開幕から自分語りをするが、自分は大衆居酒屋が死ぬほど好きである。気取ったバーで飲むカクテルも抜群に美味しいのだが、いかんせん空気が賢すぎるのと、店内に綺麗すぎたり、みなの服装がきちんとしていたり、煙草が吸えない点においてたいへん窮屈でありよろしくない(自分が吸うわけではなく、他人が吸う煙草の煙の店内のたゆたいが素晴らしいという話)。
その点で、大衆居酒屋というのはすべての人間に開かれており、店内が汚く、ごちゃごちゃしており、煙草で空気が曇っていて、モツ煮込みが美味く、串がうまい点で最高なのである。あ~全国の大衆居酒屋巡りてえ~。
さて、大衆居酒屋に行きたい欲というのは、突如高まるものである。高まった日曜はイチ推しの大衆居酒屋「いなり」の休日だったので、急遽別のお店を開拓することにした。もう札幌を去るまで一週間だと言うのに今更開拓とはこれ如何に。
というわけで訪れたのはすすきのにある「モツの朝立ち」である。
初訪問時は満席だったが、30分近く待てば席が空くかもということで、暇つぶしに飯を食うことにした。
普通は居酒屋の後にラーメンを食うという順序があるのだが(酒によるアルコール分解のために炭水化物を欲するようになる、また体内が飲酒により酸性に傾くのをラーメンのかんすいによるアルカリ性で中和する等)、今回はあえてそこを逆手に取った訳だ。だからと言ってなんということはない。
あと肉まんも食った。これまで数十回近くは前を通っていたのだが、まったく気にも留めなかった店である。折角なので買ってみたが、肉まんの底によくくっついてる紙のアレを一緒に食うことで最悪の始まりを迎えた。一度買えば分かると思うが、完全に肉まんと同化しているのである。許せん。ちなみに味は美味しかったです。
で、そんなこんなで30分が経過し、再訪問すると無事に店内が空いていた。助かる。
無事に着席もできたので、ここらで簡単にこの店の説明をしよう。
そもそもこの店を知った経緯だが、「大衆居酒屋連動サーチ」という独自の手法を使った。後に特許申請も考えているこの手法であるが、簡単に仕組みを言えば「Twitterで自分のお気に入りの店名をサーチし、そこに引っかかるツイートから似たような雰囲気の店として挙げられている店名を探る」というものである。
具体例「いなり(店名)+すすきの(地名)」でサーチ
「@negishiso
○○君すすきの居るの? じゃあいなりとモツの朝立ちってとこオススメだよ!」
こういうツイート/リプライを拾う(は?)。
これはそれなりに一般化できる点で有益である。有識者の肩にタダ乗りすることで、自分の嗜好に合いそうな店を選ぶことが出来るのだ。う~ん、素晴らしい。
というわけで、これで見つけたのが「モツの朝立ち」という店である。
さて、「モツの朝立ち」という店名に、どのような印象を受けるかは個人に任せる。が、ここでは明らかに男性器特有の「朝勃ち」を意識しているだろう。というのも、店内に設置されている隆々と屹立する木彫りの男性器像が、その推論を確信へと変えてくれるのである。背景に映る天狗の鼻と木彫り像の類似性、「握る」「擦る」というワードからは卑猥な光景を連想する。下ネタしかないのかこの店は。
また、メニューを見てもそのコンセプトはズレない。お酒として滋養強壮に良いとされるマムシ酒やハブ酒が推されていたり、モツ煮込みは辛くスタミナを付けさせる気満々である。まさにすすきののためにあるような店だ。
ところがどっこい、卑猥な店内と融合を果たしていない点が2点ある。それが、
①あまりに丁寧で優しい接客
②清潔感のある店内
である。
①、これはもうかなりびっくりした。自分は大衆居酒屋と言えば、粗雑な対応でも全然良いと思っていて、ごちゃごちゃして忙しい店内で、自分の声もオーダーも通らないようななかで食うモツが美味いと思っているタイプの人間だ。
そんでもって、このお店は上のコンセプトで営業しているのだから、店員から「この後はみなさん性行為(セックス)ですか!?」とか「オススメの風俗店教えましょうか!?あなた何が好き?熟女?中年?」とか言われるものだと思っていた。まさにドがつくほどの偏見である。
しかしながら、このお店の店員さんはみな物腰が柔らかく、言動も落ち着いており、親しみやすいのである。驚くべきことに、誰ひとりとして下ネタを言わないのだ(普通の店員は言わない)!
しかも、退店時にはわざわざ店員さんが店前まで出てきてくれるのである。もうめちゃくちゃ丁寧だ。笑顔も素敵で、接客としてはかなり満足度が高かった。
②、ここも面白い。大衆居酒屋といえばボロボロの紙に書かれ、壁一面に処狭しと並べられたメニューが目に嬉しい。コの字型のカウンターというのも捨てがたいし、店内は薄暗くあるべしという不文律がある(気がする)。ところがこのお店のライトアップたるや(写真を見ればわかるように)パリッとしている。ちょっと高い寿司や料亭の色合いと言えば伝わるだろうか。そのライトの加減と、テーブルや床の清潔感は、大衆居酒屋の枠組みから外れており、飲食店として非常に好ましかった。大衆居酒屋としては少し残念に思えたが、そもそも大衆居酒屋という括りで考えなければ良いだけの話である。
最後に、簡単にメニューを紹介して日記を終わろう。
特筆すべきは、やはりデフォで辛いモツ煮込みとマムシ酒だろう。自分が普段居酒屋で食べるモツ煮込みとはベクトルが違い、トロトロというよりサラサラしていた。モツは軟らかいが比較的しっかりとした噛み応えがあり、ひと噛みするごとに肉汁が溢れて笑顔になる。+100円で卵入りにして、最初に割って溶かすことで辛さを中和する食べ方が正解な気がする。もちろん辛いままでも十分に美味しいし、ラーメン中本みたいに馬鹿辛いというわけではないので、辛党でなくても食えると思う。多分。
で、やって参りましたマムシ酒だが、こればかりは実際に呑まないとその「ヤバさ」が分からないだろう。わからないだろうが、あえて言語化を試みる。
まず香りがすでに獣臭いのである。これを自分は「野蛮な山岡家」と表現するが、分からない人は山岡家というラーメン店の匂いを嗅いで欲しい。山岡家の香りが分からない人には、「ラーメン店で飼っていた犬が三年ほど山の自然に揉まれた香り」という表現にしたいと思う。わかるかな。
次に、マムシ酒を口に入れよう。これがまた面白いことに、鼻からくる香りとは全く世界が異なっていて、「皮」の香りが口内に広がるのだ。といっても、革製品のような比較的しっとりとした香りではない。ここでの皮は、「は虫類の皮」であり、より近しい表現として「蝉」を食べた時の香りがするのだ。もちろん殆どの人は蝉を食べないと思うし自分も食べたことはないのだが、幼少期に蝉をカラッと揚げて食べたという思い出を捏造して欲しい。その時に感じる「ウゲッ!」とする香りがこの香りに合っているような気がする。
最後は、口に含んでいると徐々にキツい匂いが消え、希釈していない焼酎特有のヒリヒリした感覚が舌を焼く。
だいたい言語化したつもりだが、それでもやはり創造は難しいだろう。ハブ酒は沖縄に行けばいくらでも飲めるが、マムシ酒を店で置いているところはなかなか見かけない。ネットで検索すれば出てくるが、恐らく瓶で飲むより経験として店内で少し味わうタイプのお酒だと思う。現に店員さんも「自分はマムシ酒は無理です! 飲めたもんじゃないですね!」と笑っていた。じゃあ誰が好んで置いているんだこのお酒。店長かな。
それはともかく、非常に面白い経験をさせてもらった。札幌を離れる前に出会えて良かった店だと思う。隣に座ったお兄さんが、初めての札幌観光でこの店に来たと店員さんに話していて良かった。ちょうどあの時の空間には、これから札幌を楽しむものと、最後に札幌を楽しんだものが同居していたことになる。そしてこのお店は、これからもずっと札幌の地にあり続け、自分たちのような人々を見守り続けるのだろう。
なんともオセンチな締めとなってしまったが、この店には木彫りの男性器像が堂々と構えていることを思い出して欲しい。今日の混雑具合を見てもかなりの人気店だと思うが、非常に入りやすいお店になっている。
札幌観光に来た時には是非どうぞ。