新薬史観

地雷カプお断り

最近読んだ本の感想書くます

無事に金曜日の労働も終えたので自分と向き合う時間が来た。まこと素晴らしいことである。今回は最近読んだ本の感想を地道に書いていく。暇なので。

 

アゴタ・クリストフ悪童日記

読書やってる人間からすると今更かよ感あるが、今更読んだ。面白かった。ひとつひとつの断片(日記)から双子の性格が明かされていく。どこまでも論理的で感情を排した彼らが、暴力もひとつの手段、あるいは現象として取り扱い、死や危険と結びついている事実を論理だけで理解しているからこそ生まれる行動の数々が魅力的だった。今が苦しいなら死ねばいいというのはその通りだし、自分たちが生き残るためなら「愚かな」誰かを殺してもよいけれど、不当に誰かの心を傷つけるのはダメなのだ。このあたりの歪んだ倫理観を「歪んでいる」と思う大人にはハッとする物語なのだろうが、自分にはまあそれはそうとしか思えなかったのでそういう新鮮さはなかった。周りの大人や弱者である子供と歪んだ倫理観で対等にやり合い、それが実際に通じている(あるいは打ち負かす)のがこの作品の魅力だと思う。あと人称による設定もかなり良くて、それが物語の結末を一層面白いものに仕上げている。面白い海外文学。続編も図書館にあったら読みます。

 

②法月倫太郎『ノックス・マシン』

表題作の面白さはいまいちであり、そこまで面白くはない。『引き立て役倶楽部の陰謀』もミステリに熱心な読者でなければ良さは全く伝わらないと思うのでパス。

傑作は『バベルの牢獄』だろう。間違いない。この発想はもはや異次元のものであり、SFとミステリの類い希なる融合を示している。ここまで作中のギミックと物語が合致していて、また読後の恍惚感をドクドクと脳内に吐き出すドラッグを自分は知らない。法月倫太郎の名を世にとどろかせ、文学の歴史に残さんとする大傑作。是非読んで欲しい。最後の作品は面白くなさそうなので読まなかった。

 

米澤穂信さよなら妖精

ユーゴスラヴィアから来た少女にまつわる日常の謎を元に話は進むが、正直言ってミステリとしていまいちというか、これは自分がミステリをよく読んでいないだけだと思うが、「しょうもねえな」と思うネタばかりで面白くはなかった。が、ジュブナイル政治小説として読むと楽しめた。日本人が政治に無関心でいられるのは日本が平和だからであり、そうでない人々は政治と生活が密接している。それがある人の生き様にもなり、使命にもなる。ここらへんの熱意の差を自分の青春の空白を埋める何かと勘違いした主人公の悲しい物語である。このお話に若いうちに触れることができた学生はそれなりに幸福な人生が歩めると思うのでオススメです。政治に無関心な非モテの大人が読むと、甘い青春と政治への真摯な姿勢のダブルパンチを食らって惨めな気持ちになるのでオススメしません。僕は青春パートにちょいちょい苛つきましたが(自分はもうこういうのが無理なのかもしれない)面白かったです。

 

④ジャン二・ロダーリ『猫とともに去りぬ』

自分の人生でベスト級に好きな作品。ロダーリのギャグセンスと自分の相性がめちゃくちゃに良く、ことあるごとに「は?」と声に出して笑わずにはいられなかった。かなり短い物語が詰め込まれてるので非常に読みやすいとは思うが、ひとつひとつの物語が珠のように美しく面白いので、舐めるように読んで欲しい。ギャグセンスが壊滅的に合わない人にとってはクソつまらん本になり得るが、そうでないことを願いたい。なんか知らんけど人間は猫になったり魚になるし、ピアノを武器にするガンマンはいるし、バイクと結婚しようとする男も出てくる。支離滅裂な物語に間違いないが、そのどれもにツッコミは殆どなく、様々な生き方が肯定されてめでたしめでたしになる。まさに童話のプリパラ。

 

泡坂妻夫『しあわせの書: 迷探偵ヨギガンジーの心霊術』

法月倫太郎『バベルの牢獄』と並べられていたので拝見。なるほどなかなかに面白い本だった。ネタバレはこの本の未来の読者にとって良くないので詳細は省くが、自分としてはミステリも面白かったし謎の使い方も本であることの意味も追求している、非常に素晴らしい作品だと思った。表紙のデザインが安っぽく「騙されたかな?」と思うがそのあたりも含めて傑作。

 

倉阪鬼一郎『内宇宙への旅』

こちらもネタバレができない、バベルとしあわせの書の系譜の作品。何が面白いんだと思っていたが、なるほど気がついてからその労力に度肝を抜かれる。ただ、しあわせの書よりしっかり手は込んでいるものの、その努力が作品内の構造やモチーフとそこまで結びついていないのが残念。ものすごい本ではあるのだけれど、自分としてはいまいち推しきれない作品だった。

 

以上