新薬史観

地雷カプお断り

ウェス・アンダーソン「天才マックスの世界」「ダージリン急行」観た!

ウェス・アンダーソン天才マックスの世界」(1998)

これめっちゃ良かったです。すべてが自分には生み出せない設定とストーリーラインで刺激しかなかった。マルチタレントを持つ(というか手を出してる?)ゆえにどうしても浮いてしまう(というより学生離れしている)マックスと、家族や会社などから孤独感を覚えるハーマンとの間の厚い友情物語――かと思いきゃ、そこから物語は急展開を見せる。クロス先生という共通の思い人が現れてからは、二人の関係は急激に悪化し、予想もできないような悪事を互いに働くようになる。倫理のたがを簡単に外すのはウェスアンダーソンの得意技というか、「ザ・ロイヤル・テネンバウムズ」とか「グランド・ブダペスト・ホテル」とかでも、大人しそうな雰囲気の人が唐突にビビる行動を見せてくるので非常に魅力的で面白い。自分のなかで勝手に登場人物に抱いていた幻想をあざ笑うかのようにぶち壊してくる手腕は流石である。自分に足りないのはこれだという気さえしてくる。推しカプにこれをさせたい!(宗教上の理由で不可)

この作品のすごいところは、どう考えても修復不可能だろうという状況にまで三人を陥らせてから、不器用ながらも徐々に再生していくところだ。先述のテネンバウムズはまさにここらへんを主題にしていたが、こちらの方がコメディで楽しく見ることができるし、落とし所も非常にすっきりしていて笑える。なんというか、本当に元気になりたい時に観たら良い映画ですね。マックスが大真面目に背伸びしているところの共感性羞恥にさえ堪えることが出来れば(「ムーンライズ・キングダム」よりちょいとキツいが、そこを乗り越えた人ならイケる)最高の作品になること間違いなしである。やっぱウェスアンダーソン好き。傑作。

 

ウェス・アンダーソンダージリン急行」(2007)

これもかなり面白い映画でしたし、なによりも本当に綺麗。上の感想でも書いたけれど、観客が予想もつかないところにこの作品は行き着く。そのコース取りがこの作品の場合顕著であり、正直シナリオとして纏まりがなく、脚本だけ追えば「なんなんだこれは」という気もしなくはない。例えば、タイトルがダージリン急行なのに中盤で三人兄弟はダージリン急行から降ろされることになる。以降一切ダージリン急行に乗ることがないので、「おいおいじゃあなんなんだそのタイトルは」と笑ってしまう。実際になんなのだろうかと考えると、仲の悪い三人がなんとか集まったきっかけ(また父の死と母との音信不通を重みに感じている三人の象徴)でしかないわけで、それ以上でもそれ以下でもない。自分はできれば作品全体に通貫するテーマをタイトルにしてほしい派なので、この作品なら「The Darjeeling Limited」じゃなく「The Train Trip for Three」とか韻踏んでるし良くないか?と思ったが、ダサすぎて鬱になった。「The Darjeeling Limited」の方がどう考えてもお洒落で綺麗で邦訳しやすい。自分にタイトルセンスはないようだ。

それはともかくとして、この物語は前の通り非常に行き当たりばったりで、仲が悪い三人にぴったりのシナリオとなっている。互いに探り合い本音を隠し続けながら、なんとか味方を作ろうとするのだが、誰もが誰もを信頼しないため、結局みんなが敵になる。このあたりの不器用さ、探り合いが面白く、テンポのいい会話と気持ちのいいカメラワークも最高だ。窮屈そうな車内もいいし、かったるい感じがたまらなくいい。この環境は最悪で、誰もがここから抜け出したいのだけれど、どうしようもできない苛立ちもうまく表現されている。さて、三人の関係が激化し、電車から追い出されるところでいったん最低の状況になるが、本作はここからの持ち上げが非常にゆっくりだ。そしてこの辺りから、映像が一段と綺麗になり、村の子どもの葬式から父親の葬式の回想へと繋がる最高のムーブを見せることになる。ここが本当にすごい。終盤にしてようやく回想をするんだということも驚きなのだが、ここにきて回想を入れるという判断が恐ろしい。自分なら喧嘩直後、電車から降ろされる直前に挿入すると思うし、そこがシナリオ的には一番落ち着くところだと思うのだが(結局その回想は現在に影響を与えず、三人の過去を示すものでしかないため)、映像の美しさを重視してここら辺に置いたのかなと考えた。知らんけど。最後にこの映画は、びっくりするくらいのタイミングで「オー・シャンゼリゼ」が挿入され、そこらへんはもう作品が美しくて頭がくらくらする。構造としても良いし、映像もバッチリだし、三人がすべての荷物を捨て去り軽々しい気持ちと、俺たちどこに行くんだろうなあとでも言うようなのんびりした曲調が実に合っている。本当に感動してしまった。自分はこういうものに弱いんだ。傑作です。