新薬史観

地雷カプお断り

読了記録「阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし」

kindleで読んだ。これ、すごくいいですね。

阿佐ヶ谷姉妹が普段の生活をエッセイで綴るというものだが、そこで見え隠れする二人の人生観がすごくいい。

阿佐ヶ谷姉妹っていうと、「よく顔が似ているけれど赤の他人同士のコンビ芸人」くらいの認識しかなかったし(あれ本当の姉妹じゃないんですよ。すごい似てますよね)、持ちネタだと、「今、幸せですか?」という訪問宗教勧誘の二人組のものまねがめちゃくちゃ好きだが、本当にその程度。

そんなにわかな自分だけれど、お二人の文章にはすごく惹かれました。

そもそも前情報として、二人はともに独身中年女性で、同じ部屋で暮らしている。まずここがいい。

自分は亜田舎(この前の記事で田舎と書いたところ、「ラウンドワンがあるのに田舎を名乗るな」と怒られたので、「亜」田舎とさせて頂きます)に住んでいるのだけれど、亜田舎だけあって、価値観がもうめっちゃ古い。20代の自分が亜田舎に帰ると、「その歳ならもうそろそろ嫁さん貰わないかんなあ」とか普通に言われるし、普段の家事でも親戚の集まりの支度でも、動いているのは女性だけなんですよね。忙しくなったら、呼ばれるのは自分ではなく自分よりも歳下の女の子だったりする。びっくりして手伝おうとすると、「男は座っててええから」なんておばちゃんに言われてしまう。ツイフェミさんが見たらひっくりかえりそうな光景だけど、亜田舎ってこれが日常風景なんですよね。

で、何が言いたいかというと、阿佐ヶ谷姉妹ってそんな価値観とはまったく相容れない存在なんです。きっと自分以外にも何百回と書かれていることだと思うけれど、女は結婚すべき、女は男に尽くすべき、みたいな言説を覆すような自由を持っていて、それがエッセイに滲んでいる。本当に「のほほん」としているんですよね。結婚しなきゃ!みたいな焦りは一切無くて、「何故か昔から男とは縁がないんですよね」と書いてそれきり。すごくスッキリしている。

いいなあと思います。二人の文章からは、「どうせこの年になったら結婚できないし」とかいう後ろ向きなものは一切なくて、ただのほほんと日々を暮らしているんです。純朴な感じに満ちている。なりゆきで二人が同棲をし始めて、ソリが合ったり合わなかったりして、部屋が狭いと感じたらもう一部屋借りて、隣暮らしをする。それでもお互いの部屋を行き来する生活は続いて、二人暮らしは変わらないと。

これって、本当になかなか出来ることじゃないと思うんです。阿佐ヶ谷姉妹だから出来ることかというと、多分それもあると思うんだけれど、人間的に、有機的に思考が結びついていて、あくまでその土地で人間として暮らしをしている感じ。暗い百合にありがちな、「同性同士の私たちを誰も理解してくれないし、誰も知らないところで二人きりで暮らしましょう……(虚ろな目)」とかそんなんじゃないんだよね。あくまで開放的に、地域の人たちとも交流しながら、その土地に「女ふたりで」暮らしている。ここまで書くと、もう女がどうとか書いてて馬鹿らしくなるんだけれど。本当に自由だなあと思う。自由で、性格の違う二人が、いつもニコニコぴったり仲良し!って訳でもなく、くっついては離れて、一定の距離感を保ちながら、自分の感情に正直に過ごす。

今後の人生を考えるうえで、大事なのは何かを考えさせられる本だと思いました。

他の人にあるものが自分になくても、いま手にしているもので過ごせるのならそれでいい。もし欲しくなったら手にすればいいし、欲しくないならなくてもいいじゃんと、そんな気軽な精神を手に入れることができる一冊です。

「世間体」とかいうクソのせいで苦しい気持ちになっている人にオススメ。