「どうも〜マルバツ3確です〜」
「あ〜!」
「え?」
「あーーーー!」
「え、なんですか?」
「放流したいよ〜!」
「放流?」
「はぁ、はぁ……ごめん、持病の発作で放流したくなっちゃって」
「すごい発作だね。これまでの人生で色々苦労もあったでしょう」
「そうでもないかな」
「そうでもないことはないだろ。どうやって人は今の発作と付き合っていけば良いんだよ」
「そういえばこの前」
「無視かよ」
「電車の中で放流したくなっちゃって」
「何を?」
「セミ」
「セミ!?」
「活きのいいセミね」
「活きのいいセミ!?」
「冬にね」
「冬にセミ!?」
「そう」
「冬の満員電車の中で放流するの!? 活きのいいセミを!?」
「そう」
「ヤバくない?」
「そうでもないかな」
「そうでもないことはないだろ。お前の中の『そうでもない基準』はどうなってんだよ」
「それでドンキに行ったんですよ」
「無視かよ」
「ドンキでね、レジ前に売ってるでしょ。冬でも育てられるセミの育成スターターキット」
「絶対売ってないだろ。どこのドンキだよ」
「六本木」
「絶対に売ってないだろ」
「売ってるんだな〜これが」
「そんなわけないだろ」
「それでね」
「無視かよ」
「発作が出てきた瞬間、あ〜!ってなるのよ。あ〜!放流したい〜!って」
「難儀な発作ですねえ」
「だからあ〜!ってなりながらドンキに駆け込んで、あ〜!ってなりながらレジ前のセミ育成スターターキットを掴みに行くのよ」
「迷惑な客ですねえ」
「そしたらセミ育成スターターキットが、ミミミミミミミ!!!ってうるさくてさあ!」
「いや育ってるーッ!」
「え?」
「もうそれ育ってんじゃん! 成虫でしょ!? 買ったやつは何をスターターとして育てるんだよ」
「そんなの俺が知るかよッ!」
「なんで俺が怒られるんだよ」
「それでスターターキットをレジに持って行って、ミミミミ!!ってスターターキットがブルブル震えて、俺は発作でアー!って叫んで」
「大惨事じゃねえかよ」
「店員もアー!って叫んでて」
「なんで店員まで共鳴してんだよ」
「警察もアー!って叫んでて」
「警察呼ばれてんじゃねえかよ」
「だから慌ててスターターキット買って、もう周りに謝り倒して急いで電車に乗り込んで」
「何がお前をそうさせるんだよ」
「発作だよ」
「そうでした」
「それで疲れ切った社会人がギュウギュウに詰め込まれた電車の中でね、ぶわーっ!とセミを放流してやったんですよーッ!」
「結果はどうでしたか」
「もうね(唾を飲み込んで)みんな呆然よね」
「そらそうでしょうね」
「ミミッ!って活きのいいセミが大量にビシーッと電車の壁にゴキブリみたいに張り付いてね、ミンミンミンミン鳴くんですわ! 命の限り!」
「結構なことですよ」
「ドンキの店員も喜んでね」
「着いてきてんのかよ」
「警察も『いやー良いもん見れましたわ』って」
「仲良しかよ」
「それで三人で居酒屋行って乾杯ですよ」
「本当の仲良しかよ」
「それで……うあああああ〜ッ!」
「どうかしましたか?」
「あー!」
「あっ、もしかして発作!?」
「あー!(激しく頷く)」
「またセミを放流したいの!?」
「あー!(激しく頷く)」
「でもここにセミなんて……」
「あー!(服の裏からセミを掴んで取り出す)」
「えっ!?持ってんの!?」
「あー!」
「冬なのに!?」
「あー!」
「ドンキで買ったんだ!?」
「あー!」
「それを冬の劇場で放流するの!? 活きのいいセミを!?」
「あー!(思い切りセミを放流する)」
「うわ〜!」
(劇場は暗転、セミの鳴き声がひたすら劇場に響いている)
終