新薬史観

地雷カプお断り

イシグロキョウヘイ『サイダーのように言葉が湧き上がる』観た!!!!

cider-kotoba.jp

見ました!!!!めっちゃ良かった!!!!!!!!!!れ!!!2021年映画ランキング(ねぎしそ調べ)暫定1位の神作品です!!!!!!!!

……本当に大好きになったのでこの作品のどこが好きなのか書いていきたいと思います。上映している劇場が少ないような気がしますので、どうかお早めに。

①脚本がイイ!

まずなんといっても脚本がいい。佐藤大という有名作家を起用しただけあって、話の入ってきやすさが他の作品とまったく違うように感じた(これは演出の力も当然ある)。監督のインタビュー動画を観るとACDパートが佐藤さん、Bパートがイシグロ監督とのことだが、同一人物が書いたように綺麗に纏まっていたと思う。藤山さんの物語と、主人公のチェリーとスマイルの重ね方も上手くて、共通項としての出っ歯も良い。出っ歯のヒロインはなかなか観る機会がないだけに新鮮で、その動きを見ているだけでも退屈になりがちな日常が動いているような気がした。

「日常」について触れたので、続けて、この作品では様々な「異常」が「日常」を彩っているという話をしたい。自分が思いつくのは、以下の「異常」だ。

・十七歳の物語なのに、舞台は学校ではなくショッピングモール

・俳句が書かれる場は紙ではなく壁

・十七歳が老人ホームで働いている違和感

・労働中に装着するヘッドフォン

・ショッピングモールを疾駆するスケートボード

・近所のショッピングモールを練り歩くアイドル三姉妹

・入れ替わるスマートフォン

・CD製造工場の跡地としてのショッピングモール

これらに共通する「異常」とは、「本来あるべきではないところ」で物語が進んでいるという感覚である(テンプレから外れている程度のニュアンスで捉えて欲しい)。もちろん、すべてあり得ない設定というわけではないのだが、昨今のアニメやなろう小説で「異世界転生」などのテンプレが流行り、多くの作品としての方向に統一性が感じられるようになった自分にとっては、このような「異常」を敷き詰めた「日常」作品はかなり興味深く感じられた。

作品自体は、なんてことないただの青春恋愛アニメーションである。「俳句」という異常な要素は確かにあるが、俳句甲子園出場を目指すというようなスポ根に進むこともなく、骨格となる脚本はあくまで青春恋愛ものを徹底している。このようにスッキリとわかりやすい軸があり、ほかの「異常」はあくまで物語を彩る軽い情報量(しかし纏まることで深みを与える)をもつようにしているからこそ、誰が観ても話が理解しやすく、なおかつ薄っぺらくないアニメになっているのだと思う。青春ということで、キャラクターの成長をしっかり描いているところもよかった。

また、作品に深みを与えるものとして、伏線の回収の仕方も挙げられる。序盤でチェリーが退勤するときに出口でチラッと映った「だるま祭り」のポスターを観た時には「絶対にだるま祭りやるな」と思ったし、事実やったので気持ちよくなれた。途中のアレも「やるだろうな」と思ったらやっちゃうし、予測可能なシーンが多いところも理解しやすさの秘訣なのかなと(そういう意味では設定は「異常」でも脚本は「日常」なのだろう)。個人的にこのやり方は『バック・トゥ・ザ・フューチャー 』に近いものを感じるのだが(それくらいしか楽しい伏線回収映画の引き出しがない)、あのオモシロ伏線回収が好きな人はきっと楽しく観れると思う。

最期に構成だが、これもまた巧い。序盤に書いたが、この作品は藤山さんの物語と、主人公のチェリーとスマイルの物語が重ね合わさっていて、なおかつそれが舞台であるショッピングモールの歴史を紐解くきっかけにもなる。そのショッピングモールと歴史をともにする夏祭りがチェリーとスマイルの思い出の場所になるが、それは藤山さんの思い出の場所で……というように、意識が円のうえでスライドされていくのが気持ちいい。

音に拘っている、という点にも触れた方が良くて、自分もチェリーと同じく「俳句は文字で十分楽しめるもの」だと思っていた。しかし俳句は声にだすことで要素が付加されて、より魅力的になる。ここが本作の隠れたテーマに結びついているのではないかと勝手に邪推するのだけれど、チェリーがそうだったように、現状で満足している人間にとって、さらなる「要素」を不用だと思った時の振る舞い方が問われているのかなと感じた。というのも、チェリーは基本的に「音」を不用だと思っていて、それはなくても困らないし外部からの情報量を減らすことで安心できるからだ(ここにテンプレだが昨今の大量情報社会の文脈を加えてもいい)。それに加えて、スマイルはマスクによって「出っ歯」という要素を隠す・減らすことで安心できるという点で、チェリーと非常によく似ている。チェリーとのスタンスで違っているのがスマイルは自分から情報を所得しにいくところで(チェリーの俳句に「いいね」をする、「声が好き」だと言う、面白そうなことに首を突っ込む、介護のバイトを始めるなど)、この新たな要素を積極的に取り入れようとする姿勢はチェリーにはないもので、それが二人の出会いを生み出している。とはいえ、本当にチェリーは新たな要素の獲得に消極的なのかと言えばそうではなく(どっちやねん)、個人的には「俳句」という操作自体が、韻律という音を踏まえたり、換喩・文脈による新たな読みを求めたりと、17音の型にはめる点で情報量の減少を要請しながらも、結果的には情報量の増加を志向する言葉遊びだと思っている。そして言うまでもないことだが、二人の間で行われる俳句という型にはめた言葉のコミュニケーションは、日常言語での会話とはまったく異なる「異常」な言葉である。

そう考えると、この作品の設定自体が俳句のようなものであり、17歳の夏に17音の言葉に乗せて恋愛をする二人の物語に、自分が訳もなく涙を流すのも頷ける話である。

 

②キャラデザがイイ!

オタクが「このアニメオシャレだな~」と感じるところに、大抵その名前がある愛敬由紀子さんだが、この作品のキャラデザもまた愛敬由紀子さんだ(総作画監督もされている)。この時点で鑑賞者は勝ちみたいなところがある。

実際に公式サイトからキャラ一覧を覗いてみて欲しいのだが、やっぱりヒロインのスマイルちゃんがかわいい。下手すりゃ「オタクに優しいギャル」と評されそうなムーブをしてしまう彼女ではあるが、物語を見ていくうちに「ただのめちゃくちゃいい人」であることがわかっていくのもかなり良い。

f:id:negishiso:20210804060751p:plain

ヒロインのスマイルちゃん。かわいい

まあオタクなので見た目で一番好きなのはお姉ちゃんのジュリちゃんなのですが……。気になる人はここから観てください。

cider-kotoba.jp

 

③背景とかデザインがイイ!

この良さってなんだろうと思って公式サイトの監督インタビューを少しだけ観たのだけれど、影響を受けた例として以下の作家さんを挙げていて「なるほど」となったので共有。

f:id:negishiso:20210802184945p:plain

EIZIN SUZUKI – 鈴木英人公式サイト

f:id:negishiso:20210802184206p:plain

 わたせせいぞう -SEIZO STATION-

f:id:negishiso:20210802185117p:plain

永井博さんのTwitter (@hiroshipj)

これらすべて80年代のポップカルチャーという括りで良いらしく、80年代を知らなかった自分も、これら作品群を観れば「ああ、確かに影響をガッツリ受けているな」と理解できる。この色の違いを線によって丁寧に分け、背景の情報量を増やし、なおかつ色を思い切って変えることで色彩豊かにしていく手法は、いまは亡き焦茶さんのイラストに繋がっていたように思うが、それ以外ではあまり見かけないイラストだ。それを映画にして復活させてくれたのが嬉しかったし、このイラストの情報量から感じる不動のイメージと一致して、映画でも入道雲が書き割りのように一切動かないところがかなり良かった。躍動感があるのに動く気配がない、そういう背景が作品を綺麗に彩りながらも、キャラの動きに集中させる助けになっているように思う。

 

④演出もイイ!

冒頭のショッピングモール周辺をなめ回すようにローアングル?から映すカメラがかなり良かった。二人の日常を描くときにスプリットになるやつも自分はかなり好きで、スプリットの醍醐味でもある、同期するときと融合するときの気持ちよさも良かった。最期にそれとなく示す二人のキスシーンも分かっている人の演出で助かる。観ていて気持ちいい映像が多くて良かった。

 

⑤音楽もサイコー!

牛尾憲輔という自分でも知っている超有名作曲家を据えたこの作品は、これら特徴的な設定・背景にぴったりマッチしていてびっくりした。音楽の知識に疎いのでうまく表現できないのがもどかしいが、本当に良かった。主題歌を担当していたnever young beachも、ぷちぷち感が作品のタイトルにもなっているサイダー、そして青春のイメージとぴったり合っていて本当に良かった。最高です。

 

まとめ

 絶対に観るべきアニメ2021ランキング1位になっています、今(2021/08/04 6:47現在)。本当にいろいろ良くてかなりボロボロ泣いたので、絶対に多くの人に観て欲しい映画です。頼む。