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『TAR/ター』トッド・フィールド【ネタバレ感想】

※この記事にはネタバレがあります。未視聴の方は十分お気をつけ下さい。

トッド・フィールド『TAR/ター』(2022)158分、アメリ

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<あらすじ>

世界最高峰のオーケストラの一つであるドイツのベルリン・フィルで、女性として初めて首席指揮者に任命されたリディア・ター。彼女は天才的な能力とそれを上回る努力、類稀なるプロデュース力で、自身を輝けるブランドとして作り上げることに成功する。今や作曲家としても、圧倒的な地位を手にしたターだったが、マーラー交響曲第5番の演奏と録音のプレッシャーと、新曲の創作に苦しんでいた。そんな時、かつてターが指導した若手指揮者の訃報が入り、ある疑惑をかけられたターは、追いつめられていく──

あらすじ引用元 

TAR/ター - 映画情報・レビュー・評価・あらすじ | Filmarks映画

公式サイト 

https://gaga.ne.jp/TAR/

 

【総合評価】8点(総合12点:全体10点+百合2点)

【作品の立ち位置】

オールタイム・ベスト・コンテンツ(10<x)

ガチで大事にしたい作品(9<x≦10)

積極的推し作品(8<x≦9)

オススメの手札に入る作品(7<x≦8)

まずまずな作品(6<x≦7)

自分からは話をしない作品(5<x≦6)

オススメできない作品(x≦5)


【世界構築】2点 (2点)

指揮者が関わる世界として、非常にそれらしい映像(私は音楽ミリしらですが)が撮られていて良かった。ケイト・ブランシェットの演技というか雰囲気が本作の主人公のターにぴったりなのも良く、『ブルージャスミン』のジャスミンみたいに、神経質で少し奇妙な美人をやらせると本当に素晴らしいなと改めて感じた。

 

【可読性】0.5点 (1点)

気が触れてから再起するまでの映像が退屈だった。消化試合感がある。


【構成】1.5点 (2点)

宣伝で「狂気」を掲げているように、この映画はターが精神的に追い詰められて狂気を遺憾無く発揮する(だろう)ところに面白みがあるという認識だが、めちゃくちゃタメた割には転落した末の狂気の表現が地味で、いまいち盛り上がりに欠けた。いや、面白かったのだが、実際にあれだけ時間と労力をかけたコンサートから降ろされたのならターはあれくらいやっていいだろと思うし、狂気というよりただ合理的にキレただけな気もする。なんとなく近いなと思った最近の映画にサム・メンデス『エンパイア・オブ・ライト』があるが、あれはオリヴィア・コールマン演じるヒラリーが市民の前で呼ばれてもないのに急に壇上に上がり、明らかに異様な目つきで意味のわからないスピーチをするところに、乱入者・異常者を目の当たりにした時にしか発生し得ない良い緊迫感があった。今回のコンサートにはそれがない。時折聞こえる幻聴もそこまで効果的なわけでなく、かなり控えめな狂気演出となっている。そのため、ターが本当に精神的に参って行動をしているのか、あるいはシラフでその動きをしているのかが掴めない。話の盛り上がりとしても起伏が曖昧であり、ターの権威は常に下がり続けて気がついたら辺鄙なところにいた感じなので、(権威のある人間の転落物語としては)個人的にはあんまり好きな感じではない。ただ、後述するがこの作品をただの転落作品と見るか、あるいはターの復活の物語と見るかで評価は大きく変わると思うし、自分は後者として見た場合に1.5点くらいにはなるなと判断したのでこの点数をつけました。

 

【台詞】0.5点 (1点)

特に響いたものはない。強いて言えば「指揮者は作曲家に奉仕する」くらいだろうか。よく聞く気もするのでこの映画独自の台詞ではなさそう。

 

【主題】2点 (2点)

構成でも触れたが、この映画のテーマは果たしてなんなのか、という話である。私はてっきり初の女性マエストロが音楽を追求するあまり狂気に蝕まれて人生を滅茶苦茶にするものだという認識だったので、思ったより破滅しなかったな……と思ってがっかりだった。そういう目線で見ると、この映画の主題は2点中1点くらいである。

ただ、TARの感想をサーチしていると次のようなツイートを見かけ、これがなかなか「言われてみれば……」のオンパレードだったので、今の私の感想はこのツイートに結構影響されている。

内容をまとめると、ターは全然狂ってないし、それなりに合理的に動いているし、音楽に誠実に向き合っているという感じになる(この辺りは初見でもそう感じる)。そして何より、最後は別に転落したわけではなく、実家で涙を流して子供向けの演奏会で涙を流し、アジアの民族音楽を専攻していたことを踏まえた上で、むしろ原点回帰し幸福に指揮棒を振っているというのだ。

これが確かにその通りで、むしろそう見るのが自然である。ベルリン・フィルの一流楽団で指揮棒を振っていたころよりも、子供に囲まれて指揮棒を振ることを「転落」と見なす部分に自らの権威主義を認めるところも含め、素直に製作陣にやられましたという気持ちになった。

ただ、本作はそういう作りにはなっていないというか、良くも悪くも表面上だけでキレイに物語が終わるために考察が分かれるのであって、というよりこの映画に「考察」なんてものをする必要があるなんて夢にも思わなかったので、「えー!」という感じであるが、公式サイトを見るとご丁寧に「あなたはハッピーエンド派?バッドエンド派?」みたく意見の分断を承知の上で盛り上げようとしているところを見ると、この反応を狙ってマーケティングをしているのだろう。

纏めると、この映画の見方は人によって結構変わるよね、というのと、ラストシーンの解釈を惑わせるような作りを、曲への自分の解釈を披露することを強く求められ、作曲者や演奏者への偏見を取っ払い、目の前の音楽にだけ貪欲に向き合い続ける「指揮者」という職業を題材に制作したところに良さがあると言える。自分はそれなりに作品の意図を読み取るのが得意だと自惚れていたところがあるのだが、本作に関しては全然製作陣の意図を汲み取れなかった反省があり、そこも踏まえて2点中2点とした。まぁ映画なんて別に相手側の意思を汲み取らなくても自分が見たものをそのまま受け取ったらいいのですが、それはそれ、これはこれということで。

 

【キャラ】1.5点 (2点) 

基本的に音楽バカのター以外は全員悪いやつな感じなのであまりいい印象がないのだが、途中で出てくる天才少女っぽい女の子のターを小馬鹿にした振る舞いが好みだったのと、ターの隣人がなんか恐ろしくて謎だったのと(彼女たちを物語に出した意図がわからんが、別に意図なんてなくても居ていいだろ感はある)カリスマ的なターの存在感が非常に良かった。ただ、何度も言うが全然狂気が足りていなかった。

 

加点要素【百合/関係性】0点 (2点)

本作はレズビアンが出てくるが、というよりターがそうなのだが、だからと言って百合だー!ということには全然ならなかった。当たり前だけど。もしかしたらクリスタからターへは百合だったかも……?と思わなくもないが、作品内ではその辺りがぼかされているので不明。

 

【総括】

最初は狂気が全然足りなくて微妙だったが、本作でやりたかったことを捉え直すとなかなか良作だったな〜と思う。ターの音楽に誠実に向き合っている感も良い。ただやはり狂気、狂気が足りない。やっぱり『セッション』みたいなやつが欲しいですよね。もっとターが狂うところが観たかった。これでは順当にただのいい映画である(まぁ初見でその感想に行き着く人はあんまりいないと思うが)。

以上。

 

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今まで他人に勧めてもらったものをすべて見切れていないなかで更に求めるのは傲慢っぽさがありますが、他人から好きな作品をオススメされると嬉しいですし、自分も何かオススメしたいな〜と常々思っています。もちろんこの記事のコメント欄にくれても嬉しいです。よろしくお願いします🙇‍♀️