新薬史観

地雷カプお断り

カート・ヴォネガット「ガラパゴスの箱船」

個人的に好きな漫画家が「大好きな作品」として挙げていたので、気になって購入。

筆者・題名ともに知らなかったため、前評判も知らずに読み始めたが、非常に面白い試みをしている。

なんといっても、「もうすぐ死ぬ人間の名前の前に*をつける」という謎に近い工夫。作者曰く、「このキャラがもうすぐ死ぬことを読者に分かって欲しい」ということだが、これに加え、構成からもその願い?が込められていることが分かる。

構成としては、様々な人の物語が短く、そして複雑に絡められたものになっていて、あえて作品のゴールや途中経過を何度も明かす。

例えば、「最終的にこいつは鮫に食われる」とか「その後、こいつの姿を見た者はないのだが」とか。それを話の序盤、中盤、終盤、すべてにぶち込んでくるので、読者はこの作品や登場人物の行く末を完全に理解しつつ、そのゴールに向かって、何度も何度も登場人物を入れ替えながら物語を読み進めていくことになる。かと思えば時系列が戻ったり、進んだりする。行ったり来たり、という表現が正しいのだが、それだけ視点が移動する物語をどう纏めているかと言うと、幽霊がすべての物語を語っているという技を使っている。なるほど、これによっておよそ百万年という長い時間にわたる物語を(本当は作中ではそれほど触れられないのだが)描くことができるのだなと感心した。

現人類への皮肉として「巨大脳」という強烈なワードの使用を徹底しているのも面白い。そう、巨大脳なのだ。今の人間は脳がデカすぎる。デカすぎるがゆえに、人間が自分でも意味が分からない行動をすることになるのだ――作者のメッセージはこれでもかというくらいに詰められていて、納得しつつも非常に楽しく読めた。

本書をカート・ヴォネガットの最高傑作という人が多いらしいが、それも納得の出来だと思う。構成がめちゃくちゃすごいので。ありとあらゆる皮肉や比喩が、これまた見事に作中の要素と絡み合って、過去と未来、あるいは他の人物との結びつきを非常に強く感じる。論理哲学論考の論理空間のイメージに近い関連具合だった。

新人類の描写も強烈で、面白い。

この本の裏表紙の解説の最後に書かれている文章、「鬼才が描く旧人類への挽歌」ですからね。

オススメです。