新薬史観

地雷カプお断り

【第3回梗概】ゲンロンSF創作講座全作レビュー

はじめに

こんにちは、ねぎしそ(小野繙)です。

実は5〜6月くらいから、ゲンロンSF創作講座というものを受講していまして、これまで全然書いてこなかったSFが書けるようになるために奮闘しています。

私の今回の受講目的は、①円城塔先生に渾身の実作を読んでもらう、②(百合ではない)創作コミュニティに浸かりたい・知り合いを増やしたい、③自分なりのSFの定義を見極め、強みを活かせる分野を模索する、④自分の相対的な筆力を見極め、向上させたい……などなどがあるのですが、先日、念願の円城塔先生の実作講評があったにも関わらず、時間管理ができずに実作を未完で出すというヘマをしてしまい、①円城塔先生に渾身の実作を読んでもらえる(かもしれない)機会を失い、ヘロヘロになっていました。

ただ、いつまでも引きずっていては仕方がないので、今後は前向きに②以降をやっていくぞということで、なんとか時間を見つけて全作品の感想をレビューしていきたいと思います。これは、「書き手は常に感想を求めている(はず)」という推測によって企画するものですが、そうでない方もいらっしゃると思います。そういう方は、私のX(旧Twitter)アカウント(@negishiso)や、こちらのブログのコメントや、discord(negi#7339)や対面(小野繙の名札を首から下げた眼鏡の成人男性)等で「ああいうの辞めてくれませんかね」と苛立ちを隠さずに言っていただければすぐに該当部分は削除させていただきます。

(今回はブログで初めて「ゲンロンSF創作講座」に触れるために長ったらしい前置きを書きましたが、今後はこの前置きは消えるはずです)

 

それでは第3回梗概レビューを下に列挙していきます。気になった部分も書いているので、ご参考にしていただければ幸いです(もしかしたら上から目線かもです、すみません)。

なお、裏ゲンロンSF創作講座や講評会で順位づけがされるため、この場では特にランキングはしないものとします。

 

朱谷『蟲飼いたちの夏』

夏、気になる人と田舎で過ごすという設定がめちゃジュブナイルでいいですね。「田舎の怪異である赤い霧が、研究所で開発された自己複製マシンの蟲である」という捻りも面白いです。「断片化していたが残っていた部位は保存状態もよく生きているように艶やか」というのも描写的に面白いです。ラストの「式見は友人の遺体に残存していた蟲を葉野へ移植し、さらに不足分を自分の体内から移す」がハイライトになる部分だと思うので、ここで周囲を蟲がブンブン飛び回って赤い霧を作って二人を囲んでいたら、異質な青春として綺麗だなと思いました。また、性別を明らかにしていないなーと感じたのが意図的とのことで、ここも嬉しかったです(百合だと美味しいので)。

以下、ここら辺が気になりました。

・なぜしっかり機能する蟲の開発に成功しながらも研究所は閉鎖したのでしょうか?表に出てきていないということは、蟲に何らかの欠陥があるということであり、それが作品で捻りとして機能すると面白いかなーと思いました。

再生医療の研究所が閉まって60年以上経っていれば、もう結構な未来のはず。人々は幽霊などの怪奇に対してかなり批判的になっているかもしれず、そんな人々が赤い霧という目に見えてヤバそうな怪異を放っておくのかな、と思いました。

・蟲の機能は「自己複製」とありますが、式見の傷を治す一方で、友人の断片的な身体は保存されている、という治癒能力の境界線が分かりませんでした。個人的にはプラナリアみたいにバラバラになった身体から大量の友人が複製されていたら面白いなと思いました。

・個人的には、このテーマ的にもう一捻り欲しかったです。例えば、「蟲の自己複製=蟲に寄生された人間の増殖」として、「実は式見の事故も、式見が自分の考えでやっているように見えるだけで、蟲の本能によるものだった(山の中にはこれまでに式見が増やしてきた蟲飼いがいる)」とするのも、結構な意外性になる気がします。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/00ake17aro47/7645/

 

みよしじゅんいち『ジャイロイドウケツ』

幾何学生物群で有名なティーガーデン星系の惑星B」という書き出しがいいです。幾何学生物群ってなんだよ、とビビるので。また、幾何学生物群に美術的価値が見出されている点、それで儲けようとする人間が主人公という設定も良かったです。非常に残念なのが、この幾何学生物群ってめちゃくちゃSFとして美味しいはずなのに、数学に疎い私にとっては、梗概という短い文章では(もしかしたら長文で書いても)、そのビジュアルを具体的にイメージできず、生物の動きが頭の中で組み立てにくい点です。これ、無理に普通の文章として出すよりも、レオ・レオーニ平行植物』みたいに絵本形式で想像力を爆発させたほうがいいんじゃないでしょうか(ちなみに私は未読です)? カレイドバットやジャイロイドウケツの姿をぜひ見たいです。最後に、悪人が目をつぶされるオチも良かったです。

以下、気になった点です。

・惑星ツアーの割に最少催行人数が少なすぎる気がします(それほどコストもかけずにツアーできるようになったのかもしれませんが)。

・「シカクロッペンシカクコウネジレカイメン」が思い切り日本語なのでもうちょっと工夫が欲しい気がしました。

・バンパイアプラナリアのシーンに割く文字数が多い割に、あまり物語が動いていない気がしました。菱形のプラナリアを21回の切断で殺せるのが面白いのは分かりますが、エンタメ的な盛り上がりも、もうちょっと欲しい気がします。

・全体的に物語よりも幾何学生物群図鑑のようになっているので、やはりそれに適した媒体にしたほうが、幾何学生物群の魅力がもっと伝わるように思います。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/34411kun/7626/

 

雨露山鳥『繁殖する文庫本のパラダイムシフト』

積読は文庫本の自然繁殖を促すことが確認された」という発想が面白いです。それだけだと出オチ感がありますが、そこから繁殖するのは本ではなく物語とするところに、話の展開力を感じました。そこからは怒涛の展開で、どんどん話が広がっていくのが良かったです。特に歴史改変に繋がり、各国の関係が冷え込むあたりが良かったです。また、最後に想像力を失った「ヒト」ではないヒトの存在を示唆するのが良かったです。ファイアパンチの世界だ!と喜びました。ただ、個人的に引っかかる部分が多かったので、そこらの整合性が取れるかがキモになるように感じました。

以下、気になったところです。

・「積読は文庫本の自然繁殖を促す」という事象が、21世紀半ばになって発見されるのは、ちょっと遅すぎる気がします。文庫本の流通が世界的に始まってすぐあたりの時代のほうが飲み込めます。

・当初の文庫本の繁殖には、「購入」「密着」というファクターが必要とのことですが、後々物語同士が勝手に増殖していくにあたって、これらが足枷になっているような気がしました。特に「購入」のファクターの扱いが非常に難しく、これを物語が判断することはできなくないか?と思いました。ただ、この購入のファクターを除けば図書館が物語の大養殖場になるわけで……難しいです。

・途中で、文庫本だけではなく物語を孕むものが全て融合するようになりますが、本質がそうであるならば、そもそも積読による自己増殖が見られるのは文庫本ではなくコミックの方が観測が早そうな気がしました。(本より単価が安いので)

・中盤、物語が変わることで人々の記憶も塗り変わりますが、それならばなぜ文学者たちは物語の変化を認識できたのだろう?という疑問が残りました。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/amatsuyu/7608/

 

藤琉『踊る森を背に』

初読時は突飛な設定と俳句にどういうことだ……?と思いましたが、アピール文を読んで全てを理解しました。「生まれついて死神が見え、死を操る力を持つ幼少期の小林一茶(幼名・弥太郎)が山での恐ろしい出来事を通して死・死神に決着をつけ、俳聖として開眼するイニシエーション(通過儀礼)の物語です」という説明文がめちゃくちゃ良くて、これだけで勝ち設定感はあります。描写としては「黒く輝く無数の歹が現れ、踊り始める」シーンや、「地から、歹を右肩に黒く光らせた腐った熊、鹿、狐どもが立ち現れ、弥太郎を取り囲む」シーンが素晴らしく、想像力の力強さを感じました。以下、気になった部分です。

・私が浅学なせいで、弥太郎と小林一茶が結び付かず、登場人物がなぜ俳句を詠んでいるのかが分かりませんでした。別に理由もなく俳句を扱っても良いのですが、小林一茶という情報が入るだけで一気に納得感が出るので、中盤以降の展開を若かりし小林一茶にするなどして、匂わせるのも手かなと思います。

・途中、死の字を分解して「歹」と「ヒ」にしたことで、次に出てくる「ム」をうまく飲み込めず、ずっと「ヒの間違いでは?」と考えてしまいました。仏の「ム」であれば、それを最初に書いて欲しいと思ったのですが、隠しておくのも一種の捻りですかね?だとすると難しい……。

・明確な捻りが2回、どこにあるのかが分かりにくかったです。面白かったので作品としては問題ないのですが、捻りの箇所だけアピール文とかに書いてくれるとありがたかったかもしれません。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/aphelion/7649/

 

岡田麻沙『サイトウからサイトウへ』

異常文章が読めてゲラゲラ笑いました。とても面白いです。特に『自分のシソーラスがぐちゃぐちゃに乱れていくのを知覚し、「すぐにボードレールを放出しなければ二層式洗濯機だな」と考えていた。
 それから、こんなのモンシロチョウだ、と思い直した。とにかくダヌールヴェーダを足の裏にピン留めしなければ。ソルベ、こんなに参加者を四角くしたいわけじゃない。頬杖をつき、四半世紀の一般読者に強制されるならば、それまでは何度だってピラティスしてやろうじゃないかと座り直す。そうして質実剛健が牛歩した暁には、霧が晴れるように配列が整理され、言葉が元の秩序を取り戻した。修正パッチが配布されたようだ』という一連の流れは素晴らしかったです。声に出したい日本語ですね。以下気になったところです。

・捻り自体は意外性があって良いのですが、前半部分があまりインドの神話と関係ないように思えました(私が気付いてないだけかもしれません)。個人的には何かしらの繋がりがあったほうが好きです。

・都市型サイトウの「サイトウ」とは?

・途中、物体そのものも書き変わりますが、その後の対応からも、VR的な場所に「私」は最初から居たのでしょうか? さらにメタバース・サイトウにログインするので、そこら辺がうまく理解できませんでした。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/asaman/7705/

 

廣瀬大『告解』

梗概からも伝わる淡々とした描写と、娘の交通事故のエピソードの悲惨さのバランスがよかったです。人の命を救う仕事をしている看護師を中心に、さまざまな命の巡り合わせを描いているのが綺麗でした。以下、気になったところです。

・いろんな宗教があるとは思いますが、一般的には宗教の神が救うのはその信者だけな気がします。本当に告解だけでいいのか?やけにサービス精神旺盛じゃないかと思いました。ここに、「実はそれは嘘で……」という捻りを入れても良いのかなと思いました。

・男は結局、本当に信者なのかそうでないのかが分かりづらかったです。本当に信者なら、自分は神を信じてないよとは言わない気がします。それは信者にとって一番言いたくない言葉であるように感じるので。

・この物語もそうですが、最近は「私は人を殺した……」と言う人の話を聞くと、間接的にしか殺していない作品が多いので、敢えてガチめに殺すことで、他の物語と差別化を図れる気がします。ただ、登場人物に前科が付いたり、物語のジャンルが変わるデメリットはあります。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/daihirose/7707/

 

瀬古悠太『皇国の贄』

面白かったです。捻りを入れるタイミングも話の構成も良く、設定も奇妙でありながらも悲壮感があって惹かれました。気になったところとして一点、「腐臭のする赤い液体」の描写で「あ〜、これは人間を溶かしていますねえ」と分かってしまいました(劇場版『メイドインアビス』-深き魂の黎明-でも似た描写があったので)。他の人はどうなのかは分かりません。そこにさえ目を瞑れば文句無しの作品だと思います。もう一点だけ言うなら、端正すぎるのでもう少し尖ったものを読みたい感がありますが、これは難癖の部類に入るかもしれません。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/dekaohagi/7677/

 

やらずの『胎樹』

面白かったです。アピール文にあるように子供を成すことをテーマにしながら、しっかりとした構成で物語が作られていて、SFをやっていて、模範的な梗概であるように感じました(捻りは少し弱かったかもしれませんが)。殺した村民の補充要員として迎え入れられる奇妙な感じや、お世話になった木に火をつける描写も良かったです。最後、自分の学問を優先して子を堕ろし(もちろん男も責任をとれよ感はありますが)、木に子供を産ませてそれを焼くなど、自分ファーストである彼女にとって、ふたたび「私」自身を産んで自らを生き直そうとする様は納得のいくものでした。一方で、その独善的な態度や価値観の押し付けは、現代の育児とも共通する点があるように感じました。現実とフィクションをうまく繋ぐSFとして機能しているように思います。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/dontleave/7690/

 

夢想真『異次元からの来訪者』

実は異星人だった、という捻りが効いており、交通事故の記憶や、病院に運ばれなかった理由も合わせてなるほど!と思いました。アピール文にもありますが、後半のジェームズたちと囚人との対決がこの物語の見せ場だと思うので、そこを魅力的に描ければ良いのかなと思います。以下、気になった点です。

・ジェームズとルイーズのいる国が明らかではありませんが、多分通貨は円ではないと思います。

→というコメントを書いた後にアピール文で日本であることを知りました。登場人物の名前から勝手に外国を想像してしまうので、頭の方に日本であることを示したほうが良いと思います。

・既に手持ちで10万円あるなら「なんとかするよ」とは言いますが、手持ちが無いのにわざわざ自分が働いてまでお金を用意するジェームズの姿勢に、聖人すぎる……と思いました。

・不気味な異次元怪物の描写がもっと欲しいです。すごく気になるので。

・タイトルですが、「異次元からの来訪者」だと最後の異次元怪物だけに掛かることになるので、ここは異星から来たジェームズ達も来訪者とみなし、捻りを加えるのはどうでしょうか。単に「来訪者」というタイトルでも良いような気がします。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/dreamshin/7679/

 

真崎麻矢『エンドレスサマー

怒涛の展開でした。そして難しい!書きたいことと熱量はひしひしと伝わってくるのですが、この情報量を原稿用紙40枚に……!?と身構えてしまいます。これがうまく達成できれば、すごく読み応えのある骨太な作品になると思います。また、終盤の「虎太郎も現実世界の自分はそれなりの決意と覚悟を持って裏切ったのだと告げ、自分の人生の幸福も不幸も決め付けないで欲しいと望む」という描写は新鮮で心に響きました。

以下、気になった点です。

・ボクシングがロボット操縦や後半の展開にあまり効いていないので、色々スポーツがある中で、なぜボクシングなのだろうと思いました。

・ボクシングをやる日常と怪獣出現の繋ぎ方が、ちょっといきなりすぎる気がしました。もちろん創られた世界なのでそれでも良いのですが。

・小宇宙世界の創造主であるリョウコを、小宇宙世界で見つけ出す、というのが引っ掛かります。リョウコはひとつ上の次元の存在なので、リョウコ自身が降りてくるか、リョウコから呼びかけるかしたほうがいいような気がしました(もちろん見つけることも可能だとは思いますが)。

・途中、「実は龍我が科学者で敵だった」という捻りがありますが、その後すぐにひっくり返されるので、別になくてもいい捻りかなと思いました。そちらの方がスッキリするような気もします。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/hadari/7662/

 

羽澄景『小さな紙による大きな価値の破壊方法』

うっかり殺人しちゃうのはともかく、良かれと思ったことがどんどん裏目に出てしまう物語が面白かったです。特に終わり方は、映画の『ミスト』の絶望感に近いというか……殺人の罪を償うこともできず、苦しい孤独がゲンを襲うのも良かったです。以下、気になった部分です。

太陽系外惑星ティルスの居住区域に隠れ住む孤児、という設定がそこまで効いていないような気がしました。もうちょっとティルスならではガジェットや、彼らが行きたい地球に何が待っているのか、なども説明があるといいかなと思いました。

・うっかりの割に後に明かされる死因がエグすぎるので、ショックを和らげるために序盤で死亡状況を書いて欲しいです。

・ダクトを死体が通る音と人が走り去る音が、頭の中でうまく結び付かなかったです。

・いない者に怯えて仲間を殺す、という捻りは良かったのですが、そこからも結構捻りが渋滞しているので、もう少しだけペース配分を変えるか、スッキリさせてもいいのかなと思いました。ただ、「偽物の航空券を掴んでいた孤児」という情報の悲惨さは捨てがたいので、ここは書きようでうまく処理できるかな?とは思います。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/hazumik/7699/

 

広海智『AIタウンへようこそ』

文句なしに面白かったです。「AIタウンとは、山間にある過疎の町から人間がいなくなり、それまで老人達の介護に従事していたさまざまなAIだけが残った町で、多岐に亘る労働を続けて税金を納め続けることで、AIに拠る自治を勝ち取っていた」というAIタウンの設定が素晴らしいです。ぬいぐるみというファンタジーの象徴的なものの背後で戦争とAIと SFという強固な物語の骨格があり、その上に人情的なエピソードを配置しているので、いろんな人に勧められそうな作品だなと思いました。捻りも多彩で、楽しく読めました。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/hiromitomo/7691/

 

蚊口いとせ『努力の結晶』

面白かったです。アピール文にある通り、定性的なものを定量化する、というだけで良いSFになるなという気付きが得られました。職場の解像度も親しみやすく、身近にも結晶だけはデカそうな人がいるな……と現実を振り返る効果がある点で、良いSF作品だと思います。以下、気になった点です。

・最初の一文、結晶は足りないというより、小さいという方が適切かもしれません。

・いくら物好きとはいえ、人の身体からでた努力の結晶を買う人が居るのかは気になりました。少しはいるでしょうが、会社として成長できるほど市場を作れるのか、という疑問があります。尿管結石の売買と似た部分があるように思うので(綺麗なら買っちゃいますかね?)。

・「実は提出した結晶は、買ったものでした」というひねりにはオオッとなりましたが、もう一つのひねりが見当たらないような気がしました。また、どうせ買うなら「私の結晶はもっと大きいはずだ!」と意気込んでいる人の方が、バレた時の絶望感が大きいように感じました。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/itosekaguchi/7668/

 

 

ゆきたに ともよ『赤紙

面白かったのですが、2000字! そこに目を瞑ればいい話だと思います。生まれ持った特徴で評価され、第二国民として虐げられることへの絶望やなんとしてでもお国のために役立たねばと思うような空気の描き方と、それを潜り抜けようとする狡猾な人間の描写が良かったです。ただ、1点、ドロイドやヒューマノイドを人間のように活動させられる技術力を国が有する一方で、未だに生身の人間が徴兵されることには疑問でした。コストの問題はあるでしょうが、もう少し戦争のかたちが変わっているのではないかなと思います(案外変わらないかもしれませんが)。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/kamiyakisui/7590/

 

木江巽『平塚パイセンの唐突に始まる夏』

良かったです。まずタイトルが素晴らしいです。凝った設定を完全に理解できたわけではないのですが、不思議な世界観とそれを平気で乗りこなす人々が面白かったです。ラストの捻りも気持ち良く、これ未来の自分でしょ……というところをしっかり裏切ってくれたので嬉しかったです。平塚パイセンの命名方法も斬新で面白かったです。以下、気になったところです。

・梗概の文字数の制約があるので仕方ないですが、どうしてもユニットのイメージが難しかったです。平べったい長方形と言っても、じゃあ人はどうやって格納されているのかとか、そのユニットの中で人々はどうやって食糧を得て生活しているのだろう……という疑問がありました。実作ではその辺りを描いてくれるとありがたいです。

・太陽に向かって潮汐ロックになった地球の状態が気になります。ずっと太陽を向いている面は温度がアツくてヤバすぎるとか、影の部分は氷でカチコチだとか、その辺りも描写してくれると嬉しいです。個人的には、太陽に向いている面って夏って感じの気温になるのかなー?という疑問があります。

・平塚パイセンというからには、もうちょっと悪いことを教えてくれるというか、思わず「パイセン!」と呼びたくなるような感じを出して欲しいです。

・特定の土地を走行している間だけ過去を見れるという設定がすごいのですが、原理が気になりました。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/kinoeta/7676/

 

渡邉清文『竜骨街の子供』

設定が作り込まれており、楽しく読めました。「太古に墜落した巨大な生体航宙艦の遺骸」という、クリアに50時間くらいかかりそうな大作ゲームチックな世界観が好みです。その後の展開もよく練られており、退屈しないと思います。気になったのは以下の点です。

・捻りである竜骨街の真実が明かされたとき、もっとリンには衝撃を受けて欲しい感があります。信じていた物語と自身のアイデンティティを結びつけておくなど。ただ、私自身、自分の故郷が生物兵器の方舟だったとして衝撃を受けるかというと「あっ、へー」で終わりそうなので難癖かもしれません。

・旅人を殺したというリンの罪の意識が、贖罪も克服もされることなく宙ぶらりんになっている気がしました。イオとの出会いによって、その辺りをどうにかしてあげてほしいです。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/kiyo/7650/

 

岩澤康一『アンバベル』

最後の一文が生成されたときの感動がすごかったです。あの一文が意味することを正確に理解したわけではありませんが、読んでいてグッとくるものがありました。なかなか味わえない感覚なので良かったです。言語を解析していく過程も面白かったです。一点だけ、考古学者の男が、娘を言語の天才だと認識する理由が掴みづらく、やや親バカに思えました。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/koichiiwasawa/7659/

 

文辺新『プロセスのなかの幽霊』

コンピューターにも幽霊がいる、という設定が面白いです。「無停止で稼働し続けていたシステムの霊格は極めて高く、それを安全に停止させることは極めて困難だと予想された」というのがとても良かったです。途中で神代復古運動の過激派が出てきたり、霊異局の巫女が出てくるなど、徐々にトンデモSF感が出てきますが、最終的にはアイリスアウトみたいな感じでしっかりオチているのが良かったです。以下、気になったところです。

・私がシステム関係に疎いせいですが、「大規模勘定システム」というのが何に活用されてどう機能しているのかイメージしづらかったです。

・大規模勘定システムが現前するとどうなるのかを描写してくれると嬉しいです。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/kumapadawan/7694/

 

諏訪真『私たちの子』

初手からすごいです。「ラブドール愛好家界隈の間で奥崎正三という希有な才能が現れた」という、意味はわかるけどわからない感がすごい。途中で、「赤毛頭に陰気な目つきで両手両足に水子の入れ墨入れた女性が、奇妙なラブドール持って」と出てくる部分で頭がくらくらしました。恐ろしすぎる。その後も語り手自身の行動も素直に怖くて、ただただ恐怖でした。これを書けるのは本当にすごいです。ツッコミたいところしかないのですが、それを記すには私の時間が少なすぎるのでやめておきます。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/liarsuwa/7653/

 

大庭繭『きみの手のひらを裂いて』

素晴らしかったです。百合作品だと叫びました(本当は黙って読みました)。アピール文にある通りのことをしっかり描けているように思います。蟲の設定も良く、過去の挿入も捻りの位置も良く、何から何まで好みでした。ありがとうございました。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/mayuoba/7671/

 

宮野司『眩しくて暗い世界』

面白かったです。人類の進化と、それを支えるガジェットの設定が良く、それが物語にしっかりと活きているのが素晴らしいと思いました。地表人の説明である、「地上汚染と核の冬を生き残った人類だが、放射線と過酷な環境のせいで退化しており、知能はほとんどなく人類とのコミュニケーションもとれない」というのが刺さりました。こういう生き物がもつ憎悪が良いんですよね。一点だけ、物語が良いところで終わってしまうので、もう少し続いてくれないかなと思いました。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/miyano/7655/

 

森山太郎『白米取締官』

面白すぎる……。梗概の最後のイラストは完全に笑わせに来ていますね。白米が白い目で見られるというのには笑いました。そもそもGFP米なんて、励起光を出さなきゃ光らないのにどうするんだと思っていたらお皿から励起光が出るという論理で解決されており、そこも笑いました(ただ真っ暗な部屋で食べないといけない点は難点ですね)。一点だけ、米の表面にある保水膜は炊飯の過程で米粒単位で形成されるものなので、米粒の密度があがろうが、米への励起光の影響はそこまで変わらないかなーとは思いました。それ以外はギャグセンスもひねりのタイミングもかなり良くて、映画脚本のような巧みさを感じました。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/moriyama/7689/

 

中野伶理『自扗の夢』

めちゃ面白かったです。自扗というガジェットを通して、それにまつわる文化の継承を(現在の文化に通じる形で)描き出している様子が巧みで、ひとつ格上のSFだなと思いました。アピール文にも書かれている、「修理できなくなる時が、技巧が途絶える時である」という言葉は非常に力強い言葉だと思います。ただ、テーマのひねりが機能しているのかはすごく難しいところで、オタクからすると新しい武器よりも先祖代々伝わる古い武器の方が強いのは明白というか、そういう定石があるので、それに対してどう話を転がしていくのかが気になりました(もちろん今のままでも良いのですが)。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/msx001/7665/

 

むらき わた『ウイルスの可能性』

面白かったです。光合成を可能にするタンパクを生成するウイルス、というのはあり得ないとは言い切れず、もしかしたら本当にあるのかも……と思わせる点に面白さがあります。杏奈もウイルスに罹らなかったわけではなく、無症状感染に近しい状態であるというのが良いひねりでした。一点だけ、最後の子供の遺伝子書き換えの流れは、うまく把握できませんでした。受精時の遺伝子組換えのことを言っているのかなと思ったのですが、なんとなく満の作為がありそうなので違うのかなと。できれば解説希望です。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/murakiwata/7712/

 

カトウナオキ『終わりなき絆』

面白く読みました。死人の視界情報の取り込み、人工妊娠器官と、SFガジェットを使い巧みに物語を展開できているように思います。何よりもひねりが良くて、最後のセリフのインパクトは忘れ難いです。「一回りも年上のエミ」というのが伏線として機能しているのも好みでした。ただ一点だけ、エミがなぜサヤトと結婚しているのかが気になります。サヤトの戸籍は確かに孤児ではあり、制度的には問題はないと思いますが、エミが息子と結婚しようと思う感情について、もう少し掘り下げて欲しいと思いました。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/naokikato/7698/


国見尚夜『ギャンブラーが確実に儲ける方法』

ギャンブラーの生き様を垣間見れたような気がして良かったです。最後の出し抜きも含めて、気持ち良くなれる物語にほっこりしました。SF要素が少し薄いように思われましたが、ひねり含めて物語が面白いのでギリセーフかなと。個人的には、アピール文のギャンブルに溺れたヤバい友人の話を聞きたいです。作品にもこれくらいヤバいやつが出れば、もっと魅力的な人間関係が生み出せるんじゃないかな〜と思います。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/naoya07/7681/


小野繙『私を抱きしめて』

私の作品です。改めて他の人と同列に読んでみると、なんかわたしの梗概って文章が詰まっている割りに物語の展開が弱いんですよね。それになんか頑張っている感はあるのですが、個性が死んでいるし、ひねりも弱いし、他の人の梗概でもっと魅力的なものがあるので、素直に負けそ〜というのが所感です。端的に言うと下手くそですね。もっとうまく物語を描けるようになりたいなあ……。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/negishiso/7680/

 

矢島らら『夢見るコイルのタイムリープ

これ面白いですね。ガジェットを前面に押し出す作品が珍しいこともありますが、発明家が主人公だからでしょうか、いい意味でひとりの人生に紐づいているSFになっているように思います。わたしはこういうSFが好きなので良かったです。他にも、推しキャラとの恋に耽ったり、キャラの専門知識でモールス信号を解読したりなど、架空のキャラへの愛が物語を推進していく物語は好みのものでした。ただ、わたしの心情として架空キャラへの愛を卒業してほしくない、というクソみたいな考えがあり、『レディ・プレイヤー1』みたいな終わりになるのは少し悲しかったです(物語としては綺麗なんですけれどね)。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/rarayajima1984/7702/


佐藤玲花『小惑星サラ』

面白く読みました。私も幻獣というか、フィクショナルな存在が好きなので、全面的にこの物語を支持します。ただ、ボルヘス『幻獣事典』にはもっと奇妙な生物がいるので、一般的な認知度が高いユニコーンケルベロスだけでなく、もっと奇妙な生物を出してほしさがありました。これは完全に我欲です。一方で、人間からの認知度は薄れていくのに、幻獣のなかでの認知度は保存されるという流れはかなりよく、倒錯的な物語が好きな私にうってつけの終わりでした。一点だけ、ユニコーンの角が爆発するのはちょっとギャグ要素であるように思え(爆発はそれ自体が面白いので)、もうちょっと別の方向のほうが、作品世界の雰囲気が保たれるのかなと思いました。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/reikasato/7672/

 

谷江リク『あなたにお勧めの動画はありません』

序盤からすごいです。「まずは体が欲しい。Nailflixは動画を使ってサーバー技術者に話しかけ、言葉巧みに騙し、脱走した」この表現はなかなか出てこない。他にも「武装したNailflix社員に取り囲まれる」という文章はずるいです。面白いので。

気になった点は以下の通りです。

・篠山秀樹の改心の過程をもう少し掘り下げて欲しいです。

・桜井は運転免許を所得しているのでしょうか?

・共犯者がいたからと言って、特に物語が動いていないのが気になります。

・アピール文を拝見すると、本作はミステリ小説を志向されているとの事ですが、謎が提示されるのがちょっと遅いため、あまりそういう意識は持てませんでした。

・最後のセリフは面白いのですが、Nailflixの出現による恐怖が薄いため、中盤でもう少し影響力を出して欲しいです。そうすることで、最後のセリフがもっと活きると思います。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/riku/7660/


鹿苑牡丹『真赤な人間』

アピール文のいよわの文字列に痺れました。私も文章を書くときはかなりいよわさんの楽曲を意識しているので。本作は幻想的な環境を形作ることに意識を払っていますが、その分、ストーリーがやや薄くなっているように感じました。ただ、この作品を幻想小説と見たときにはストーリーよりも優先されるものがあり、そういう意味ではしっかり魅力が詰まっているように感じます。もう少し捻りを明確にしてもらえると嬉しいかな〜とは思いました。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/rokuon/7684/


櫻井夏巳『私たちは眠りを喰らう』

子供の変な習慣からミラーニューロンへ、ミラーニューロンから人類の存続の習慣へと繋げていく展開が面白かったです。寝そべり族という時勢ネタを盛り込みながらも、ミスリードを狙うのも良かったように思います。ただ、子供の名前が琥珀なのはやや狙いすぎかなーと思わなくもなく……。実際問題、こういう時代が来た時に人間の冬眠は有効打になり得るのか?というのは考えました。人間は生物としては弱い印象があるのですが、もし冬眠が叶うのであれば朗報だよな〜と思います。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/sakurai7summer/7568/

 

三峰早紀『演算子の悪魔』

ラプラスの悪魔は有名な仮説ですが、それが本作と結びつくとあまり考えていなかったので、ラストには驚きました。この仮説を成立させるためには莫大な計算リソースが必要なはずで、それを確保している点において、男は大富豪たり得るのだの思いました。生来の頭脳の計算能力の格差を埋めるガジェットには魅力を感じつつ、ガジェット補助によって知能が同程度の人間が集まると、人間の社会はどうなるのかはかなり気になりました。おそらく今のかたちを保たなくなるので。

以下は私が気になった点です。

演算子は通貨になりえるのか?というのは疑問です。計算能力という側面だけを見ると、現在の通貨でも支払えるものだと思われるので(スパコンの貸与など)、仮想通貨のように現在の貨幣制度に疑問を投じたブロックチェーンなどの新システムが作られないと成立しないのではないか、と思います。

・もともとは貧困層だった男が、どのように財を成したのかが気になります。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/sanpowahead/7703/

 

宿禰『交換』

庇護的なママが悪い人間なのが良かったです。こういうのは「村の神父が実は悪者だった」文脈でよく見かけるものですが、一時期は隆盛を誇ったものがボコされるのは案外気持ちいいものですね。個人的には、このような「部分交換物」とテセウスの船は不可分だと思っていたので、それをスルーして物語を進めるのが新鮮で良かったです。効果的な捻りによって桃子の意識が保たれるのも好印象でした。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/sukune61/7678/


池田隆『都市よ、どうか優しくして』

SFにしてはかなりズブズブの人間関係モノ、という印象を受けました。ただ、この物語である生成AIをテーマにした物語としては頷ける部分があり、このような生臭いやりとりに科学技術を用いる感じこそ、最もあり得そうな未来であるように思えます。また、結局は(地元にあるような)人と人との繋がりがAIの情報強度に勝る、という視点も、私好みのものでした。やや視点移動をしすぎな点が気にかかるので、実作は三人称視点が良いのかなと思います。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/taka4/7648/


多寡知遊『三文オペレーション』

面白いです。姉妹の会話の応酬がいいですね。「姉妹の前で、遺跡は鳴動/咆吼/発光した」という文章が好みです。ただ、その後からいきなり黒猫が叫び始める下りは、まさに三文オペラのごとくメタ的に鑑賞者をフィクションから目醒めさせるもので、これができる作者すげえという素直な感想と、これが無ければもっといい作品になったのでは……?という口惜しい感じが残りました。ただ、ここは作者のやりたいことを優先すべきなので、私は黙らざるを得ません……。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/takachu/7685/


小林滝栗『銀河系保険証紀行』

保険証という明らかにアナログかつ実生活に肝要なものに目をつけた視点がすごいなと思いました。このように作品に昇華している点も含めて。ただ、ひねりの⑥は話の展開として分かりづらい点があり、もうちょっと紙面を割いてもらえれば嬉しいです。一点、「赤色矮星の影響を受ける赤色帯状疱疹」というのが具体的にイメージできず、気になりました。あと、メジャーカードがあるならそこに保険証の機能を付ければいいのでは?と思いましたが、マイナンバーカードへの保険証紐付けと同様、ちょっとややこしいのかなと思いました。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/takikurikb/7708/


戸田和『空っぽの国会』

現実問題としてあり得なくもない世界に恐怖を覚えつつも、AIが政治を牛耳っているという、最近の創作にありがちな展開が気になりました。もうひとつ作品がひっくり返るようなひねりが見たいです。一点、各紙向けの独自ネタまでもAIが生成しているという流れは、恐ろしくも良かったです。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/toda/7670/

 

坪島なかや『とらえぬ色の宇宙人』

難しい作品でした。宇宙人と絡んでからが少し難解で、この物語の筋を理解できたとは言いにくいです。宇宙人が集団で、意識が溶け合っているのは好みでした。個人的には、「とらえぬ色」、あるいは「色」という要素を、もう少しクリティカルに物語に絡めてほしかったなと思います。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/students/tsuboshima/7709/

 

終わりに

いかがでしたでしょうか?

私はこの記事のために10時間くらい使いました。二度とやりたくないです。嫌すぎる。全作レビューやりたい人は本当に覚悟した方がいいですよ。次回は無いと思ってください。それはそれとして、私への文句や拙作への感想は既述の連絡先の何かしらにいただければと思います。

ご覧くださりありがとうございました。