新薬史観

地雷カプお断り

きづきあきら『ヨイコノミライ』読んだ!

きづきあきらヨイコノミライ』(2006)全4巻

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【総合評価】7点(総合12点:全体10点+百合2点)

【作品の立ち位置】

オールタイム・ベスト・コンテンツ(10<x)

ガチで大事にしたい作品(9<x)

積極的推し作品(8<x≦9)

オススメの手札に入る作品(7<x≦8)

まずまずな作品(6<x≦7)

自分からは話をしない作品(5<x≦6)

時間をロスしたと感じる作品(x≦5)


【世界構築】1.5点 (2点)

かつては確かに存在していた「元祖ヲタク」の空気感+中高生に特有の増長する自意識が丁寧に表現できている作品。にゃるらがオススメするのも頷ける。こういうオタクの醜さが描かれた作品、好きそうですものね(悪口のつもりはない)。

絵が結構かわいいので自然と読者もヒロインの青木さんに心惹かれて、大学漫研ゴスロリサークルクラッシャーなんかより、もうちょっと親しみやすい空気を感じるのもいいところだと思います。

 

【可読性】1点 (1点)

読みやすかったです。


【構成】1.5点 (2点)

第26話「破綻」までの展開はすごくいいと思っていて、これまで適当にやりすぎしてきた人間関係や信頼がどんどん崩れていき、行くところまで到達した感じがめちゃよかった(良かったので構成を全部メモしていた)……が、そこから先が尺の関係上どうしても駆け足になっており、結末も相まって余韻がしょぼくなったのが残念だった。あと数話あるだけでもうちょっと違った評価になったと思う。

 

【台詞】1点 (2点)

特に響いた台詞はなかった。ゼロ年代の台詞はすでに身体に取り込まれている。

 

【主題】0.5点 (2点)

テーマは大きくふたつあり、ひとつは①「売れない作品(同人含む)に何か価値はあるのか」と、②「何者かになりたくてもなれない人の居場所はどこか」の2点である。この問題設定自体は割と擦られまくっているものだと思うが、作品の年代を考えると、かなり先進的なテーマだったんじゃないかなと思う。ちょうどネット文化が発展したことにより、二次元が「何者かになりたくてもなれない人の居場所」として機能し始めたときだと思うので。

それで①については、サークルクラッシャー青木(親の支配下にある一面)が無関係にもかかわらず漫研の部誌を燃やすという露悪的なアクションをしたり、大手壁サークルの双子が部誌を貶すという明らかな「敵」がいるなかで、未来の人気作家を排出しようと目論む井之上部長と、猫を被った青木(本来の作品制作が好きな一面)が健闘するという対立構造によって提示されているのだが、結局部誌(合同誌)は一部も売れず、各自解散して自分の夢にレッツゴーという舵取りをしてしまったので、宙ぶらりんになっている。青木が最後に(恐らく)たどり着いた「好きな気持ちには正直でいよう」という精神は、売れない作品であっても描くことの基盤になり得ることを示唆していると見れなくもないが、割と全員が「一次創作やってる俺ら最強」感のある終わり方を見せている点を考えると微妙。

②については、折角面白い素材を用意していたのに、「かの子」という極端な異常者を出してしまったが為にけっこう勿体ない結末になってしまった。この作品のサブテーマでもある「オタクの醜さ、痛々しさを全面的に押し出す」*1という趣旨を考えると、登場人物はギリギリ犯罪をしないレベルでいいと思ったのだが、ストーキングを繰り返して補導、しかも妄想ばかりをぶつぶつ言っているという状態の人間は、割と普通の学校じゃなくて別の施設に行かせてやれよという気持ちの方が強い。しかもその割に、最終的に犯す罪が「部誌のなかで自分の画力を誇示するために商業作品をトレパクする」という昨今でもありふれた中高生あるあるに落ち着くのがしょうもなかった。しかもこのトレパクは誰も部誌を手に取らなかったということで爆発が回避され*2、かの子が許されてしまう点もしょうもなかった。そのうえ、許されたのに教室で妄想の世界に浸るという論理関係もイマイチ飲み込めない。恐らくかの子の罪を中途半端に許してしまったことで、かの子の居場所が部室しかないという結論になったのだと思うが、かの子が相変わらず妄想に入り浸っているせいで、部室=精神病棟のようなイメージに繋がりかねないし、創作をやらない人間の将来が全然描かれていない点も加味すれば「非生産者は全員人生を退場して然るべし」というレベルの暴論にも繋がりかねない。

個人的には、②のテーマを扱うのであればかの子は普通の自意識の肥大な女の子のレベルで留めておくべきだったし、激しい妄想にとらわれる必要はなかったと考えている。それが行きすぎた末に部誌でトレパク&炎上、勇気を振り絞って部室に来ても誰もいない、仕方が無いからネットで鬱憤を晴らすというオチならまだ理解できたように思う(この場合は部室というのは多種多様な人間を受け入れる土壌のある場ではあるが、いつかは離れるべき場所であり、その機会を逃した人間はネットにしか居場所がなくなるという話に持っていける)。

テーマ設定自体はよかったのに、うまく消化できていない印象だった。

 

【キャラ】1点 (1点) 

キャラはめちゃくちゃ立っていてよかったと思う。青木さんの二面性も良いし、かの子がイメチェンしてかわいくなるところも非常に良かった。回を経るごとに天原の顔がどんどんゲスになっていくのも最高である。キャラ自体にはあまり文句の付け所が無い。唯一、青木さんの弟が結局青木さんより優位なのかどうかがハッキリしていない点が気になった。ただ、部長が一番無能な癖に青木さんを掠め取っていくのだけが許せない。

 

加点要素

【百合/関係性】0.5点 (2点)

該当描写あり。好きな女のためなら何だってするという(一方的な)主従百合に近い関係性のふたりが出てくる。百合として美味しいような気もするが、まあ普通だった。

 

【総括】

エンタメ作品としては(26話まで)かなり優れているが、読み終えてから作品のテーマを考えると「?」となるような作品。ただ、オタクの自意識過剰なところとか、オタクの醜い側面、オタサーのドロドロを読みたい時には、的確にその欲望を満たしてくれる作品だと思う。面白かったです。

*1:流石にこれがメインではないだろう。これはあくまで技法であって②に回収されるはず

*2:あるいは、当時は著作権侵害がそこまで大きい問題にはならなかったのかもしれない