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ジュリア・デュクルノー『TITANE/チタン』観た!

ジュリア・デュクルノー『TITANE/チタン』(2021)

TITANE/チタン - 映画情報・レビュー・評価・あらすじ | Filmarks映画

映画『TITANE チタン』公式サイト

【総合評価】9.5点(総合12点:全体10点+百合2点)

【作品の立ち位置】

ガチで大事にしたい作品(9<x)

積極的推し作品(8<x≦9)

オススメの手札に入る作品(7<x≦8)

まずまずな作品(6<x≦7)

自分からは話をしない作品(x≦6)


【世界構築】3点 (2点)

これについては簡単にストーリーを書いた方が早いと思うので、ネタバレ満載のあらすじを書きます。絶対にあらすじも読みたくないという人は注意してください。自分は大まかな物語を知ったうえで観ましたが十分に楽しめました。なぜなら私は話のあらすじを理解できなかったので。

<あらすじ>

幼い頃の交通事故によって頭にチタンプレートを埋め込まれた少女アレクシアは、手術以来車に対して性的に興奮するようになる。その後、成長してモーターショーでダンサーとして働くようになったアレクシアは、自分に寄ってくる人間を殺し続けたり、車と激しくセックスをしたりする。ある日、ひょんなことからアレクシアは車との子どもを妊娠するが、一方で殺人時に獲物を取り逃がし、連続殺人の犯人として指名手配されるようになる。アレクシアは自分の髪型や体形、顔つきを変化させることで、昔行方不明になった少年に成り代わり、少年の親である消防士ヴァンサンのもとを尋ねて無事に保護される。それから妊婦のアレクシアは男装をしたりひげを生やしたりして、消防士見習いとしてヴァンサンと親子関係を結ぼうとする話です。

あらすじはともかく、カメラの動き方や映像としての強さは最高で誰でも興奮できるので、映画好きなら観て損はないです。グロいけど。

 

【可読性】0.5点 (1点)

身体破壊による映像から伝播する痛みがかなり強く、何度か途中退場か目を瞑ろうかと考えてしまった。まあ、それより映画の面白さが勝ったので仕方なく観ましたが、途中で帰る人がいてもおかしくないとは思う。グロいの苦手なので。


【構成】2点 (2点)

完璧な気がする。エンタメとして模範的ではないだろうか。殺人、妊娠、成りすましというアレクシアを取り巻く3要素は常に物語に緊張をもたらし、ラストでしっかりと決着が付く。どんどん醜くなるアレクシアの身体も、キモい赤ちゃんの余韻も、ふたりが行き着いた関係性も全てが素晴らしい。

 

【台詞】1点 (2点)

そこまで響いた台詞はない。ラストのヴァンサンの台詞くらい?

 

【主題】2点 (2点)

観た人なら殆ど分かると思うが、やっていることは神話(っぽいこと)の再生産である。TITANEはタイタンとも読む点であからさまだし、ヴァンサンは自身を神と、アレクシアをイエス・キリストと呼ぶように強制するし、最後の出産は神々しく感じさせるように作り込んでいるし、明らかに神話との親和性を高めている。ポスターに書かれている「壊して、産まれる。」というフレーズは処刑されたキリストの復活を連想させるし……まあ、そういうことなのだろう。この辺りはねちねち書いていても面白くない。とはいえ、本作は完全に聖書と対応しているわけではない。個人的にここが気になるポイントだ。キリストは処女のマリアから生まれるが、本作におけるキリストであるアレクシアは、(車と性交した)処女として子を授かって産むマリアの役割を果たす。さて、果たしてアレクシアはキリストなのかマリアなのかハッキリしてほしいが、最後に生まれた赤ちゃんを「復活」したアレクシア自身だと考えると、あの出産によってキリストが再生産(あるいはマリアからキリストに転換)されたのだと考えることができ、ヴァンサン(神)とアレクシア(マリア→キリスト)は、真の意味で親子になったのだと考えられる。アレクシアはキリストに成りすましたマリアだったのだ。もちろん、その成りすまし(嘘)は共に過ごした時間(既成事実?)によって真実となる。その大筋にぶら下がる形で、先天的な肉体・血縁関係・性的嗜好を乗り越えた家族愛のかたちが表現されているように思った。自分は既成事実というフレーズが好きです。楽しい主題だと思います。

 

【キャラ】0.5点 (1点) 

ヴァンサン、アレクシアともに魅力的である一方、アレクシアの殺人衝動を押さえる理性については理解しがたいし、車への性的嗜好やダンス後の人間への対応でも表現されている①アレクシアの人間への興味の無さと、自傷を容易にする②自身の身体に対しての興味の無さと、③守りたい者も(信頼できる)保護者もいない現状という上記3点からは、警察から逃れようとするアレクシアの意識が説明できないように感じた。何故アレクシアは警察から逃れたのか?おそらく大量殺人による死刑を免れ、自分の自由を確保しておきたいためだとは思うが、そこまでしてなぜ彼女は生きようと思っていたのかがうまく掴めなかった。確かに、誰でも死ぬのは怖いだろう。ただ、他人を殺すことにまったく躊躇が無い彼女にとって、自分の死も恐怖の対象になり得るのだろうか。アレクシアの持つ「死」のイメージが、自分のなかでうまく消化できなかった。もっとも、他者を完全に理解することなんて不可能なのでこれで良いのだけれど、行動原理だけは把握しておきたかった。自分の理解力がなさ過ぎるだけ説はあります。

 

加点要素

【百合/関係性】0.5点 (2点)

僅かに女性間での性交シーンがあるが、自分が百合を主張したいのはその部分ではない(あれはレズビアンによる性交であり、物語性はない。異性間における性交のように通常の営みである)。自分が心を引かれたのは、父親ヴァンサンとアレクシアが到達する関係性である。虚構により成立した関係だが、その既成事実が二人にとっての思い出となり真実にすらなる様は非常に百合的であると感じられた。そろそろお気づきの方もいるかもしれないが、もうこの百合カテゴリでの加点方法は無茶苦茶なので、これからは「百合/関係性」という表現に変更しようと思います。もちろん優位性を持つのは百合だけれど、女性同士でない関係性についても受け皿が欲しかったし、そもそも百合という関係性を女性同士に限定している必然性も、自分自身よく分かっていないので。

まあでも今回の関係性の良さも、幼なじみの美少女がいちゃついているシーンと比べれば全然格が違いますけれどね。

 

【総括】

面白かったのでオススメです。少なくとも、一度観たら忘れられない映画になると思います。個人的には対物性愛の取り扱いがちょっと気になってしまって、まあ車とセックスをしてもいいのだけれど、(今はまだ)男性性の象徴とされる車と女性をセックスさせてもあんまり面白くなくね?感はありました。車である必然性はないように思えたし(車とのセックスの映像は最高でしたが)、ビルとか自転車の方が個人的には好みです。

一方で、放火するアレクシアと消防士のヴァンサンとの関係性は、ヴァンサンの方が支配的になる(親になる暗示)という意味で良い配置だな~と思いました。とにもかくにも、自分はこの映画の世界観と設定、構成・脚本に惚れ込んだので、しっかりと真似していきたい次第です。あと、ジュリア・デュクルノーの『RAW~少女のめざめ~』も観たいな~と思いました。何処かで観れるのかな。