新薬史観

地雷カプお断り

【2021年6月】今月触れた作品の感想を書くます

あまりに怠惰でまったく更新していませんでした。すみませんでした。お詫びに(?)今月触れた作品の感想を作品媒体別に書こうと思います。

 

 

【アニメ】

①オッドタクシー

oddtaxi.jp

天才オリジナルアニメーション。知り合いに教えてもらって視聴をしたが大当たりでした。パッと見動物のほのぼのアニメかなと思いきゃ全く違う。シナリオがかなり丁寧に作りこまれており、ありふれた設定のようで新しいミステリ作品に仕上がっている(ミステリ全然知らんけど)。

簡単なあらすじだが、特に何の欲もない(枯れたとも言う)タクシードライバー「小戸川」とその周囲の人々が、ヤクザの人間と絡み合い銃弾は飛び、血が噴き出るアニメ。なんといってもマクガフィンの転がし方がうまく、人間関係のほつれや修復も心地いい。最近のアニメでは珍しく、性欲に真剣に向き合っていて、人間の醜さをしっかり演出できるところも良かった。芸人が声優として出てきているのに、そこまで違和感なく、なおかつしっかり作品内に芸人が組み込まれているのも珍しい*1。まだ完結していないが、間違いなく傑作アニメだろう。最近のなろうアニメに疲れた方におすすめ。

個人的に、脚本の此元和津也さんと監督の木下麦さんに注目したい。

 

②スライム倒して300年、知らないうちにレベルMAXになってました

slime300-anime.com

めちゃくちゃ悔しいがすごく面白いアニメ。なぜ悔しいかというと、2010年代に大量生産された「嫁侍らせやれやれ男主人公アニメ」の主人公を女にしただけのアニメだから。本質的には相手を一人ひとり力で屈服させてハーレムの仲間に引き入れるという目も当てられない脚本のはずなのに、同性だからという理由だけで関係性の卑しい上下関係が不透明になる(ように見える)のがかなり悔しい。結局俺は百合ならなんでもいいということなのだろうか?そうかもしれない……。

冗談はさておき、このアニメの編集がかなりうまいように思う。というのは間の置き方、セリフのテンポなどがかなり一定で心地よく、雰囲気で言うなら『このすば』のような稀な快適感が味わえる。異世界アニメはクソだと思っている人も、これを見れば悔しい気持ちになるかもしれない。ならないかもしれない。

 

スーパーカブ

supercub-anime.com

かなりいやらしいアニメ。というのも、自分はこのアニメにおけるスーパーカブという題材と、博先生のキャラの可愛さと、BGMとして流れるクラシック音楽から、少女の孤独を表現しているのだと思っていた。個人的にはこれらの要素はかみ合わないものだと思っており、わかりやすく言うなら「マウス、混浴、寿司」くらいの断絶イメージである。なんら「つながり」が見えないこの世界において、小熊という少女は孤独なのだ。生い立ちや交友関係からもそれは補強できるだろうし、その後のスーパーカブを通した(カブがなぜスーパーかという話題を共通項としてつながる)交流によって僅かではあるが交友関係が広がるのもいい。しかしながら、途中から小熊はスーパーカブが持つスーパーさを完全に把握した「何者か」になり(ここでバイク乗りのおっさんということもできるだろうが、自分はそこまでは踏み込めない)、かなり人物像が不安定になる。修学旅行でヤンキーになる辺りは面白いのだけれど、椎ちゃんが出てきたあたりから話はさらにこじれることになり、スーパーカブが持っていたはずの「スーパー」さを小熊が持っていることにされてしまう。小熊本人は「いやいやすごいのはカブだよ」というテンションだが、そこの責任を小熊が取らないあたりで話がややこしくなっている。というのも、この時には小熊はすでに孤独な少女ではなく、スーパーカブの魅力に取りつかれた「何者」かになっているからだ。この「小熊だったもの」と礼子はスーパーカブのヒーロー性によって強い側(正義とも言えるかもしれない)に立っているように見えるのに対し、バイクに乗ろうとしない椎ちゃんはまるで悪者かのように日常ではうまくいかないし、山道では事故にあう。この後の話の流れもそうで、結局作者がやりたかったのは「カブはマジですごいよ」であり、孤独をカブが薄めてくれるという話ではなかったんだなという印象を受けた。本当に後者が主題なのであれば、椎ちゃんに「バイクに乗ることの気付きを与えてくれたのはこの子だ」という形で憧れの円環構造によってバイクの有無の壁(自分には、バイクの有無と身体的な差異や下着の扱い、事故の時の椎ちゃんの見下しているような扱い方は無関係であるようには思えない)を崩す展開にはならないだろう。これではバイクの特権意識を鼻折られた「小熊だったもの」の話でしかなく、せいぜい伝えられるメッセージは「カブによって人は調子に乗る」程度のものにしかならないはずだ。自分は作者じゃないので、この作品のテーマに口を突っ込める立場にないわけだが、それでも「そうじゃないだろ」とは言いたい。個人的にはこの路線は好みでなかったためにあまり人にお勧めできないアニメとなった。序盤はとても良かっただけに残念。

 

ゾンビランドサガ リベンジ

 

zombielandsaga.com

流石の面白さ。非常に安定しており、「この2期が見たかった」にどこまでも忠実に答えてくれるアニメの優等生。オリジナルアニメでこのクオリティのものを続けてだせるのは本当にすごいと思うので、これからも頑張ってほしいです(まだ最終回を見ていないので下手なことは言えないのでした)。

いつか佐賀に観光にしに行きます。

 

【ゲーム】

逆転検事

逆転裁判が好きだと言っておきながら、検事の方をまったくやっていなかった矛盾を知り合いに指摘(異議あり!)されてしまい泣く泣く買った。アップルストアのアプリ版なら2500円くらいで全編購入可。

正直、面白いのだがまあまあ楽しいレベルに落ち着いてしまった。というのも最後の決定的な謎にかなり序盤で気付いてしまったからにほかならず、ラストの盛り上がりに欠けてしまったからだと思う(自分の気付き力が高いわけではなく、かなり露骨でわかりやすいネタだから同じような人は多いんじゃないか)。そのなかでも第2話の「逆転エアライン」はトリックの構成が緻密で面白かった。なかなか思いつかない話だと思うし、新しいストーリーだなあと思えた。

システム面では、舞台を法廷から現場に変えている時点で新しい体験になっている。逆裁では画面内のカーソルを動かして証拠を集める感じだったが、検事では自分が動くという点でこれまた面白い。もっとも、探偵パートと法廷(?)パートの区分がしっかりついていないからだと思うが、現場でそのまま追及を始めるのは、なかなかにシームレスでよかった。糸鋸刑事と御剣の仲の良さも知れたし、ヒロインの美雲ちゃんもかわいくて良かったが、たまにしゃくれるのは何なんだ。全体的には良ゲーでした。

逆転検事

 

こちらもアップルストアのアプリ版なら2500円くらいで全編購入可。

神!といえるくらいにシナリオが練られている。これぞ逆転シリーズと言いたいゲーム。一見何の結びつきもない事件がかなり綺麗に結びつくのが面白いし、全編を通して「親と子の因縁、絆」というテーマがちりばめられているのも最高によい。というのも、御剣は弁護士の父を殺され、本当であれば弁護士になるところを検事に無理やり転換することになった人間だからだ。その感情は父を殺害した人間への憎しみでしかなく、まったくポジティブなモチベはなかった。そんな彼が御剣を救いたいという圧倒的ポジな感情で接近する成歩堂に強く影響されるのも無理ないことで、この2ではそこの感情の揺れに注目しているのが素晴らしかった。そして、この親子のテーマが様々なキャラの心理にも流れており、嫌みたらしくなく親子についてプレイヤーを考えさせられるつくりになっている。御剣はもちろん、狩魔の関係、一条の関係などなど、2では描かれていない関係が作品全体を補強しているのも大好きポイント。第2話「獄中の逆転」、第3話「受け継がれし逆転」、第5話「大いなる逆転」がお気に入り。なかでも第5話の面白さは格別だった。おすすめ。

 

洞窟物語(cave story+)

すんごくよかった作品。知り合いにお勧めしてもらったものだが、ピコピコ電子音のBGMが心地よい。難易度はアクションになれていない人(自分がそう)にとってはやや難しめだが 、初めに一番簡単なものを素直に選べば、なんとかクリアはできるようになっている。ミミガーという耳がながい種族と、それを調査しにきた人間とロボットの話で、イメージとしては有名どころの『UNDERTALE』が思い浮かんだ。が、それも当然で実はアンテの製作者(Toby Fox氏)が影響を受けたゲームとして名前を挙げているタイトルがこの洞窟物語なのだ。この影響の受け方がすさまじく、正直に言うとアンテの良さの4割はこのゲームから来ていると言っても過言ではないと思う。それくらいアンテのシナリオの骨格自体がこのゲーム由来のものなのだ。

キャラもいいし、セリフもひねくれているところがあって良い。水にこだわったという描写も最高だし(これが後々の演出にすごく効いてくる)、ヒロインもめちゃかわいい。

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ヒロインのカーリーブレイスちゃん

というわけで、シナリオ、キャラ、空気が抜群だし、プレイ時間も(それなりにアクションが得意なら)10時間もあればクリアできるはずなので、ぜひやってほしい。特にアンテ好きなら、その源流を探るという意味でもかなりオススメ。

 

【映画】

岩井俊二スワロウテイル』(1996)

これすごかった! 「円都」と呼ばれる無国籍地帯を舞台に、母親を殺された少女と彼女を引き取った娼婦の交流を描く作品。最初に言えばしっかりとした百合作品なのだが、それ以上にSFしている。世界観の組み立てがうまくてびっくりした。セリフのテンポが悪いなと最初は思っていたのだが、これは花とアリスでも思っていたことなので、たぶん岩井俊二と自分のナチュラルなテンポがかみ合っていないのだと思う。のちに映像の良さに引き込まれて気にならなくなったので助かった。

シナリオとしては「アゲハ」に象徴されるように、鬱屈した閉じた世界で身体を売っていた少女たちが、違法な手段で金を手にして成功していく話ではある。ただ、この作品における羽化は、あくまで同時代に存在している生存環境の移動でしかなく、映像としてもわかるように、いま観客にとってカメラを取れば当たり前に撮影できる日本の街の風景がまるで異世界のような扱いになっているし、何より皆が日本人であることを強要してくるものになっている。どこからどう見ても日本人の特権意識を少女の未熟性という観点から打ち砕こうという岩井俊二の強い意思が透けて見える作品であり、そしてそれは成功しているように思う。文句なしに面白かった。

 

タル・ベーラニーチェの馬』(2011)

ニーチェがぼろぼろの馬を見て「可哀そうすぎ!」と泣いてからそのまま自分も弱って死んだ』という逸話をもとに製作された作品。かなり静かで、独特の映像になっていた。アレクサンドル・コット「草原の実験」にある意味で近いが、目がくらくらしそうなパワーのある映像はあまり無く、どちらかと言えばタルコフスキーの作品群に類似するかもという印象だった。おそらく、映像のパワーのなさ(逆に言えば弱体化)はモノクロにすることで実現し、作品に登場する力ない人々をうまく映像化できているのだろう。そして馬が弱るということが家計に直結し、どんどん追い詰められていくという言葉にできない苛立ち、諦観が画面の隅々にまで広がっている点も加えて、かなり負の方向に飲み込まれる作品になっていた。最後の終わり方は秀逸。よかったです。

 

鈴木清順ツィゴイネルワイゼン』(1980)

ズルい。かなり面白かった。そんな演出があるのかという驚きで何度も頭を殴られる作品になっていて、「意外性」をそのまま形にしたような作品。その意外性は音、映像、人物など多岐にわたり、寺山修司『書を捨てよ町へ出よう』を見ているときのような不条理さを感じる。不条理なのだが面白いのは、その耽美な映像と脚本が良いからだろう。最初に提示されたサラサーテの『ツィゴイネルワイゼン』の音楽の途中に入っていたセリフはなんと言っているのか、というものが作品全体に貫かれており(そもそもこの作品はなんと言っているのか?)、最後にきちんとその謎が置かれているあたり、ややこしくも脚本の構成はきちんとしているように思う。中砂と靑地の関係もかなり面白いだろう。靑地は中砂からめちゃくちゃな仕打ちを受けているのに彼のすべてを受け止めようとするし、どうしても彼のことが気にかかってしまう。中砂夫妻の間に生まれた子は靑地の下の名前からもらっている。「焼かずにそのまま骨になることこそが良い、互いに死んだらその骨を渡そう」という中砂の言葉は靑地をしばりつけ、妻の不倫には動揺しているような素振りを魅せなかったのに、中砂との約束が叶わなかったときにだけ見せる靑地は人間らしさを見せる(中砂の死の報告を受けた際に、靑地(男)の方にだけやたらと花びらが多いのはその感情の差を表しているのか、とも邪推する)。これらの要素は個人的に重くのしかかり、作品全体から同性愛を匂いを感じ取ってしまった。最後に「生者こそが死者である」という転換が行われるが、これが何を意味するのかはやや怪しい。強いて言うならば、ツィゴイネルワイゼンに入ったいた声は死者のものであり、靑地が聞けなかったのは生きていたからである。これからようやく靑地は死んでレコードの声が聞こえるようになり、中砂と同じ世界に行けるのである。それは靑地にとってこの上ない喜びなのではないか(中砂とは対照的に作品で一切語られなかった靑地の快楽が作品外で語られるのではないか)という読み方をした。

いずれにせよ、この脚本と映像は鈴木清順監督作品でしか味わえないものだろう。いい体験をしました。

 

⑪古川知宏『劇場版 少女☆歌劇レヴュースタァライト』(2021)

感想としては、アニメが好きなら絶対に観た方がよいと思いました。スタァライトというコンテンツに脚を生やさせ、しっかり地面に立たせた傑作。古川監督はそろそろイクニという文脈から切り離され、菱田正和京極尚彦のように、ひとりのコンテンツの立役者として名声を得てドンドンおもしろアニメーションを作り上げてほしいし、オタクもそのつもりで古川さんの名前を挙げてほしい。

考察はこちらをどうぞ。

negishiso.hatenablog.com

 

平尾隆之『映画大好きポンポさん』(2021) 

微妙。映像としてビビッドな色に心を打たれるときもあれば、実際に映画の編集をしているときの映像の良さ(作中作のシーン)に唸るときもあった。が、それ以上に編集のカットが臭い。山崎貴のようながっくり感があるというか、一般大衆に向けたジャパニーズへぼ演出(おもに謎の剣でフィルムをカットするシーンとそれに合わせてジャパニーズ音楽を流すところ)をやめてくれというのが一点。また同様に、「幸福は創造の敵だ」というテーマのもとで作品がつくられているのだが、そうして幸福な人間を徹底的に排他した先にこの作品がある。ところが、この作品の声優のキャスティングや劇中歌からもわかるように、プロデューサーからの圧でかなり一般大衆に向けた作品(上にあげたダサ演出)を生み出すに至ったのではないかと邪推をしてしまった。つまり作品としてテーマを訴えるだけの説得力を感じられなかった。ニャリウッドを舞台にしているんだから、劇中歌はもっと相性がいいのが別にあっただろうし(劇中歌そのものを批判しているわけではなく、組み合わせが悪いという話)、画面演出もかなり練られた構成とぴったりのもっといい意味で気持ち悪いものがよかった。それこそジーンくんは精神世界に行くのではなく、映像ばかりを映しまくって正反対に現実世界の静謐さを押しだすだとか、狂気に満ち溢れたカットがあってもよかったように思う。映画以外に何もない狂気の監督という設定なら、気軽に精神世界でヒーローにしないでほしかった。とはいえ、漫画原作から「何かを残すこととはそれ以外を捨てること」を抽出して追求したのは映画化の試みとして面白く、そういう意味では楽しい作品だった。

それから、この作品のメッセージをさらに言語化すれば、「何者かになりたいけれど何にもなれないのが怖くて保険を意識してしまい、何も捨てきれない現代人への批判」になると思うのだが、これをジーンの生きざまとしてではなく観客にぶつけてくるのかと感心してしまった。とはいえ、これだけ現代と幸福を批判しているのに作品自体が先述のアレになっているのは惜しいところではある。臭い演出がなければ傑作だった。

あと小原好美さんの演じるポンポさんが大好き。

 

【書籍】

秋山瑞人「おれはミサイル」(2002)

最高でした。さすが秋山先生、あまりの文章の巧さに泣きそうになってしまう。星雲賞日本短編部門を受賞した歴としたSF作品。相変わらず武器や飛行機のディテールが丁寧で、なおかつ心理描写と状況説明の融合がすごく心地いい。ありがとうございました。『海原の用心棒』も読まないといけない。

 

【演劇】

⑭ままごと『朝がある』(2012)

kan-geki.com

良かった。一人芝居とは思えない身体の動きとセリフ量。それをすべて完璧にやりきるすさまじさに感動した。作品は太宰治『女生徒』を基にしたものではあるが、そこまで強く女生徒の感情を掘り下げるものではなく、むしろ女生徒の外の世界を積極的に広げていく試みを行っていた。柴幸男お気に入りの明確な数値を羅列することで現実世界と理論の世界を接続しようとする試みはうまくいっていたと思う。伝えたい様々な理論が、肉付けられて作品になる過程を見るような感覚。

⑮ままごと『わたしの星』(2019)

kan-geki.com

同団体の不朽の名作『わが星』の学生ver、それをさらに改変してこの脚本になったらしい。女子生徒が多く、自然と物語が百合に近いものとなる。百合だと言い切ることもできるが、この舞台で行われているのは「自分が輝くための舞台の移動」であり、そこに百合がぽっと置かれている感覚。季節は夏で、登場人物は人生の夏を謳歌する高校生で、火星への移住が進んだ地球では過疎化が進んでいた。ここから単にこの舞台を「田舎」と「都会」に還元してもよく、あえてそうしないのは柴幸男お得意の日常とスケールのでかさの接続を演出できないからだろう。幼馴染百合もいることにはいるが、彼女たちはお互いにとっての居場所を見つけ、場所を「移動」してもなお関係性は変わらないというメッセージに落ち着いている。自分が好きなのは身体性を伴う運命共同体なので、身体が離れると少し寂しい。まだこの程度の解像度でしか百合を楽しめないのは、お子様ということなのかもしれない。

 

上田誠夜は短し歩けよ乙女』 (2021)

www.yoruhamijikashi.jp

土曜日にたまたま見つけ、その翌日に観劇した。

結論から言うと最高の観劇体験だった。自分の好きな作品(小説でもアニメでも)が演劇になるという体験をしたことがなかったからかもしれないが、原作を知っていると、「原作・アニメでの表現が舞台ではこのように表現されている」という差異を楽しむことができるため、マシマシで楽しめた。

原作はかなり有名な作品なのでご存じのかたも多いと思うが、この作品は主人公(先輩と黒髪の乙女)の語りが非常に長い。文章そのもののリズムにもおもちろいといころがあるため、息継ぎをしたりゆっくり話すと途端に面白みが損なわれるので、「リアルで、その時その場所で」行う舞台ではめちゃくちゃに難易度が高いと思われた。しかし先輩役の中村壱太郎さんも乙女役の久保史緒里さん(乃木坂46)も圧倒的記憶力と演技でその役を務めあげ、狂気の沙汰でしかなかった。ヤバすぎる。舞台の演出に取り組んだ上田誠さんは何かと森見作品に関わっているヨーロッパ企画の人だが、この人は本業が舞台であるだけに舞台演出が半端なくうまく、「ここでその音楽を差し込むのか」という驚きと音楽と語りのリズムの心地よさで、読書以上の快感をもたらしてくれた。最後のラップは完全に自分が好きな柴幸男『わが星』に通じるアレが来て、発狂しそうになってしまった。自分の好きなツボをしっかりと押え、最高の原作を最高の舞台に仕上げている点で文句なしの百点満点。こんなにきれいな映像化はあるのかと唸るレベル。ただひとつだけ残念だったのは(文句ではない)、詭弁踊りの重心の低さが足りなかったところである。もっと腰を落とせ!

 

【漫画】

大島永遠大親友』

めちゃくちゃに好きな作品。自分の大好きな幼馴染百合であり、最初はちょっとすれ違う系の路線でもある。この作品の面白さは構成であって、『水野と茶山』のように最初からこの作品全体を俯瞰する視点があって、毎巻の最後には(アニメ『かくしごと』でもやられていたように)しっかりと大人になったとろろちゃんがいる。このように何度も過去の思い出であることを強調することで、現在の見通しの不透明さと過去の濃厚な時間を対比することができているので、学生時代の特権的な関係を浮かび上がらせるのがうまいなあと思った。あとキャラがめちゃくちゃにかわいい。とろろがいい。本日3巻発売日です(21/06/28)。

 

柊ゆたか『Good night!  Angel』

柊ゆたか先生といえば『新米姉妹のふたりご飯』だが、その前作がこれだった。殺し屋の女子高生同士の物語なのだが、主人公は殺し屋とは無縁の日常生活を望んでいるという点で目新しく感じた。殺し屋系の話は無感情に殺すキャラが感情を取り戻したり〜と言ったストーリー展開が基本だと思い込んでいたので。

で、これまた新しいのは主人公を崇拝する系百合キャラが登場してストーキングされまくることなのだが、主人公は一切脇を甘くしないところが面白かった。なんやかんやで脇が甘くなって云々というストーリー展開ではなく、絶対に自分の大事なところは初めて手に入れた親友のためにだけ空けておきながら、その余った空間だけを彼女に譲るという生き様がすごく良かった。殺し屋というほど死とは向き合ってはいないが、誰も好きを諦めない物語である。面白かった。

 

⑲プレジ和尚『放課後のアルケミスト

微妙。作者のやりたいこと(マッチョを描く)と、作品の世界観(錬金術)が不幸にもマッチしなかった作品。錬金術に圧が必要で、やりすぎるとマッチョになるという世界は独特だが、だからとって物語の駆動力になっているわけではなく、明らかに大筋から逸れているのがもったいないポイントだった。

 

杉谷庄吾人間プラモ】『映画大好きポンポさん』シリーズ

漫画にして映画をやっているかなり面白い作品。pixivで話題になったときに自分も読んだことがあったが、そこからよくぞここまで(映画化)きたものだと思う。実際に漫画全三巻の内容はしびれるし、キャラクターがかなり魅力的。番外編のフランちゃんとカーナちゃんについてはぼちぼちだが、それがしっかり本編を盛り上げているので作品全体としてはかなり仕上がっている印象を受けた。面白かった。

 

山本さほ岡崎に捧ぐ

神。百合作品としてもいいが山本さんの人生がフィクション性に満ちていてそれだけで面白い。どこまでが本当で嘘なのかはわからないが、エピソードをしっかり漫画に落とし込む構成力も現実の自分たちの関係性をしっかり作品内のものとして描けている点(不要なものがほとんどない)も素晴らしく、なにより岡崎さんから山本さんに向けられた感情を考えるたびに胸が苦しくなる。「(ネグレクトから自分を救いだした)山本さんと出会うことにすべての幸運を使い果たした」と言う岡崎さんと、それを恥ずかしがらずに(褒めている)作品のキャラクターである山本さんに言わせる作者の精神力がすごい。記憶力もめちゃくちゃいいんだなと思う。唯一の欠点はnmmnなので百合と気軽に押し出せないところだろう(どこまで本当なのかわからないけれど)。

 

㉒うちのまいこ『ななつ神オンリー』

微妙。最近のきらら系漫画の上澄みだけ救って集めたもの。作品の核がない。

 

鴻巣覚『やさしい新説死霊術』

面白かったように思う。系統としては重めのきらら(ミラク)。死やその魂を扱うテーマにたがわぬ薄暗さがあり、どこか本気になり切れないところでもバランスのとり方がうまい。ただ漫画の巻数が短く(全2巻)、作者はもっと世界を広げたかっただろうなと思うと編集はもったいないことをしたなと残念な気持ちになる。リアルタイムで応援できていない時点で自分が連載について何かを言うことはできないのだが、もう少し長期的に見てもよかったんじゃないかなとは思った。せめて4巻あれば、この作者ならしっかり物語を描けていたと思う。

 

㉔せらみっく『ねことちよ』

ほのぼの系だが、微妙なところに怖さがある。ねこ(少女)の寝床が段ボールだったり、そもそも「ねこ」という名前であったりするからねこから人間になった少女が「ねこ」なのかとおもうが、それにしてもほかに名前はあったのではと思うし、ちよがねこに向けている感情が性的なものかどうかでこの作品の恐ろしさが変わる。作者名もタイトルもひらがなでほのぼの癒し作品感を出していて、事実それはしっかり果たせているとは思うので杞憂だと信じたい。続巻はでるのだろうか。

 

【おまけ】自作小説

最後におまけです。偉そうに作品の批評?感想?を書くだけの嫌な奴認定をされたくないので、今月開催されていた『日本SF作家クラブの小さな小説コンテスト』(通称:さなコン)に応募したやつを挙げておきます。

www.pixiv.net

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確か一次選考が七月上旬で結構近いんですよね。まあ落ちたら落ちたで「審査員の人にはこの作品の良さはわからなかったんだな」というクソポジティブシンキングでやっていくつもりですが、この前知り合いと話して、もう少し構成や視点を考慮してもよかったかもしれないなと思いました。 なんやかんやでプロかアマチュアか判別しがたいような人たちが紛れ込んでいますし、応募総数は1000作ということなので、正直思った以上にデカいコンテストになっているっぽいです。倍率100倍とかですからね。まあ気長に待ちつつ他の構想中の作品も形にできたらなあとは思ってます。

 

以上。

*1:経験則上、芸人が出るアニメはあまり面白くないと思っている