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辻村深月『ハケンアニメ!』読んだ!

辻村深月ハケンアニメ!』(2014)

[辻村深月, CLAMP]のハケンアニメ!

https://www.amazon.co.jp/dp/B00ZTXKJLI/ref=dp-kindle-redirect?_encoding=UTF8&btkr=1

【総合評価】 7点(総合12点:全体10点+百合2点)

 

【作品の立ち位置】

ガチで大事にしたい作品(9<x)

積極的推し作品(8<x≦9)

オススメの手札に入る作品(7<x≦8)

まずまずな作品(6<x≦7)

自分からは話をしない作品(x≦6)

 

【世界構築】

1.5点 (2点)

綿密な取材により、アニメ業界という特別な空間が表現できていたように思うため。

様々な立場の人間が関わるアニメ制作において、プロデューサー、アニメ監督、作画マンという視点の切り替えは必須であり、面白い要素でもある。

 

【可読性】

1点 (1点)

流石に読みやすい。『かがみの孤城』でも思ったが、辻村深月の文章のリーダビリティは非常に高い。文庫本で600p近くある本作も、5~6時間で没頭して読めた。言うまでも無いが、このあたりは展開の巧さも寄与している。

 

【構成】

2点 (2点)

上記の通り、三者によるアニメ業界の語り口は面白い。最後のフィニッシュに向けての盛り上がりも巧く、アニメの話でありながらも外の世界の「聖地」イベントにまで脚を広げたことで、バラバラだった個が作品外で「アニメ関係者」として纏まるのも上手。お手本のような作品。

 

【台詞】

1点 (2点)

2014年は、アニメという趣味が一般人から許されていそうで許されていなかった時代だったのかもしれないが(自分はあまり覚えていない)、その背景を汲んだ自虐的なオタクが語る「アニメへの愛」は2022年に生きる自分にとってやや古さがある。王子監督という良いキャラでさえ、純粋に「好き」で済ませればいいところをオタクの代弁者としての語らせてしまうところが、「アニメオタク」という弱者を想定しているようであまり乗り切れなかった。他者の台詞にもその空気が充溢していたため、あまり心に響く台詞がなかった(繰り返すが、2022年に読んでいるからというのは多分にしてある)。

 

【主題】

1点 (2点)

「台詞」や「キャラ」に記載している内容と被るが、だいたい似たような理由でこの点数になっている。アニメ業界は大変だ!という話が、大衆の求めるエンタメ性(ここでは恋愛要素や「一般人」との和解イベント)によってやや薄まっているような気がするので、個人的にはもっとアニメ制作に密着した『SHIROBAKO』のような作品を求めていたのかもしれない。

 

【キャラ】

0.5点 (1点)

1章も2章も文句なく面白かったのだが(なんと言っても監督のモデルは幾原邦彦松本理恵である!)、3章は「オタクがリア充に理解(わか)らせられる」話であり、語り手の和奈が非常に幼く描かれている。と同時に、この精神構造は女になった俺だ……とも思う(もっとも、和奈ほどの才能が自分にあるわけではない)ので、非常に評価が難しかった。最終的には共感性羞恥心によって点数を下げざるを得なかった。

 

加点要素【百合】

0点 (2点)

自分が読んだ限りでは該当描写無し。

 

【総括】

辻村深月の実力は確かなものであり、作品は外れなく面白いと言える反面、今作ではやや「オタク」側に立ちすぎている嫌いがある。『かがみの孤城』では引きこもりという「弱者」(あるいはマイノリティ)に寄り添う話を書いていたが、本作も同じような意識でこの話を書いたのか?というくらい、アニメオタクへの目配せがあり気まずかった。1章と2章のテンションのまま進めてくれれば嬉しかったのだが……。

とはいえ、二次元に住まいのあるアニメ(またはアニメオタク)に揺さぶりを掛け、現実(自治体)にまで影響を及ぼす「聖地巡礼」というイベントを通して、次元の境界線を探るという手法は非常に「お手本」的だと言えるし、物語的にも非常に面白い。それを達成するために「偶像的オタク」である和奈が機能していることを考えると、彼女の取り扱いは難しいものがある。本作の目的を考えると存在せざるを得なかった彼女ではあるが、2022年のいま、既に語り尽くされた「オタクの尊厳」の問題と改めて向き合う人は早々居ないだろうし、自分も含めたそのような人たちにとって、本作はやや子ども目線であるように思う。オタクであることに自信が持てない人にとっては、宝物になるかもしれない。

あと、作品内で語られる映像は面白そう*1ではあるので、映画は観に行きたいと思います。

*1:実は自分も一次創作でバイクレースの話をやろうとしていた時期があり、脳内で「最初の数分間はずっとバイクレースの映像が流れてキャラが写らない情景を書こう」とウキウキしていたのですが、作品内で「神演出」とされる部分が見事にそれで発狂してしまった。なお、自分がその作品の構想を練っていたのが2020年なので、辻村深月に最低でも6年は負けていたことになる。悔しい(何が?)