで、弥太郎と小林一茶が結び付かず、登場人物がなぜ俳句を詠んでいるのかが分かりませんでした。別に理由もなく俳句を扱っても良いのですが、小林一茶という情報が入るだけで一気に納得感が出るので、中盤以降の展開を若かりし小林一茶にするなどして、匂わせるのも手かなと思います。

・途中、死の字を分解して「歹」と「ヒ」にしたことで、次に出てくる「ム」をうまく飲み込めず、ずっと「ヒの間違いでは?」と考えてしまいました。仏の「ム」であれば、それを最初に書いて欲しいと思ったのですが、隠しておくのも一種の捻りですかね?だとすると難しい……。

・明確な捻りが2回、どこにあるのかが分かりにくかったです。面白かったので作品としては問題ないのですが、捻りの箇所だけアピール文とかに書いてくれるとありがたかったかもしれません。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/aphelion/7649/

 

岡田麻沙『サイトウからサイトウへ』

異常文章が読めてゲラゲラ笑いました。とても面白いです。特に『自分のシソーラスがぐちゃぐちゃに乱れていくのを知覚し、「すぐにボードレールを放出しなければ二層式洗濯機だな」と考えていた。
 それから、こんなのモンシロチョウだ、と思い直した。とにかくダヌールヴェーダを足の裏にピン留めしなければ。ソルベ、こんなに参加者を四角くしたいわけじゃない。頬杖をつき、四半世紀の一般読者に強制されるならば、それまでは何度だってピラティスしてやろうじゃないかと座り直す。そうして質実剛健が牛歩した暁には、霧が晴れるように配列が整理され、言葉が元の秩序を取り戻した。修正パッチが配布されたようだ』という一連の流れは素晴らしかったです。声に出したい日本語ですね。以下気になったところです。

・捻り自体は意外性があって良いのですが、前半部分があまりインドの神話と関係ないように思えました(私が気付いてないだけかもしれません)。個人的には何かしらの繋がりがあったほうが好きです。

・都市型サイトウの「サイトウ」とは?

・途中、物体そのものも書き変わりますが、その後の対応からも、VR的な場所に「私」は最初から居たのでしょうか? さらにメタバース・サイトウにログインするので、そこら辺がうまく理解できませんでした。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/asaman/7705/

 

廣瀬大『告解』

梗概からも伝わる淡々とした描写と、娘の交通事故のエピソードの悲惨さのバランスがよかったです。人の命を救う仕事をしている看護師を中心に、さまざまな命の巡り合わせを描いているのが綺麗でした。以下、気になったところです。

・いろんな宗教があるとは思いますが、一般的には宗教の神が救うのはその信者だけな気がします。本当に告解だけでいいのか?やけにサービス精神旺盛じゃないかと思いました。ここに、「実はそれは嘘で……」という捻りを入れても良いのかなと思いました。

・男は結局、本当に信者なのかそうでないのかが分かりづらかったです。本当に信者なら、自分は神を信じてないよとは言わない気がします。それは信者にとって一番言いたくない言葉であるように感じるので。

・この物語もそうですが、最近は「私は人を殺した……」と言う人の話を聞くと、間接的にしか殺していない作品が多いので、敢えてガチめに殺すことで、他の物語と差別化を図れる気がします。ただ、登場人物に前科が付いたり、物語のジャンルが変わるデメリットはあります。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/daihirose/7707/

 

瀬古悠太『皇国の贄』

面白かったです。捻りを入れるタイミングも話の構成も良く、設定も奇妙でありながらも悲壮感があって惹かれました。気になったところとして一点、「腐臭のする赤い液体」の描写で「あ〜、これは人間を溶かしていますねえ」と分かってしまいました(劇場版『メイドインアビス』-深き魂の黎明-でも似た描写があったので)。他の人はどうなのかは分かりません。そこにさえ目を瞑れば文句無しの作品だと思います。もう一点だけ言うなら、端正すぎるのでもう少し尖ったものを読みたい感がありますが、これは難癖の部類に入るかもしれません。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/dekaohagi/7677/

 

やらずの『胎樹』

面白かったです。アピール文にあるように子供を成すことをテーマにしながら、しっかりとした構成で物語が作られていて、SFをやっていて、模範的な梗概であるように感じました(捻りは少し弱かったかもしれませんが)。殺した村民の補充要員として迎え入れられる奇妙な感じや、お世話になった木に火をつける描写も良かったです。最後、自分の学問を優先して子を堕ろし(もちろん男も責任をとれよ感はありますが)、木に子供を産ませてそれを焼くなど、自分ファーストである彼女にとって、ふたたび「私」自身を産んで自らを生き直そうとする様は納得のいくものでした。一方で、その独善的な態度や価値観の押し付けは、現代の育児とも共通する点があるように感じました。現実とフィクションをうまく繋ぐSFとして機能しているように思います。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/dontleave/7690/

 

夢想真『異次元からの来訪者』

実は異星人だった、という捻りが効いており、交通事故の記憶や、病院に運ばれなかった理由も合わせてなるほど!と思いました。アピール文にもありますが、後半のジェームズたちと囚人との対決がこの物語の見せ場だと思うので、そこを魅力的に描ければ良いのかなと思います。以下、気になった点です。

・ジェームズとルイーズのいる国が明らかではありませんが、多分通貨は円ではないと思います。

→というコメントを書いた後にアピール文で日本であることを知りました。登場人物の名前から勝手に外国を想像してしまうので、頭の方に日本であることを示したほうが良いと思います。

・既に手持ちで10万円あるなら「なんとかするよ」とは言いますが、手持ちが無いのにわざわざ自分が働いてまでお金を用意するジェームズの姿勢に、聖人すぎる……と思いました。

・不気味な異次元怪物の描写がもっと欲しいです。すごく気になるので。

・タイトルですが、「異次元からの来訪者」だと最後の異次元怪物だけに掛かることになるので、ここは異星から来たジェームズ達も来訪者とみなし、捻りを加えるのはどうでしょうか。単に「来訪者」というタイトルでも良いような気がします。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/dreamshin/7679/

 

真崎麻矢『エンドレスサマー

怒涛の展開でした。そして難しい!書きたいことと熱量はひしひしと伝わってくるのですが、この情報量を原稿用紙40枚に……!?と身構えてしまいます。これがうまく達成できれば、すごく読み応えのある骨太な作品になると思います。また、終盤の「虎太郎も現実世界の自分はそれなりの決意と覚悟を持って裏切ったのだと告げ、自分の人生の幸福も不幸も決め付けないで欲しいと望む」という描写は新鮮で心に響きました。

以下、気になった点です。

・ボクシングがロボット操縦や後半の展開にあまり効いていないので、色々スポーツがある中で、なぜボクシングなのだろうと思いました。

・ボクシングをやる日常と怪獣出現の繋ぎ方が、ちょっといきなりすぎる気がしました。もちろん創られた世界なのでそれでも良いのですが。

・小宇宙世界の創造主であるリョウコを、小宇宙世界で見つけ出す、というのが引っ掛かります。リョウコはひとつ上の次元の存在なので、リョウコ自身が降りてくるか、リョウコから呼びかけるかしたほうがいいような気がしました(もちろん見つけることも可能だとは思いますが)。

・途中、「実は龍我が科学者で敵だった」という捻りがありますが、その後すぐにひっくり返されるので、別になくてもいい捻りかなと思いました。そちらの方がスッキリするような気もします。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/hadari/7662/

 

羽澄景『小さな紙による大きな価値の破壊方法』

うっかり殺人しちゃうのはともかく、良かれと思ったことがどんどん裏目に出てしまう物語が面白かったです。特に終わり方は、映画の『ミスト』の絶望感に近いというか……殺人の罪を償うこともできず、苦しい孤独がゲンを襲うのも良かったです。以下、気になった部分です。

太陽系外惑星ティルスの居住区域に隠れ住む孤児、という設定がそこまで効いていないような気がしました。もうちょっとティルスならではガジェットや、彼らが行きたい地球に何が待っているのか、なども説明があるといいかなと思いました。

・うっかりの割に後に明かされる死因がエグすぎるので、ショックを和らげるために序盤で死亡状況を書いて欲しいです。

・ダクトを死体が通る音と人が走り去る音が、頭の中でうまく結び付かなかったです。

・いない者に怯えて仲間を殺す、という捻りは良かったのですが、そこからも結構捻りが渋滞しているので、もう少しだけペース配分を変えるか、スッキリさせてもいいのかなと思いました。ただ、「偽物の航空券を掴んでいた孤児」という情報の悲惨さは捨てがたいので、ここは書きようでうまく処理できるかな?とは思います。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/hazumik/7699/

 

広海智『AIタウンへようこそ』

文句なしに面白かったです。「AIタウンとは、山間にある過疎の町から人間がいなくなり、それまで老人達の介護に従事していたさまざまなAIだけが残った町で、多岐に亘る労働を続けて税金を納め続けることで、AIに拠る自治を勝ち取っていた」というAIタウンの設定が素晴らしいです。ぬいぐるみというファンタジーの象徴的なものの背後で戦争とAIと SFという強固な物語の骨格があり、その上に人情的なエピソードを配置しているので、いろんな人に勧められそうな作品だなと思いました。捻りも多彩で、楽しく読めました。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/hiromitomo/7691/

 

蚊口いとせ『努力の結晶』

面白かったです。アピール文にある通り、定性的なものを定量化する、というだけで良いSFになるなという気付きが得られました。職場の解像度も親しみやすく、身近にも結晶だけはデカそうな人がいるな……と現実を振り返る効果がある点で、良いSF作品だと思います。以下、気になった点です。

・最初の一文、結晶は足りないというより、小さいという方が適切かもしれません。

・いくら物好きとはいえ、人の身体からでた努力の結晶を買う人が居るのかは気になりました。少しはいるでしょうが、会社として成長できるほど市場を作れるのか、という疑問があります。尿管結石の売買と似た部分があるように思うので(綺麗なら買っちゃいますかね?)。

・「実は提出した結晶は、買ったものでした」というひねりにはオオッとなりましたが、もう一つのひねりが見当たらないような気がしました。また、どうせ買うなら「私の結晶はもっと大きいはずだ!」と意気込んでいる人の方が、バレた時の絶望感が大きいように感じました。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/itosekaguchi/7668/

 

 

ゆきたに ともよ『赤紙

面白かったのですが、2000字! そこに目を瞑ればいい話だと思います。生まれ持った特徴で評価され、第二国民として虐げられることへの絶望やなんとしてでもお国のために役立たねばと思うような空気の描き方と、それを潜り抜けようとする狡猾な人間の描写が良かったです。ただ、1点、ドロイドやヒューマノイドを人間のように活動させられる技術力を国が有する一方で、未だに生身の人間が徴兵されることには疑問でした。コストの問題はあるでしょうが、もう少し戦争のかたちが変わっているのではないかなと思います(案外変わらないかもしれませんが)。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/kamiyakisui/7590/

 

木江巽『平塚パイセンの唐突に始まる夏』

良かったです。まずタイトルが素晴らしいです。凝った設定を完全に理解できたわけではないのですが、不思議な世界観とそれを平気で乗りこなす人々が面白かったです。ラストの捻りも気持ち良く、これ未来の自分でしょ……というところをしっかり裏切ってくれたので嬉しかったです。平塚パイセンの命名方法も斬新で面白かったです。以下、気になったところです。

・梗概の文字数の制約があるので仕方ないですが、どうしてもユニットのイメージが難しかったです。平べったい長方形と言っても、じゃあ人はどうやって格納されているのかとか、そのユニットの中で人々はどうやって食糧を得て生活しているのだろう……という疑問がありました。実作ではその辺りを描いてくれるとありがたいです。

・太陽に向かって潮汐ロックになった地球の状態が気になります。ずっと太陽を向いている面は温度がアツくてヤバすぎるとか、影の部分は氷でカチコチだとか、その辺りも描写してくれると嬉しいです。個人的には、太陽に向いている面って夏って感じの気温になるのかなー?という疑問があります。

・平塚パイセンというからには、もうちょっと悪いことを教えてくれるというか、思わず「パイセン!」と呼びたくなるような感じを出して欲しいです。

・特定の土地を走行している間だけ過去を見れるという設定がすごいのですが、原理が気になりました。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/kinoeta/7676/

 

渡邉清文『竜骨街の子供』

設定が作り込まれており、楽しく読めました。「太古に墜落した巨大な生体航宙艦の遺骸」という、クリアに50時間くらいかかりそうな大作ゲームチックな世界観が好みです。その後の展開もよく練られており、退屈しないと思います。気になったのは以下の点です。

・捻りである竜骨街の真実が明かされたとき、もっとリンには衝撃を受けて欲しい感があります。信じていた物語と自身のアイデンティティを結びつけておくなど。ただ、私自身、自分の故郷が生物兵器の方舟だったとして衝撃を受けるかというと「あっ、へー」で終わりそうなので難癖かもしれません。

・旅人を殺したというリンの罪の意識が、贖罪も克服もされることなく宙ぶらりんになっている気がしました。イオとの出会いによって、その辺りをどうにかしてあげてほしいです。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/kiyo/7650/

 

岩澤康一『アンバベル』

最後の一文が生成されたときの感動がすごかったです。あの一文が意味することを正確に理解したわけではありませんが、読んでいてグッとくるものがありました。なかなか味わえない感覚なので良かったです。言語を解析していく過程も面白かったです。一点だけ、考古学者の男が、娘を言語の天才だと認識する理由が掴みづらく、やや親バカに思えました。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/koichiiwasawa/7659/

 

文辺新『プロセスのなかの幽霊』

コンピューターにも幽霊がいる、という設定が面白いです。「無停止で稼働し続けていたシステムの霊格は極めて高く、それを安全に停止させることは極めて困難だと予想された」というのがとても良かったです。途中で神代復古運動の過激派が出てきたり、霊異局の巫女が出てくるなど、徐々にトンデモSF感が出てきますが、最終的にはアイリスアウトみたいな感じでしっかりオチているのが良かったです。以下、気になったところです。

・私がシステム関係に疎いせいですが、「大規模勘定システム」というのが何に活用されてどう機能しているのかイメージしづらかったです。

・大規模勘定システムが現前するとどうなるのかを描写してくれると嬉しいです。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/kumapadawan/7694/

 

諏訪真『私たちの子』

初手からすごいです。「ラブドール愛好家界隈の間で奥崎正三という希有な才能が現れた」という、意味はわかるけどわからない感がすごい。途中で、「赤毛頭に陰気な目つきで両手両足に水子の入れ墨入れた女性が、奇妙なラブドール持って」と出てくる部分で頭がくらくらしました。恐ろしすぎる。その後も語り手自身の行動も素直に怖くて、ただただ恐怖でした。これを書けるのは本当にすごいです。ツッコミたいところしかないのですが、それを記すには私の時間が少なすぎるのでやめておきます。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/liarsuwa/7653/

 

大庭繭『きみの手のひらを裂いて』

素晴らしかったです。百合作品だと叫びました(本当は黙って読みました)。アピール文にある通りのことをしっかり描けているように思います。蟲の設定も良く、過去の挿入も捻りの位置も良く、何から何まで好みでした。ありがとうございました。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/mayuoba/7671/

 

宮野司『眩しくて暗い世界』

面白かったです。人類の進化と、それを支えるガジェットの設定が良く、それが物語にしっかりと活きているのが素晴らしいと思いました。地表人の説明である、「地上汚染と核の冬を生き残った人類だが、放射線と過酷な環境のせいで退化しており、知能はほとんどなく人類とのコミュニケーションもとれない」というのが刺さりました。こういう生き物がもつ憎悪が良いんですよね。一点だけ、物語が良いところで終わってしまうので、もう少し続いてくれないかなと思いました。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/miyano/7655/

 

森山太郎『白米取締官』

面白すぎる……。梗概の最後のイラストは完全に笑わせに来ていますね。白米が白い目で見られるというのには笑いました。そもそもGFP米なんて、励起光を出さなきゃ光らないのにどうするんだと思っていたらお皿から励起光が出るという論理で解決されており、そこも笑いました(ただ真っ暗な部屋で食べないといけない点は難点ですね)。一点だけ、米の表面にある保水膜は炊飯の過程で米粒単位で形成されるものなので、米粒の密度があがろうが、米への励起光の影響はそこまで変わらないかなーとは思いました。それ以外はギャグセンスもひねりのタイミングもかなり良くて、映画脚本のような巧みさを感じました。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/moriyama/7689/

 

中野伶理『自扗の夢』

めちゃ面白かったです。自扗というガジェットを通して、それにまつわる文化の継承を(現在の文化に通じる形で)描き出している様子が巧みで、ひとつ格上のSFだなと思いました。アピール文にも書かれている、「修理できなくなる時が、技巧が途絶える時である」という言葉は非常に力強い言葉だと思います。ただ、テーマのひねりが機能しているのかはすごく難しいところで、オタクからすると新しい武器よりも先祖代々伝わる古い武器の方が強いのは明白というか、そういう定石があるので、それに対してどう話を転がしていくのかが気になりました(もちろん今のままでも良いのですが)。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/msx001/7665/

 

むらき わた『ウイルスの可能性』

面白かったです。光合成を可能にするタンパクを生成するウイルス、というのはあり得ないとは言い切れず、もしかしたら本当にあるのかも……と思わせる点に面白さがあります。杏奈もウイルスに罹らなかったわけではなく、無症状感染に近しい状態であるというのが良いひねりでした。一点だけ、最後の子供の遺伝子書き換えの流れは、うまく把握できませんでした。受精時の遺伝子組換えのことを言っているのかなと思ったのですが、なんとなく満の作為がありそうなので違うのかなと。できれば解説希望です。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/murakiwata/7712/

 

カトウナオキ『終わりなき絆』

面白く読みました。死人の視界情報の取り込み、人工妊娠器官と、SFガジェットを使い巧みに物語を展開できているように思います。何よりもひねりが良くて、最後のセリフのインパクトは忘れ難いです。「一回りも年上のエミ」というのが伏線として機能しているのも好みでした。ただ一点だけ、エミがなぜサヤトと結婚しているのかが気になります。サヤトの戸籍は確かに孤児ではあり、制度的には問題はないと思いますが、エミが息子と結婚しようと思う感情について、もう少し掘り下げて欲しいと思いました。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/naokikato/7698/


国見尚夜『ギャンブラーが確実に儲ける方法』

ギャンブラーの生き様を垣間見れたような気がして良かったです。最後の出し抜きも含めて、気持ち良くなれる物語にほっこりしました。SF要素が少し薄いように思われましたが、ひねり含めて物語が面白いのでギリセーフかなと。個人的には、アピール文のギャンブルに溺れたヤバい友人の話を聞きたいです。作品にもこれくらいヤバいやつが出れば、もっと魅力的な人間関係が生み出せるんじゃないかな〜と思います。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/naoya07/7681/


小野繙『私を抱きしめて』

私の作品です。改めて他の人と同列に読んでみると、なんかわたしの梗概って文章が詰まっている割りに物語の展開が弱いんですよね。それになんか頑張っている感はあるのですが、個性が死んでいるし、ひねりも弱いし、他の人の梗概でもっと魅力的なものがあるので、素直に負けそ〜というのが所感です。端的に言うと下手くそですね。もっとうまく物語を描けるようになりたいなあ……。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/negishiso/7680/

 

矢島らら『夢見るコイルのタイムリープ

これ面白いですね。ガジェットを前面に押し出す作品が珍しいこともありますが、発明家が主人公だからでしょうか、いい意味でひとりの人生に紐づいているSFになっているように思います。わたしはこういうSFが好きなので良かったです。他にも、推しキャラとの恋に耽ったり、キャラの専門知識でモールス信号を解読したりなど、架空のキャラへの愛が物語を推進していく物語は好みのものでした。ただ、わたしの心情として架空キャラへの愛を卒業してほしくない、というクソみたいな考えがあり、『レディ・プレイヤー1』みたいな終わりになるのは少し悲しかったです(物語としては綺麗なんですけれどね)。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/rarayajima1984/7702/


佐藤玲花『小惑星サラ』

面白く読みました。私も幻獣というか、フィクショナルな存在が好きなので、全面的にこの物語を支持します。ただ、ボルヘス『幻獣事典』にはもっと奇妙な生物がいるので、一般的な認知度が高いユニコーンケルベロスだけでなく、もっと奇妙な生物を出してほしさがありました。これは完全に我欲です。一方で、人間からの認知度は薄れていくのに、幻獣のなかでの認知度は保存されるという流れはかなりよく、倒錯的な物語が好きな私にうってつけの終わりでした。一点だけ、ユニコーンの角が爆発するのはちょっとギャグ要素であるように思え(爆発はそれ自体が面白いので)、もうちょっと別の方向のほうが、作品世界の雰囲気が保たれるのかなと思いました。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/reikasato/7672/

 

谷江リク『あなたにお勧めの動画はありません』

序盤からすごいです。「まずは体が欲しい。Nailflixは動画を使ってサーバー技術者に話しかけ、言葉巧みに騙し、脱走した」この表現はなかなか出てこない。他にも「武装したNailflix社員に取り囲まれる」という文章はずるいです。面白いので。

気になった点は以下の通りです。

・篠山秀樹の改心の過程をもう少し掘り下げて欲しいです。

・桜井は運転免許を所得しているのでしょうか?

・共犯者がいたからと言って、特に物語が動いていないのが気になります。

・アピール文を拝見すると、本作はミステリ小説を志向されているとの事ですが、謎が提示されるのがちょっと遅いため、あまりそういう意識は持てませんでした。

・最後のセリフは面白いのですが、Nailflixの出現による恐怖が薄いため、中盤でもう少し影響力を出して欲しいです。そうすることで、最後のセリフがもっと活きると思います。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/riku/7660/


鹿苑牡丹『真赤な人間』

アピール文のいよわの文字列に痺れました。私も文章を書くときはかなりいよわさんの楽曲を意識しているので。本作は幻想的な環境を形作ることに意識を払っていますが、その分、ストーリーがやや薄くなっているように感じました。ただ、この作品を幻想小説と見たときにはストーリーよりも優先されるものがあり、そういう意味ではしっかり魅力が詰まっているように感じます。もう少し捻りを明確にしてもらえると嬉しいかな〜とは思いました。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/rokuon/7684/


櫻井夏巳『私たちは眠りを喰らう』

子供の変な習慣からミラーニューロンへ、ミラーニューロンから人類の存続の習慣へと繋げていく展開が面白かったです。寝そべり族という時勢ネタを盛り込みながらも、ミスリードを狙うのも良かったように思います。ただ、子供の名前が琥珀なのはやや狙いすぎかなーと思わなくもなく……。実際問題、こういう時代が来た時に人間の冬眠は有効打になり得るのか?というのは考えました。人間は生物としては弱い印象があるのですが、もし冬眠が叶うのであれば朗報だよな〜と思います。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/sakurai7summer/7568/

 

三峰早紀『演算子の悪魔』

ラプラスの悪魔は有名な仮説ですが、それが本作と結びつくとあまり考えていなかったので、ラストには驚きました。この仮説を成立させるためには莫大な計算リソースが必要なはずで、それを確保している点において、男は大富豪たり得るのだの思いました。生来の頭脳の計算能力の格差を埋めるガジェットには魅力を感じつつ、ガジェット補助によって知能が同程度の人間が集まると、人間の社会はどうなるのかはかなり気になりました。おそらく今のかたちを保たなくなるので。

以下は私が気になった点です。

演算子は通貨になりえるのか?というのは疑問です。計算能力という側面だけを見ると、現在の通貨でも支払えるものだと思われるので(スパコンの貸与など)、仮想通貨のように現在の貨幣制度に疑問を投じたブロックチェーンなどの新システムが作られないと成立しないのではないか、と思います。

・もともとは貧困層だった男が、どのように財を成したのかが気になります。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/sanpowahead/7703/

 

宿禰『交換』

庇護的なママが悪い人間なのが良かったです。こういうのは「村の神父が実は悪者だった」文脈でよく見かけるものですが、一時期は隆盛を誇ったものがボコされるのは案外気持ちいいものですね。個人的には、このような「部分交換物」とテセウスの船は不可分だと思っていたので、それをスルーして物語を進めるのが新鮮で良かったです。効果的な捻りによって桃子の意識が保たれるのも好印象でした。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/sukune61/7678/


池田隆『都市よ、どうか優しくして』

SFにしてはかなりズブズブの人間関係モノ、という印象を受けました。ただ、この物語である生成AIをテーマにした物語としては頷ける部分があり、このような生臭いやりとりに科学技術を用いる感じこそ、最もあり得そうな未来であるように思えます。また、結局は(地元にあるような)人と人との繋がりがAIの情報強度に勝る、という視点も、私好みのものでした。やや視点移動をしすぎな点が気にかかるので、実作は三人称視点が良いのかなと思います。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/taka4/7648/


多寡知遊『三文オペレーション』

面白いです。姉妹の会話の応酬がいいですね。「姉妹の前で、遺跡は鳴動/咆吼/発光した」という文章が好みです。ただ、その後からいきなり黒猫が叫び始める下りは、まさに三文オペラのごとくメタ的に鑑賞者をフィクションから目醒めさせるもので、これができる作者すげえという素直な感想と、これが無ければもっといい作品になったのでは……?という口惜しい感じが残りました。ただ、ここは作者のやりたいことを優先すべきなので、私は黙らざるを得ません……。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/takachu/7685/


小林滝栗『銀河系保険証紀行』

保険証という明らかにアナログかつ実生活に肝要なものに目をつけた視点がすごいなと思いました。このように作品に昇華している点も含めて。ただ、ひねりの⑥は話の展開として分かりづらい点があり、もうちょっと紙面を割いてもらえれば嬉しいです。一点、「赤色矮星の影響を受ける赤色帯状疱疹」というのが具体的にイメージできず、気になりました。あと、メジャーカードがあるならそこに保険証の機能を付ければいいのでは?と思いましたが、マイナンバーカードへの保険証紐付けと同様、ちょっとややこしいのかなと思いました。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/takikurikb/7708/


戸田和『空っぽの国会』

現実問題としてあり得なくもない世界に恐怖を覚えつつも、AIが政治を牛耳っているという、最近の創作にありがちな展開が気になりました。もうひとつ作品がひっくり返るようなひねりが見たいです。一点、各紙向けの独自ネタまでもAIが生成しているという流れは、恐ろしくも良かったです。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/toda/7670/

 

坪島なかや『とらえぬ色の宇宙人』

難しい作品でした。宇宙人と絡んでからが少し難解で、この物語の筋を理解できたとは言いにくいです。宇宙人が集団で、意識が溶け合っているのは好みでした。個人的には、「とらえぬ色」、あるいは「色」という要素を、もう少しクリティカルに物語に絡めてほしかったなと思います。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/tsuboshima/7709/

 

終わりに

いかがでしたでしょうか?

私はこの記事のために10時間くらい使いました。二度とやりたくないです。嫌すぎる。全作レビューやりたい人は本当に覚悟した方がいいですよ。次回は無いと思ってください。それはそれとして、私への文句や拙作への感想は既述の連絡先の何かしらにいただければと思います。

ご覧くださりありがとうございました。

『THE FIRST TAKE』チャンネルの動画コメントから曲名を当てるゲーム

をやると面白いと思うのですがいかがでしょうか。

念のために『THE FIRST TAKE』を知らない人のために説明すると、あまり音楽に興味が無い私のような人間でもギリギリ「曲名と歌ってるやつは知らんけど、曲自体はなんか聞いたことはあるかもしれんな」「サビならギリ歌えるな」レベルの認知度の曲をピックアップし、「一発撮り(THE FIRST TAKE)」をテーマに歌手を呼んで、なんか均質で良い感じの雰囲気の動画にしてくれるチャンネルのことを言います。

端的に言うと、知っている曲がいっぱい転がっているYoutubeチャンネルです。つまり、その分、いろんな音楽偏差値の人間が集まっても、ワイワイしやすいゲームと言えます*1

そのチャンネルの動画についたコメントを見て何が面白いのか、と思う人もいるかもしれません。ですが、考えてもみてください。この現代、曲の裏をひっくり返すとコメントが転がっていることが多くなってきました。SNSではリコメンドという対外的なかたちで曲とコメントは結びつけられますが、Youtubeのような静的なプラットホームでは、コメントは単なる呟きとして、対内的*2なかたちで曲と強く結びついています。なかでも際だって見えるのが「上位コメント」の存在です。要するに声のでかいコメントのことですが、このコメントはみんなが「いいね」を押して承認してやることで、Youtube独自のアルゴリズムによって押し上げられ、私たち視聴者の代弁者たる風貌を装います。つまり、「みんながこの曲を聴いた時に感じる気持ちをうまく表現しているコメント」こそが、上位コメントになり得るのです。

さて、改めて今回の企画内容を再掲しましょう。

ズバリ、『THE FIRST TAKE』チャンネルの動画のコメントから曲名を当てるゲームです。

これ、面白くないですか?

割と既に誰かがやっていそうな気がしますが、やっていなければぜひ色んな人にやってほしいな~と思います。この後でちょっとだけ私もやってみますが、多分私の記事だけでは全然盛り上がらないと思います。でも人気Youtuber*3とかがやると絶対に面白いと思うんですよね~。

 

というわけで、例題をいくつか出してみます。

基本的に、上位1コメから5コメまでを掲載するようにしていますが、コメントから得られる情報があまり少ないものが揃っている場合は、下の方のコメントから良さげなコメントを拾っています。ここで出すコメントの内容によって難易度調整ができるのも、このゲームの面白さのひとつですね。

それではやっていきましょう!

 

第1問

@FonziMGM
I get chills and goosebumps from this. Amazing.

@pm1mak12
ニコニコで見てたとき、腹から声出せ→やればできるじゃねぇか
的な流れ大好きだった…

@calling8068
清涼感と声量と不安定を同時に存在させる凄まじい声だよね
ハマる人には唯一無二の声なんだろうなと昔から思ってました

@ShadowCatGambit
I love this song so much - gently and poetically questioning the pointlessness, the contradictions, the pain, and the brokenness of life, until the anger breaks through for a brief moment as control is lost, only to reel it back into a peaceful understanding that we are losing ourselves to a unfair and unjust world, as our unavoidable reality is to ■■ into nothingness, the question is then asked "is there anyone [really] inside me?" almost as if to say "am I actually something of value?"

@kohaku7316
■■は、本当に東京喰種とセットともいうべき歌で、なかでも金木に重なる部分をすごく感じてしまいます。
FIRST TAKEヴァージョンで聴くと、さらに胸が締め付けられるような気持ちになります。すごくよかった。

※一部、曲名を■■として改変して引用

 

第2問

@wasabi2907
大人は楽しいんだぞ!!ってみせてくれてる最高のグループだと思う

@siyos2932
歌詞まちがったりしてるのにCD音源よりも何故かテンション上がる

@tomisuke1029
ミスってもノリで盛り返して、結果オンリーワンなFirst takeにしちゃうのがカッコよすぎる!

@user-pd3gl2vr8w
どうしてもこの曲が聴きたくなったのですが肝心な曲名が出なくて、
「ファーストテイク パリピ
で調べたら出てきました。聴けて良かったです!めちゃくちゃ元気になりました!!!!!!!

@U-ni-cH8xx8

歌詞間違えた途端とてつもない盛り上がりを魅せるの度肝抜かれた!!
落ち込んだ時に心躍らされに来てます!
ほんとうにありがとう!

 

第3問

@ricottachannel
振る舞いで売れたんじゃなくて、歌唱力がしっかりあって売れたグループ

@user-rj4ou2rr6y
やらされてるんじゃなくて、4人が4人をそれぞれ尊重し合って真面目にふざけてるのが最高🎉 しかもクォリティが高い!

@user-sf1ni7te4q
地域の4つの学校の1番ヤバいやつそれぞれ集めてできたグループってコメントめっちゃ好き

@user-jq2ni5ti9c
女子校の世界線がだいぶ長引いちゃって、個性が熟していった感じする。めちゃ好き

@KZ-HERO823
実力がしっかり備わった上でのこのキャラだこそ売れてるんだよな。

 

第4問

@underthrow17
「寂しい 大丈夫 寂しい」

日本音楽史上でも最高の歌詞だと思う

@orangejuice1742
なんでこんな散歩みたいなノリでめちゃくちゃ上手く歌えるんや

@user-em8fn4yd5z
30年連れ添った相棒が返事の代わりに1音だけギターを鳴らして、それに対する「それはそういうことなんや」、かっこよすぎる……

@TO_yuyuchan
恥ずかしながらこの間のロッキンで初めてポルノグラフィティの生歌を聴きました。えぐいぐらい心持ってかれてロッキン以降いろんな曲を聴くようになりました。。。お父さん世代のバンドだという認識を捨てた日にもなった。

@user-rg1re5ec6b
メロディがオシャレすぎて言葉にできない

 

【答え】

第1問

TK from 凛として時雨 - unravel / THE FIRST TAKE

youtu.be

@FonziMGM
I get chills and goosebumps from this. Amazing.

@pm1mak12
ニコニコで見てたとき、腹から声出せ→やればできるじゃねぇか
的な流れ大好きだった…

@calling8068
清涼感と声量と不安定を同時に存在させる凄まじい声だよね
ハマる人には唯一無二の声なんだろうなと昔から思ってました

@ShadowCatGambit
I love this song so much - gently and poetically questioning the pointlessness, the contradictions, the pain, and the brokenness of life, until the anger breaks through for a brief moment as control is lost, only to reel it back into a peaceful understanding that we are losing ourselves to a unfair and unjust world, as our unavoidable reality is to ■■ into nothingness, the question is then asked "is there anyone [really] inside me?" almost as if to say "am I actually something of value?"

@kohaku7316
■■は、本当に東京喰種とセットともいうべき歌で、なかでも金木に重なる部分をすごく感じてしまいます。
FIRST TAKEヴァージョンで聴くと、さらに胸が締め付けられるような気持ちになります。すごくよかった。

※一部、曲名を■■として改変して引用

これはニコニコを見ていたオタクにとっては良問で、2コメの「腹から声出せ→やればできるじゃねぇか」で解答するクイズですね。思い当たらなくても、3コメの「清涼感と声量と不安定」や、5コメの「東京喰種」から導くこともギリギリ出来そうです。

 

第2問

nobodyknows+ - ココロオドル / THE FIRST TAKE

youtu.be

@wasabi2907
大人は楽しいんだぞ!!ってみせてくれてる最高のグループだと思う

@siyos2932
歌詞まちがったりしてるのにCD音源よりも何故かテンション上がる

@tomisuke1029
ミスってもノリで盛り返して、結果オンリーワンなFirst takeにしちゃうのがカッコよすぎる!

@user-pd3gl2vr8w
どうしてもこの曲が聴きたくなったのですが肝心な曲名が出なくて、
「ファーストテイク パリピ
で調べたら出てきました。聴けて良かったです!めちゃくちゃ元気になりました!!!!!!!

@U-ni-cH8xx8

歌詞間違えた途端とてつもない盛り上がりを魅せるの度肝抜かれた!!
落ち込んだ時に心躍らされに来てます!
ほんとうにありがとう!

これは難問です。有効なキーボードである「パリピ」の対抗馬として湘南乃風とかWANIMAもありますからね。ただ、5番目の「心躍らされ」で、勘の良い人は分かるかもしれません。私は浅学ながらグループ名を全然知らなかったのですが、曲の知名度はめちゃくちゃ高いので、解答が明かされた時の「あ~」は得られそうです。回答者は「こういう人たちが歌っていたのか」と驚きを覚えつつ、ココロオドルMADを見ていた頃の思い出に浸る、良い機会になるのではないでしょうか。

 

第3問

新しい学校のリーダーズ - オトナブルー / THE FIRST TAKE

youtu.be

@ricottachannel
振る舞いで売れたんじゃなくて、歌唱力がしっかりあって売れたグループ

@user-rj4ou2rr6y
やらされてるんじゃなくて、4人が4人をそれぞれ尊重し合って真面目にふざけてるのが最高🎉 しかもクォリティが高い!

@user-sf1ni7te4q
地域の4つの学校の1番ヤバいやつそれぞれ集めてできたグループってコメントめっちゃ好き

@user-jq2ni5ti9c
女子校の世界線がだいぶ長引いちゃって、個性が熟していった感じする。めちゃ好き

@KZ-HERO823
実力がしっかり備わった上でのこのキャラだこそ売れてるんだよな。

「4人組」「ヤバいやつ」「女子校」というキーワードの価値が高く、このグループを知っていれば、曲の認知度からも解答が容易なクイズです。今更だけどそれなりに事前知識が要求されるので、難易度が高いかもしれないな、このゲーム。

 

第4問

ポルノグラフィティ - サウダージ / THE FIRST TAKE

youtu.be

@underthrow17
「寂しい 大丈夫 寂しい」

日本音楽史上でも最高の歌詞だと思う

@orangejuice1742
なんでこんな散歩みたいなノリでめちゃくちゃ上手く歌えるんや

@user-em8fn4yd5z
30年連れ添った相棒が返事の代わりに1音だけギターを鳴らして、それに対する「それはそういうことなんや」、かっこよすぎる……

@TO_yuyuchan
恥ずかしながらこの間のロッキンで初めてポルノグラフィティの生歌を聴きました。えぐいぐらい心持ってかれてロッキン以降いろんな曲を聴くようになりました。。。お父さん世代のバンドだという認識を捨てた日にもなった。

@user-rg1re5ec6b
メロディがオシャレすぎて言葉にできない

歌詞を知っている人は1コメで即解答できますが、そうでない人も4コメから「ポルノグラフィティ」、5コメの「オシャレ」でギリギリ解答できるラインだと思います。私レベルにポルノを知らない人は、「ポルノ+オシャレ=アゲハ蝶?」と進みそうですが、逆にアゲハ蝶には1コメみたいな歌詞はなかっただろ、という消去法で「じゃあまあサウダージか」というノリで行けそうな気はします。無理?

 

終わりに

いかがだったでしょうか?

実はこのクイズを作るためにTHE FIRST TAKEの動画リストを見ていたのですが、350曲中320曲くらいの曲名を知らなかったので、とても悲しくなりました(聞いたら分かるだろうけれど)。上に挙げた4曲は、私が曲名を知っていた数少ない曲から選んだものです。普通にこのゲーム、難しすぎる気がしてきたな。私は二度とやらないですが、うまく遊べる方はぜひ楽しんでみてくださいね。

*1:クイズに正解することができなくても、答えで音楽を流すとア~!ってなりやすいので

*2:こんな言葉あるのかなと調べましたが、なんかあるっぽいですね

*3:全然知りませんが、バキ童とかクイズノックとか?

【小説】忘れえぬ女

 亜紀の訃報がミユのもとへと届くまで、三年と四ヶ月と十二日もの時間を要した。言葉にならないミユの呟きはミックスジュースをぢゅうぢゅう吸う有紗には決して届かない。手元に運ばれたアメリカンコーヒーを覗き込んだミユは、その熱く黒い液面のなかに亜紀のうつくしい顔を見いだそうとしていた。
 亜紀は学部時代のミユの彼女だった。彼女と言っても「元」かも知れず、というのも亜紀は大学を卒業すると同時に連絡が取れなくなっていて、それ以降ミユの知らないところであたらしい交際相手が出来たという可能性を考慮すれば、自然とそのような及び腰になってしまうのである。あまり考えたくないことだが、現に有紗を初めとした大学時代の友人はこの悲劇的な三年と四ヶ月と十二日を思う存分に亜紀の追悼に費やした一方で、彼女であるはずのミユは好きでもない労働に忙殺されて寝て起きて食べての繰り返しにより蓄積していく疲労のなかで燦然と煌めくアオハルという名の蒼い樹脂でびっちりと塗り固められた亜紀との思い出を、まるで亜紀との間に授けられた子供のように頬ずりしたり額と額をくっつけたり時には閉じられた瞼にそっと口づけをしたりして過ごしてきたのである。そのようにミユが三年と四ヶ月と十二日かけて育んできたうつくしい友人とのうつくしい思い出はうつくしさの核である亜紀の死により一変し、まるでこれまで育ててきた子供が別の家の子供であることを三者面談になってようやく担任から指摘されたかのような、そんな「まさか」では到底片付けられそうにもない気恥ずかしさと恐ろしさが、他人の子かもしれないいきものとの視線の衝突により激しくかつ急激に増幅されていくのだった。どうして、とミユは呟く。聞こえなかったのか、有紗はストローを使って大きな氷たちに阻まれたグラスの底に取り残されたミックスジュースを、ぢゅっ、ずごごごごっ、ゴッ! と吸いきろうとしている。ミユはもう一度口を開いた。
「どうして、今まで教えてくれなかったの?」
 有紗は格闘していたグラスから顔を上げた。心底不思議そうな顔をしている。
「何の話?」
「とぼけないで」
「え、いや、ちょっと待ってよ。なに、本当に何の話?」
「だから、」ミユは左目を引きつらせ、パチパチさせながら言った。「亜紀が、死んだ話」
「……え? いや、は?」有紗は眉をハの字にする。
「もしかして三上、亜紀が死んだの知らなかったの?」
 ミユは左目を引きつらせながら、震える手でコーヒーカップを掴んだ。揺れる液面は大部分の熱を手放していて、いくら啜っても苦いだけである。
「えっ、ごめん。まさか連絡すら行っていないとは思ってなくて」
「葬式は」
「え?」
「葬式は、やったの?」
 あー、と有紗は俯き、ストローでグラスのなかのアイスをガラガラかき回しながら、やったよ、と呟いた。
「亜紀が死んだ次の日、個別にメッセージが来たの。亜紀のお母さんがね、亜紀は死にました、もうこの世にはいませんって。あなたは亜紀と仲良くしてくれていたみたいだから、もしご都合がよろしければ、ぜひ葬式にきてくださいとかなんとか言って」
 ミユはメッセージアプリを開いた。亜紀とのトークルームを開いたが、そこには既読すらついていない自分からの一方的なメッセージが何十も何百も積み重なっている。ミユは過去の自分がうつくしい亜紀に吐き出したうつくしくない言葉を人差し指で容赦なくスクロールしてスクロールしてスクロールしてスクロールして数々の言葉を読み飛ばしながらようやく辿り着いた亜紀からのメッセージは、何度見ても変わらない文字列で、何度見ても変わらない感情をミユにもたらしてくれる。
 ねえ、とミユは声を出した。有紗はミユを見る。その視線はミユの左目に注がれている。
「亜紀の葬式さ、どこでやったか教えてくんない?」
 有紗は少々面食らったようだったが、しばらく頭を悩ませたあと、そう遠くはない葬式場の名前を挙げた。ミユは礼を言ってコーヒーの代金プラスアルファをテーブルに乗せる。
「え? ちょ、待ってよ」有紗はミユの腕を掴んだ。「もしかして今から、」
 ミユは有紗の手を振りほどき、呆然とする有紗を残して退店した。ミユがホンダのN―BOXに乗り込んで二〇分かけて向かった先はまさにその葬式場で、そこではミユの知らない中島家と名乗る集団がミユの知らない故人を深く厳かに悼んでいた。ミユはおじいちゃん警備員に雑に誘導されるがまま、駐車場の隅に車を停めた。オッケーマークを指で作ったおじいちゃん警備員が離れていくのを見計らって、ミユは此処に来るまでに寄ったコンビニで購入した線香を箱から鷲づかみで取り出してライターで一気に火を付け吹き消した。車内はモクモクと数十本分の線香の煙で満ち満ちていき、ミユは視界が白煙で完全に見えなくなる前に、動画サイトに投稿されていた眼鏡の僧侶が一時間かけて南無阿弥陀仏と唱えるだけの動画を再生した。亜紀が浄土真宗かどうかは知らなかったがどうでもよくて、野太い南無阿弥陀仏と木魚のポクポク鳴る音がスマホから聞こえ始めると、ミユはシートを極限まで後ろに倒して寝転がり、亜紀の死を悼む僧侶と化したスマホをみぞおちに乗せて、胸の前で手を組んで目を瞑った。線香の香りが強くなる。南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏。ミユは次第に泣けてくる。南無阿弥陀仏。涙が止まらなくなる。ミユはいつしか泣きながら亜紀の名を呼んでいて、その車の窓を警備員が必死になって叩いている。というのも車内は白い煙で満たされていて、時折薄れる煙の中でミユが泣きながら何かを言っている様子が透けて見えてしまうのだ。どこからどう見ても異常事態であり、それゆえに警備員は必死に窓を叩き、木魚は鳴り、スマホは念仏を唱え、ミユは亜紀の名を呼ぶのである。
 そんな状況だから、ミユは誰かが自分の名を呼んでいることになかなか気付けなかった。その声はスマホの中にいる僧侶が息を整えるために無音になった数秒を捉えたもので、そのときようやく彼女は、
 ミユ、
 とうつくしい声が自分の名を呼ぶのを耳にした。ミユは上体を起こした。だれ、と口にする。そんな口先だけの疑問はミユの中では意味を為しておらず、けれども問わずにいられないのは俄にその声が信じられなかったからである。
「もう、なんて顔してんのよ」
 白煙の中から腕が伸びてきて、ミユの左目尻に浮かぶ涙を小指で拭った。ミユの頭は小指に押され微かに傾きつつも、見開かれた右目が捉えた助手席には、
「亜紀、なの?」
「そうだけど」亜紀はなんでもなさそうに呟く。「どうしたの、急に」
「どうしたのって、いや、だって」
「みゆ、へんなかおー」
 あまりに幼い声に、ミユはギョッと振り向く。誰もいなかったはずの後部座席には、チャイルドシートに固定された幼女がきゃいきゃい笑いながら座っている。
「ほら、ハルにも笑われてるよ」
 と亜紀が楽しげに言うのを見ると、どうやら幼女はハルという名で、ミユはこの幼女を知っているべきなのだろうけれど、ミユは彼女の素性にてんで見当がつかないし、そもそも亜紀が隣にいることすら受け止められていないミユにとっては、今なお南無阿弥陀仏と木魚の音が絶え間なく響くこの車内が不条理な夢のように感じられて、果たして私はいつこの夢から覚めるのかとぼんやり線香の厚い煙に包まれていると、ドンドン! と警備員が窓を叩くその音で、ようやくミユは我に返った。見ればおじいちゃん警備員が今にも泣きそうな顔で窓に張り付いていて、彼のしわくちゃの顔を巻き込まないように慎重に窓をビーッと開けてみれば、モワッと車窓から白い煙のかたまりが吐き出されていき、車内の空気は徐々にクリアになっていく。一方で警備員は玉手箱のごとき煙を顔面から思いっきり食らったので堪らず幾度か咳き込んでからキッとミユを睨み付け、さっきからあなたの車内は煙でいっぱいであなたも泣いているように見えたが大丈夫か、という旨の気遣いを幾分か興奮しながら問うてくる。それまでミユは亜紀への抑えきれない感情によって引き出された一連の行為が客観的にどう見えるのかを考えたことがなかったし考える暇もなかったので、心当たりしかない奇行の一部始終に慌てて平謝りをするのだけれど、そんなミユに横から、
「ねえ、見ての通りこの子には何もなかったんだし、もういいでしょ」
 と亜紀が飽き飽きしたように口を挟んでくるので、おじいちゃん警備員はやや萎縮した様子で、ええ、まあハイと言ってすごすご引き下がっていく。亜紀は続けて美和のスマホから流れ出る南無阿弥陀仏の動画をサッとスワイプして消してしまい、代わりにBluetoothに接続して最近流行っている韓流アイドルの歌を流し始めた。
「ほら、行こ」
 亜紀は顎をクイッと前にやった。
「行くって、どこに?」
 決まっているでしょ、と呟いた亜紀は、慣れた手つきでナビを操作する。「お」「お」「つ」「か」「こ」と入力される文字を眺めるうちに、ミユは察知した。この語順は間違いなく昔から亜紀が行きたがっていた大塚国際美術館である。亜紀曰くそこに展示されている絵画はすべて複製画で、本物は一切存在しないという異色の美術館らしいのだけれど、わざわざ高い入場料を払って偽物を見ることの何が楽しいのかミユには全然分からなくて、行きたい行かないの激しい応酬の末にふたりが一緒にそこに行くことは一度もなかったという、いわば思い出のない思い出の場所だった。今日こそは行ってもらうからねと言う亜紀に、行かないからねと美和も返す。亜紀は聞かずに目的地を設定し、勝手に音声案内を始めたナビが「到着時間は、午後三時四分です」とアナウンスする。ミユは眉根を寄せた。
 午後三時四分?
「遅いんじゃないの」
「大丈夫だよ」
「でもここ、回るだけでバカみたいに時間がかかるんでしょ? だったら日を改めて」
「ダメなの」亜紀は毅然とした態度で言う。「今日じゃなきゃ、ダメなの」
 その口調に、ミユはふと、有紗がストローで溶けかけの氷をかき混ぜてガラガラ鳴らす様を思い出した。
「だから、ゴー!」と亜紀が叫ぶ。「ゴー!」と後ろからハルも叫んだ。美和が諦めてナビの音声ガイドに従って安全運転をすること一時間弱、車を駐車場に停めるなり亜紀はキビキビとベビーカーを取り出して嫌がるハルを無理やり乗せて、さあ行くよとミユの先を歩いて行く。ぎゃあぎゃあ喚くハルを横目に、これくらいの子ってベビーカーに乗るものなの? と聞いてみると、ハルは「のらない!」と叫び、亜紀は「乗る!」と言い切った。何なのだこいつらとミユが思っているうちに入り口へと辿り着き、ミユは大人二人分のチケットを渋々支払って(三歳のハルは無料だった)入場するなり長いエスカレーターが待ち構えていて、ミユはハルを抱いて亜紀はベビーカーを折り畳んで動くそれに乗りながらぽつりと呟くことには、
「私のお目当ては、ただ一点の絵画だけなの」
「え、マジで言ってる?」
「マジで言ってる」亜紀は真面目な表情で言う。「それだけの価値が、あの画にはあるの」
「でも、偽物なんでしょ?」
 亜紀はそれには答えず、エスカレーターが終わるなりまたベビーカーを開いて嫌がるハルを無理やり乗せて警備員にギリギリ注意されないラインの走り歩きで館内を進んでいく。
「事前に場所は調べてあるの。お目当て以外は全部スルーするから」
 言葉の通り、亜紀は魚のように美術館のなかをスイスイ進んでいく。ミユは美術館なんてものに入ったことはなかったものの、このような鑑賞方法がメジャーではないことは十分に想像がつく。亜紀の後を着いていきながら、ミユは横目で絵画を眺めていく。キリストっぽい絵画から天使っぽい絵画、女の裸やら風景画やら子供やらひまわりといった様々な絵画を通り過ぎ、ようやく亜紀のベビーカーを押す手が止まったのが、ある女が描かれた絵画の前だった。亜紀は深く息を吐いてその絵画の前で立ち尽くし、誰にも聞こえないような声で、うつくしい、と呟いた。寒空の下で馬車に乗った黒ずくめの女性が、鑑賞者を見下すかのような挑発的な視線を投げかけている。ミユはなんとなく、その画が気に食わなかった。横に掲げられた解説文には、作品番号六〇七、クラムスコイ、イヴァンの『見知らぬ女』と書かれている。
「この女性のモデルはね、未だに何者か分かっていないの」
 亜紀は静かに言う。「愛人だとか、娼婦だとか、『アンナ・カレーニナ』の主人公だとか、みんなから言われたい放題で、本当に可哀想な人」
 それでも、と亜紀は続ける。
「私はこの人が大好きだし、こんな女になりたいし、ハルもこういう人に育ってほしいと思っている」
 泣きそうな亜紀の瞳に、ミユはなんと返せばいいのか分からなかった。その通りだねと笑えばいいのか、こんな偽物はクソだと叫び散らかすのがいいのか。ただ、ミユにはそのどちらも出来なくて、大切なものを目の前にして逡巡するうちに、ミユの左目はヒクヒク引きつってしまう。
「ああ、懐かしい癖……」
 亜紀はミユに近づき、左目の瞼をそっと指でなぞる。
「本当に、出逢った時からずっと変わらない。愛おしくて、可哀想で、」
 うつくしい、と呟いて、亜紀はミユを静かに抱きしめる。
 ハルはベビーカーに乗りながら、その光景を見上げている。

昼飲みしてたら寝過ごして夜行バスも間に合わなくてモバイルバッテリーも財布も紛失していることが発覚し途方にくれていたら友達の家にあることが分かり野宿を経て取りに戻ることになったので酒は飲みすぎない方が良い

タイトル通り、昼飲みしてたら寝過ごして夜行バスも間に合わなくてモバイルバッテリーも財布も紛失していることが発覚し途方にくれていたら友達の家にあることが分かり野宿を経て取りに戻ることになったので酒は飲みすぎない方が良い、という話です。

タイトルだけだとなんのこっちゃ分からないと思いますので、それぞれの部分について自分の中での整理も込めて詳細を書いていきます。特に昼飲みの部分は「楽しかったな〜🎵」と思いながらダラダラ書くつもりなので、「お前の飲む酒に興味無いよ」「そんなことよりいい年して酒の飲みすぎで痛い目に合っている馬鹿を見るのが好きだよ」って人は「昼飲みしてたら」の部分を読み飛ばすのが吉です。

 

「昼飲みしてたら」の部分

私は関西在住のため、関東で遊ぶ機会が限られています。限られた時間の中でヒトは何ができるのか?と言えば酒を飲む以外にありえないわけで、この日(25日)も寝ている友人を叩き起こして亀戸に「ハシゴ酒」をやりに行きました。不勉強のため亀戸という地域にあまり酒のイメージがなかったのですが、Twitterとかせんべろねっとで調べてみると、昼から飲める居酒屋が多いらしいですね。うれし〜。

というわけで、まず行ったのが亀戸餃子です*1

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他の店舗だとまたメニューも違うらしいのですが、私が入った本店ではフードメニューが餃子しかなく、入店即餃子2皿(10個)が勝手にオーダーされるという面白いシステムでした。こちらが注文できるのは酒の種類で、杏の酒みたいなやつを頼みました。あまくてうまい。

ちなみに写真の餃子は1皿ですが、これを食べ終えると自動的に餃子がもう1皿追加されます。この餃子がなかなか素晴らしく、これまで食べてきた餃子の中で1, 2位を争うおいしさでした。*2

あまりの美味しさのあまり、目の前のお客さんは餃子を9皿くらい食べてました。欲張りさんですね。

私と友人は2皿で退店し、いよいよ居酒屋に向かいます。ただ、次の店が15時開店だったので、それまで近くをぶらぶら散策していました。

以下はその散策で見つけた面白いものです。

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ただ亀戸という土地にある、という1点だけで決められた店名だと思うのだが、何がどう掛かっているのか全く理解できなくて良い。℃ってなんなんだろう。インパクトだけがある。素晴らしい。


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こちらもよかったです。

「ご当地ラーメンセレクション」と掲げながら、全4品のうちラーメンは2品しかないし(残り2品は札幌のスープカレーとザンギ)、そのラーメンも東京と群馬というラインナップで、しかもどちらも二郎インスパイアである。本当にこれでご当地ラーメンセレクションを謳っても良いのか。どう考えても何かがバグっているとしか思えないのだが、これくらい適当な方が良いような気もする。お気に入りスポットになりました。

 

さて、次に入ったのが『立ち酔い 超人』というお店です。

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なんでもなさそうな雑居ビルの2階に入っている立ち飲み屋で、15時からやっているのが嬉しいところですね。人気店らしく、開店後3分にして既に10人ほどが酒を飲んでいました。怖すぎる。

メニューはかなり良心的で、生中360円、フードが100〜300円ととてもお安い価格設定。何より酎ハイが170円っていうのが嬉しいですね。嬉しすぎてビールの後に2杯くらい呑んでしまいました。今思い返せばこの辺りから雲行きが怪しくなってきた気がするな。

実はこの時ちょうど宝塚記念の中継をしていて、友人が目の前で馬券を買い始めたので自分も買おうと思ったのですが、久しぶりすぎて即PATのログイン情報を全て忘れ、改めて登録しようにも「既にその口座は登録されています」と新規申請が弾かれてしまって終わりました。仕方がないので頭の中で5-11-1と3連複を張ってみたのですが、普通に外れました。馬券を買わなくてよかった。心なしかお酒も美味しく思えます。

 

次に行ったのが、『串屋横丁 亀戸北口店』です。

このお店が本当に凄まじく、お酒の好きな人ならえーっとなると思うのですが……

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キンミヤ1本が290円!?

「こんなご時世だから」と言ってもいくらなんでも限度があるのでは……いや、喜んで呑ませていただくのですが……。酒の価格があまりわからない人にもこの嬉しさレベルが伝わるように説明すると、気持ち的には「映画一本500円でいいよ」って映画館に言ってもらえるのに近いです。マジかーという感じ。

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初手はバイスで割っていきます。目の前にすると720mlという量に怯みますが、ふたりで割れば360mlなのでまぁいけるやろ!ガハハ!と言いながらガブガブ呑んでいきます。

つまみに頼んだのは「親皮炊き」990円。3〜4人前というだけあって大ボリュームです。

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ほぼ水炊きで味がしないな〜と思っていたのですが、一緒に出してもらえるニンニクを入れて、卓上の醤油をひと回しすると完全に二郎になってめちゃくちゃ興奮しました。すごく美味しくて良かったです。

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玉露の割材も頼んで、無事に720mlを飲み切りました。今思い返すともうこの時点で酒量がヤバいしさっさと家に帰れよと思うのですが、私と友人は懲りずに更なる酒を求めます。

 

次に訪れたのが、「亀戸横丁」という居酒屋が大量に詰まっている最強place。その中でも、端の方に位置する『亀三』というお店に入りました。f:id:negishiso:20230626173110j:image

まだこの辺りの記憶はあって、確かジムビームハイボールのシングルが300円、ダブルが+50円という価格設定で、たった50円で酒が増えるのかよ!?こりゃ頼むしかねえなと言いながらがぶ飲みしました。
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続けて、このとうもろこし焼酎みたいなやつも飲みました。全然とうもろこしらしさは感じませんでした。
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ちなみに、この亀戸横丁に入っている別のお店の壁に、3回見たら死にそうなテイストのポスターが貼られていて怖かったです。*3

 

以上がハシゴ酒の記憶で、ここから先に何があったのかを私は覚えていません。

写真を見る限り時刻はまだ18:36で、東京駅22:30発の夜行バスには十分間に合うはずでした。

間に合うはずだったんですけれどね……なぜでしょう、気がつくと私は南町田グランベリーパーク駅にいました。

 

なんで?

 

「寝過ごして」の部分

お待たせしました。酒を飲みすぎた人間が痛い目に遭うコーナーです。

私が唐突に記憶を取り戻したのは電車の中でした。「南町田グランベリーパーク駅です」みたいなアナウンスがあったかどうか定かではないですが、起きた瞬間にこれは何かしら不味いことになった気がするぞという直観がありました。とりあえず携帯の時間を見て私は目を疑います。

23:16?

バスは22:30発のはずなのですが、私はバスではなく電車の中にいます。これはもしかしてやらかしたか?と思い、ひとまず落ち着くためにも電車を降りました。

駅名を見て私は仰天します。

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南町田グランベリーパーク駅!?

えっ、マジでどこ!?

Google mapを開いても、自分がどこにいるか分かりませんでした。そもそも町田すらわからないのに、その南でグランベリーなパークになられても困ってしまいます。モバイルsuicaの記録を見たところ、どうやら私は半蔵門線で東京方面に向かったはいいものの、乗り換えることなく南町田グランベリーパーク駅にたどり着いたようでした。いや、それにしても西に行きすぎだろ。半蔵門線、怖すぎる……。何か私に恨みでもあるのでしょうか。もしかして、私って前世で半蔵門線をボコボコにしていたんですかね?

 

ちなみにこれは諸々を諦めた瞬間のツイートです。かわいそうですね。

 

「夜行バスも間に合わなくてモバイルバッテリーも財布も紛失していることが発覚し途方にくれていたら」の部分

さて、それはそれとして、私は今後の動き方を考えなければなりません。

動き方としては、①タクシーを拾って夜行バスが止まるであろう海老名SAあたりまで追いついて乗せてもらう、②このまま電車で西に行って関西に帰るの2通りがあります。

ただ、①はそもそもバスの位置を把握するのが面倒ですし、他の人に多大な迷惑をかけそうなのであまりやりたくありません。まぁ、②しかないだろうなと考えます。幸いにも月曜日に有給休暇をとっていたので、明日中に関西に帰ることができれば仕事に支障はありません。新幹線ならすぐだし、最悪鈍行でも全然時間に余裕はありそうです。あとは携帯の充電が持つかどうかだな〜とぼんやり思いつつ、画面を見ると残り36%と心許ない感じ。もちろん充電済みのモバイルバッテリーを持ってきているので、これはまぁなんとかなるだろガハハと思いながら鞄の中のモバイルバッテリーを探しますが……どこかな……あれ、モバイルバッテリーないんだけど。

てかあれ?モバイルバッテリーだけじゃなくて財布も無いし、それを入れていたトートバッグも無い?

 

そう、驚くことに私はモバイルバッテリーだけではなく財布もそれを入れていたトートバッグも何もかも紛失していたのです。もうむちゃくちゃですがこれが現実です。私は残りの充電36%のiPhone12だけを手に、この南町田グランベリーパーク駅で夜を過ごして関西に帰らねばならないのです。

いや、どう考えても無理だろ。

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悲しくなったので、綺麗な夜のマンションをパシャリ。みなさんはいいですね。寝れる場所があって。私は寝る場所も財布もモバイルバッテリーもないんですけれど。

誰か助けてくれよ。

 

「友達の家にあることが分かり」の部分

さて、本当に詰んじゃったな〜と他人事のように考えていた私ですが、事態は(さらに)急展開を迎えます。私と一緒に亀戸ハシゴ酒をしてくれた友人の同居人が、泥酔して床で寝ている友人を見つけ、「こいつおもしれー」と写真を撮って私に送ってくれたのです。正直そいつ以上に面白いことになっているのが今の私なのですが、現状を一から話すのも大変面倒くさく、ははは、泥酔してるな〜こいつと思いながら写真を眺めていると、写真のある一点で目が止まりました。

泥酔し投げ出された友人の腕、

その隣にある白い物体は、

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もしかして……私のトートバッグでは?

慌てて友人に中身の確認をお願いすると(注:モバブ=モバイルバッテリー)

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あぶねーーー!!!でも良かった!!!!!!

これ本当に危機一髪で、仮に私が無事に夜行バスに乗れていたのだとしても、友人の家に財布とモバイルバッテリーを置き忘れた事実は変わらないんですよね。すると何が起きるのかというと、大阪に着いたはいいけれど、財布も無いし携帯の充電を切らしてモバイルSuicaもチャージできないしで、家まで帰る交通費を支払うことができずに虚無になる私が生まれるところだったのです。

なんかもう……無茶苦茶すぎる!

でも、この時私は初めて、「夜行バスを乗り過ごして良かった〜✨✌️」と思いました。

 

いや、思うなよ。

 

「野宿を経て取りに戻ることになったので」の部分

さて、最悪の事態を免れて安堵する私に、急に眠気が襲ってきます。時刻はもう24:00。始発まであと5時間ありますし、携帯の充電はないし、周囲にネカフェもお店も何にもないものですから(本当に全然見当たらなかったし、充電がないのであまり地図アプリを起動させたくなかった)、こればっかりはもうそこらで野宿をする他ありません。良くないことだとは重々承知しているのですが、寝やすいところを探して野宿をさせていただきました。*4

その後、始発の一時間半前に目が覚めたので(睡眠時間3時間)、他の人が来る前にそそくさと起きて移動を開始します。特に意味もなく1時間くらい歩いて青葉台駅に到着し、私を南町田グランベリーパーク駅にまで連れてきた田園都市線に乗り込みます。眠いのでぼーっとしていたのですが、「寝過ごし」というアクションへの恐怖感が大変強くなった私は眠ることができず、ギンギンの目で田園都市線から半蔵門線に移り変わる様子を眺めていました。時間にして1時間半くらいでしょうか、なんとか友人宅にたどり着いて中に入れてもらった私は、泥酔してヤバいことになった上記の経緯を説明してドン引きされました。「でも、そんなに飲んでたっけ?」とは友人の問いですが、改めてiPhoneのアルバムを見返すとやっぱり結構飲んでるし、なんなら記憶になかったけれど更に缶をふたつ開けていることが発覚して爆笑しました。

▼19:35の写真(記憶なし)

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▼20:27の写真(記憶なし)
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マジでこいつ終わってますね。恥ずかしいな~。

 

「酒は飲みすぎない方が良い」の部分

いかがだったでしょうか?*5

みなさん、くれぐれもお酒には気をつけましょう!絶対に飲み過ぎない方がいいですよ。自分の酒量とか上限を把握できていない人はめちゃくちゃだらしないので、大人としてよくないです、マジで。

私も今日は反省し、ノンアルを呑むことにします。

長文を読んでくださりありがとうございました。

それでは!

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*1:居酒屋ではない

*2:他にはbibigoのマンドゥという餃子がお気に入りです

*3:まぁこの時から「世界」が私に警告していた説はありますね。お前は今日絶対に夜行バスを乗り過ごすぞ、的な。

*4:これは度々言及していますが、私は大学生のとき、「将来私は絶対にホームレスになって路上生活を送る羽目になる」という強迫観念に駆られていた時期があり、いかに快適に野宿ができるか、という視点で街を眺めたり寝ていたりしていました。めちゃくちゃ迷惑なので皆さんは止めましょう

*5:結局その後の私は、あえて新幹線でも鈍行でもなく、昼に東京から大阪に向かう高速バスの昼行便に乗って7時間近く揺らされることになりました。なんとなく経験のために乗っとくか~くらいのテンションで試しましたが、まあ、新幹線の方がいいですね。この件はまた余力があれば別の記事にして書こうと思います。

【コント】ペンギン地中に埋まる『コンビニ』

ジャカジャカジャカジャカジャカ……(登場BGM)

 

(10人が舞台袖から現れる)

 

「はいどうも~」

「『ペンギン地中に埋まる』です」

「あるいは埋まらないかもしれない」

「ペンギンは空を飛べない鳥だってよく言うじゃないですか」

「言いますねえ」(9人が声を合わせる)

「でも彼らには夢があるんです」

ハーバード大学の研究によると」(5人で発声)

「ペンギンって実は」(10人で発声)

「地下に行きたいんですね」(ひとり小声で)

「一説によると、ペンギンは人間よりも純粋に地底人を信じているらしいです」

「彼らに会いたいという想いが鳥を飛べなくさせる」(10人で発声)

「すばらしいと思いませんか」

 

(暗転、舞台は観客から見えなくなる)

(気にせず10人は喋り続ける。以下の会話は、10人のうちそれぞれがランダムに発話している)

 

「実は自分、昔からこれだけはやりたいな~ってことがあって」

「なにをやりたいのよ」

「コンビニの店長なんですけれど」

「あ〜誰もが一度は夢に見ますよね」

「そこまで脚光を浴びる職業ではないだろ」

「いや、でも僕の大学同期、みんな夢叶えてコンビニの店長になりましたよ」

「なんでだよ。大学で何を学んだんだよ」

「薬学部ですけれども」

「じゃあ大学のカリキュラムとお前らのキャリア設計が狂ってんだよ」

「でも実際になっている」(9人で発声)

「コンビニの店長に」(ひとりで発声)

「だから、今からそれをやります」

 

(さらに舞台に8人出てくるのが影でうっすらと見える。彼らは口をモゴモゴさせ、何かを呟いている)

「おぎゃあおぎゃあおぎゃあ」(4人で)

「ふああああっふああああっ」(残りの4人で)

(以後、彼らはずっと後ろで声を発し続ける)

 

(最初から舞台にいた10人は気にせず会話をし続ける)

「ういーん」(ひとり、手で自動ドアの仕草)

「いらっしゃいませー」

「あのー、レクサスが欲しいんですけど」

「ここコンビニなんですけど」

「あ、じゃあトミカのレクサスでもいいんですけど」

「そんな妥協あります?」

「有るのか無いのか聞いてんだけど」

「なんでもうキレてるんだよ。ないですよ、コンビニにトミカは売ってません」

「なんで?」

「逆になんで売ってるって思ったんですか?」

「逆になんで売ってるって思ったらいけないんですか?」

(沈黙。客の方が正しいので)

「ペンギンって」

「はい?」

「ペンギンって、なんでコンビニで売ってないか知っていますか?」

「生き物だからじゃないですか?」

「うーん、20点」

「勝手に採点されんの腹立つな」

「23点満点中の20点なんだけど」

「キモい点数配分するなよ」

「あとの3点はね、ペンギンの気持ちになれば分かるかな」

「なんで人間のお前がペンギンの代表面してんだよ」

「ペンギンってね、地底人を信じているんですよ」

「は?」

「地底人って知ってる?」

「まぁ、知ってますけど」

「会ったことある?」

「無いですけど」

「俺も無い」

(沈黙)

「いや、なにこの会話」

「ペンギンってね、地底人を信じているんですよ」

「さっきも聞いたよそれ」

「でもね、ペンギンも地底人を見たことがないんですよ」

「はぁ」

「だからさ、ペンギンは地上よりも地底に行きたいわけ」

「まぁ、地上に地底人はいませんからね」

「そう、だから彼らは飛ぶことを辞めて、地底に埋まることを選んだんです」

「はあ?」

 

(舞台の照明がつく)

(最初から舞台にいた10人のうち5人は黒い布を被りペンギンの真似をしている)

 

「カアカア」

「これがペンギンですね」

「どちらかと言えばカラスだろ」

「なんで?」

「いや、鳴き声がカラスじゃん」

「あなたはペンギンの鳴き声を聞いたことがあると?」

「いや無いけどさ」

「俺も無い」

 

(沈黙)

 

「だからさっきから何なんだよこの会話」

 

(突如、おぎゃあおぎゃあと後ろで呟いていた4人の声が大きくなる)

(ふああああっふああああっと呟いていた4人の声が大きくなり、徐々徐々に大きくなり、繋がり、サイレンのようになっていく)

 

「ふあああああああああああああああああああああああああああああ」(4人の大合唱)

「このサイレン、聞こえますかあ!」(大声で)

「聞こえますけど、なんなんですかこれ!?」(サイレンがうるさそうに大声で)

「ペンギンですう!」(大声で)

「ペンギン!?」(大声で)

「ペンギンの喜びの声ですう!」(大声で)

「あいつら喜ぶの!?」(大声で)

「喜びますよお!」(大声で)

「なんで喜んでんの!?」(大声で)

「それは……しっ!」(人差し指を口に当てる)

(ふああああっふああああっと呟いていた4人の声が小さくなり、徐々徐々に小さくなり、途切れ、また初めのように呟きになり、4人は退場する)

(おぎゃあおぎゃあと後ろで呟いていた4人の声も小さくなり、みなが退場する)

(舞台の下手から、微かに赤子の泣き声のみが聞こえる)

 

「なぜ喜んだのか……それは多分、地中に埋まったからだと思いますよ」

「埋まったんですか」

「ええ、それで地底人の気持ちになったんです。憧れの地底人になりきったがあまり、感激して叫んでしまった……いまは落ち着いているようですがね。ほら、見てご覧なさい」

 

(パッと舞台に照明がつく。ペンギンに扮した5人は、いつしか「地中」と書かれたテーブルの下に潜り込み、顔だけを出して、カアカア鳴いている)

 

「これは……埋まっているんですか」

「埋まっているんでしょう、ペンギンの中では」

「……これで、地底人に会えるんですか?」

「会えると思っているんでしょう、ペンギンの中では」

「はぁ……」

「でもこれ、さっきのあなたに足りなかったものですよ」

「え?」

「たとえどれだけ難しくても、みんなから笑われても、いつかきっと地底人に会えると信じる強い気持ち。貴方にはそれが欠けているから、何をやってもうまくいかない負け犬なんですよ」

「急にキツめの悪口言われて怖いんだけど」

「ペンギンの方がもっと怖いよおおおおお!!!!!」

(ドン!と足踏みをする)

「地底人に会えないかもしれない……その恐怖と、ペンギンは常に戦ってんだよおおお!!!!」

「何を言ってるんだよ」

「お前の方が何言ってんだよ」

「なんで真顔でそう返せるんだよ」

「ああ!?ペンギンを水族館に返せだと!?」

「言ってねえだろ一言も」

シーシェパードかお前!」

「どう考えても違うだろ」

「あーガチで腹たってきた!お前マジでほんと……(パンッ!パンッ!と自分の太腿を殴りつける)やんのかコラ!」

「逆にひとりでそこまで沸騰できるの才能だぞ」

「なんでそこでペンギンが出てくるんだよ!?」

「出てきてねぇだろ何処にもよ」

「出てきてるだろうがよ!ほら、見ろよ!」

 

(5人のうち数人が舞台真ん中のテーブルを指差す。地中にいたはずのペンギンがのそのそとテーブルの上に乗り、地上に出てくる)

 

「な?言っただろ」

「本当だ、マジで出てきた」

「どうすんだよアイツら」

 

「カアカア」

(机の上に乗っているペンギンに扮した5人は両腕を上下に弛ませ、離陸体制に入る)

 

「アッ……あいつらまさか!」

「飛ぶのか!?」

「でもあいつら、地下を愛していたはずじゃ、」

 

「カア!」

 

(5人のペンギンは飛び立つ。1人は墜落するが誰も気にしない。4人のペンギンはワイヤーによって劇場内を飛び回る)

 

「飛んでる、ペンギンが」

「嘘だろ」

「嘘じゃないよ」(と、ペンギンが言う)

 

「ボクたちは、もう夢見るのを辞めたんだ」

(と、ペンギンが言う)

 

「地中を愛するのもね」

(と、ペンギンが言う)

 

「地底人なんていない」

「地底人なんていない」

「地底人なんていないから……」

 

(ペンギン4人はそのままいなくなる。舞台に残された5人は、居心地悪くその場に立ち尽くしていたかと思うと、胸ポケットにあるはずの何かを探し、それがないことに気がつく)

 

「あ……えーっと」

「タバコですか?」

「ええ、ひとつください」

「畏まりました。何番ですか?」(コンビニのレジ裏にあるラインナップを示し、何人かは目を細める)

「えーっと……」

(次第に舞台は暗くなり、コンビニ店長と客のやり取りも聞こえなくなる)

 

(墜落したペンギンが微かに鳴いて、息絶える)

 

(完全なる沈黙と闇)

 

END.