新薬史観

地雷カプお断り

枕の死骸に頭を乗せたら最悪なことになりました

公園に行った時のことでした。丁度日課の朝マラソンをしていた時に、木の根元から枕がゆっくりと顔を出す場面に出会いました。なかなか無いことなので座り込んで見守っていたんですけれど、その木には大量の枕の抜け殻がくっついていて、なるほどこの木は枕の脱皮スポットなのかと驚きました。甲殻類特有の節ばった二関節の八本脚で木にしがみつき、他の抜け殻の間を縫って自分だけのスペースを見つけます。枕が落ち着いたのでようやく脱皮かと思ったのですが、なぜか呼吸のたびに僅かに膨らみ萎むばかりで、全く殻を割る気配を見せないのです。脱皮するタイミングを見失ってしまったのだろうかと不安に思っていると、枕の堅く透明な殻のなかで、突如、真っ白な羽毛がブワッと広がりました。その勢いは烈しく、破裂しそうになりながらも殻内部からの圧力と大気圧との均衡は保たれていたようで、それきりゆるゆると萎んでいくばかりでした。結果としてそのまま枕は脱皮することなく、朝マラソンの二周目に再びその場に戻ってきた頃には、枕はコテンと木の根元に転がっていました。透明な殻のなかには羽毛をため込んだままです。見ると枕の裏側には内臓が詰まっていて、二度と拍動しないそれらは赤く黄色い有機物の塊でしかなく、ややグロテスクにも思えたのですが、なんとなくそれが生春巻きみたいにも見えて綺麗だったので持って帰ることにしました。

枕の死骸の感触はゴムのようでした。

枕というと普通、飛んでいるものを生け捕りにして永久麻酔で眠らせてから洗浄して皆さんの家庭に届けられるものですが、やっぱり死骸ということもありますし、いつもの枕とは少し様子が違います。あまりふわふわしていないし、ゴムっぽい肌触りはお世辞にもいいものだとは言えません。それでも自分はこの子を本当の枕のように使ってあげてみたくて(そもそも本当の枕はどちらかという話にもなりますが)、昨日は枕の死骸に頭を乗せて眠りに就きました。

悪くない寝心地でした。

ただ、問題は「いま」このときです。今朝起きたとき、何故か部屋全体がお酢のような匂いで充満していて、思わずむせ込みました。頭も濡れているし何コレという気持ちだったんですけれど、どうやら寝ている間に潰れた枕の内臓の汁が殻の隙間から漏れ出ていたようです。部屋の悪臭はこれが原因でした。ベッドは酸化した赤黒い色の汁でべとべとですし、羽毛も真っ赤に染まっていてキモいしで最悪です。それ以上にキモいのがさっきから自分の部屋の窓をキイキイ叫びながらたたき割ろうとしている枕の群れで、きっとこれも換気した時に部屋から漏れた枕の死臭につられてやってきた正義感の強い枕たちなんでしょう、本当に面倒くさい。いまはなんとか窓を閉めて耐え忍んでいますが、そのうち窓ガラスも割られてなかに入ってくるんじゃないかと心配です。とりあえず警察には通報しています。

でもこいつら、部屋のなかに入ってきて何をするつもりなんでしょう?