新薬史観

地雷カプお断り

河村智之『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会TVアニメ2期』観た!

河村智之『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会TVアニメ2期』(2022)

ストーリー | TVアニメ | ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会

【総合評価】6.5点(総合12点:全体10点+百合2点)

【作品の立ち位置】

オールタイム・ベスト・コンテンツ(10<x)

ガチで大事にしたい作品(9<x≦10)

積極的推し作品(8<x≦9)

オススメの手札に入る作品(7<x≦8)

まずまずな作品(6<x≦7)

自分からは話をしない作品(5<x≦6)

時間をロスしたと感じる作品(x≦5)


【世界構築】1点 (2点)

スクールアイドルながらもプロ顔負けのライブ演出ができるのに対し、学園内で完結しているような規模感がちぐはぐで、世界観としてあまり説得力がなかった。どうせあそこまでデカいライブイベントをするなら『咲-saki-』のようなぶっ飛んだやり方*1で表現してほしかった。いや、確かに海外にファンがいる描写はされている。しかしどうしてもぬぐえない身内感があるのだ。『ラブライブ!The School Idol Movie』でμ'sが帰国後に見たような光景のような、絶対的なインパクトがあれば嬉しかった。まあ、学園内の同好会の乱立ぶりを見るに、あくまでスクールアイドルも数ある同好会のうちのひとつでしかないのだろうが、それにしてはライブ演出がプロじみており、あまり「スクールアイドルの舞台」としての説得力を感じられない。プロの舞台で女子高生が歌っているのであれば、それはもうただのアイドルである。

 

【可読性】1点 (1点)

飽きずに見ることができた。


【構成】1.5点 (2点)

本作の意義は、完全にキャラ諸共破滅していたスクスタの救済にあることは言うまでもなく、それは見事に達成されていると思う。素晴らしい。虹ヶ咲のキャラを救ってくれて本当にありがとう(からかいなしで本当に感謝しています)。ただ、それ以上のプラスアルファになる素材がなく、キャラのうまみである「(真剣な)葛藤」が強く描写されていないように感じた。もちろん13話で描くには無理のある内容だったのだとは思うし、表面的には非常になめらかなストーリーになっている。とはいえ、見ていてハラハラするような展開はなく、1期のようにテンポよくキャラ一人ひとりを分解していくわけでもなかったので、もう少しテンポの良さやスリルを楽しみたかったし、キャラの葛藤を見たかった。

 

【台詞】1点 (2点)

特に響いたものは無く、掛け合いもまあまあという感じだった。

 

【主題】0.5点 (2点)

話の展開に起伏がなく、キャラの掘り下げも弱いため、原作知識のない新規層にとっては没個性的にすらなったのではないかと思えた。それなのに、作品のテーマは「個性獲得の賞賛」だったので、あまり説得力は感じられなかった。

 

【キャラ】0.5点 (1点) 

キャラが抱えていた問題は実はそれなりにあって、(スクスタでの)栞子は徹底的なコスパ厨であるところや、正論こそがすべてだと信じているところに強い魅力があったし、ランジュも友達作りがわからないということのほかに、「プロのアイドルにも負けないスクールアイドルの魅力とは何か?」という面白いテーマになりうる思想を持っていたところが魅力だった。ミアも舞台に立つことをもっと恐怖に感じていいし、璃奈ちゃんもボードがないことを不安に感じていいはずだった。すべてのキャラが浅く拾われている。個人的には、あまりいいことだとは思わなかった。

 

加点要素

【百合/関係性】1点 (2点)

ゆうぽむ、ランしお、りなあいあたりは好きでした。

先述のとおり、もう少し掘り下げてくれればよかったのですが。

 

【総括】

本作でもっとも注目すべき点は、アイドルの価値を転覆していることだと考えている。個人的には、二次元を含めたアイドルは「何者にもなれない自分の代わりに夢を叶えてくれる、叶えるために頑張る」ところに職業的意義があると感じている。もちろん、地下などでは「単に顔がいいから」「観ていて癒されるから」というのもあるが、熱狂的なゾーンに入ると、アイドルの応援は一種の読書体験のような雰囲気を帯びるように感じる。私たちはライブや配信を見ながら、現実や自分の人生を忘れてアイドルやアイドルの人生そのものに感情移入をする。自分事になるから推しには貢ぐし、お揃いのものを買いたいし、大切にしたくなる。至極簡単に言えば、アイドルは私たちに現実ではなく夢を見せてくれるのだ。

一方で、本作で描かれるアイドル(スクールアイドル)はそうではない。スクールアイドルは私たちに夢を見せてくれる一方で、現実も見せてくる。最終話にして裏方なのに舞台に上がり、アイドルと同じ高さでピアノまで弾いた高咲侑が言ったではないか。

 

「次は、あなたの番!」

 

えっ、俺の番なの?

困ったことに、どうやら俺も夢を叶えなくてはいけないらしい。

これをどう捉えるかはあなた次第だが、個人的にこの働きかけはアイドルの機能不全であるように考えてしまう。アイドルとは、自分の代わりに夢を追いかけてくれるところに救いがあるのだ。応援するから私は夢を追いかけなくてもいい。私は安全圏で人生の賭けに出た美しいあなたを見ている。こんな自分にでも、あなたは夢を見せてくれる。もはやその夢が現実にすらなっていく。応援してくれる人数に関係なく、ひとりでもそう思わせてこそのアイドルだと自分は考えている。だって偶像だし。

それなのに、アイドルの応援だけで観客を満足させられないのであれば、もはやスクールアイドルは機能不全に陥っていると捉えてもおかしくないだろう。あるいは機能不全(それは例えるならゲーム画面が真っ暗になったときに自分の顔が映りこんでしまう、あのがっかり感に近い)を提供するアイドルこそがスクールアイドルなのかもしれない。*2

これはSNSの発達によりアイドルと観客の接近(つまりスクールアイドル)、および受け取り手が応援だけでは承認欲求を満たせなくなったという点にも原因はあるかもしれないが、とにかく観客は輝くことを求められている。もっともその手段は何でもよくて、人の心を感動させれば誰でもスクールアイドルだというのが本作の主張でもある。

一方で、本作のライブの感動は、集合体と化したオタクのサイリウム演出によってもたらされている。そこに自我はなく、個性なんてどこにも見当たらない。演者の気持ちを一瞬で汲み取り、その場に合わせたもっともふさわしい色変えを行う。まるで集合的意識をもった存在であるかのように。このように、私たちはスクールアイドルを応援するためには個性を殺さなくてはいけないにも関わらず、スクールアイドルからは「次は君の番!」と言われなければならないのである。非常に手厳しい。スクールアイドルがオタクに求めているのは、現実と夢との間の激しい反復横跳びである。自分には、体力のない大多数のオタクにそんな無茶はできないと思う。そもそも、体力がないからオタクになって、夢がないから夢のあるアイドルを応援しているのでは?

個人的に、無印時代のスクールアイドルは、アイドルという限りある美貌を消耗していく美しい存在を、より時間軸を強調するかたちできれいにしたものだと思っていた。子供である彼女たちにできることには限りがある。それでも自分たちだけではなく、私たちを含めたみんなの夢を抱え込もうとする姿勢に私たちは感動して、スクールアイドルが抱えた夢と自分の夢をすり合わせていったのだ。そのライブのような一体感こそが、スクールアイドルを追いかける魅力にもなっていた。

しかしながら、虹ヶ咲が提案するスクールアイドルの姿は、あまりにも当時のものとかけ離れている。もちろん、ずっと同じである必要性はどこにもないし、スクールアイドルも変わり続けていくのかもしれない。けれども、個性を極限まで高め、団体であることをやめた自分基点のスクールアイドル活動の矛先が、応援する私たちにまで伸びるのであれば、それは一種の価値観の強要であるようにすら感じてしまう。問題なのは、観客のなかにはそのようなことを求めていない人もいるのに、ということである。アイドルからもらった元気をどのように現実に還元するのかはその人の勝手であり、ふたたびその元気を夢につぎ込んでもいいはずだ。それを無理やり現実と結びつけた虹ヶ咲の姿勢に、自分は完全には賛同できない。帰り際に手を振りながらミッキーが言っていい言葉は、「また来てね」であり、「明日のお仕事頑張ってね」ではないと思うのだ。

ディズニーランドに行ったことはないけど。

*1:あの作品の麻雀の絶対的な立ち位置は、プロによる解説や大人の実況に支えられているのは言うまでもない。大人からの承認や、プロとの接続が非常に重要になってくる

*2:個人的にはぜひ後者の定義を推したい

湯浅政明『犬王』観た!

湯浅政明『犬王』(2022)

劇場アニメーション『犬王』

 

【総合評価】8.5点(総合12点:全体10点+百合2点)

【作品の立ち位置】

オールタイム・ベスト・コンテンツ(10<x)

ガチで大事にしたい作品(9<x≦10)

積極的推し作品(8<x≦9)

オススメの手札に入る作品(7<x≦8)

まずまずな作品(6<x≦7)

自分からは話をしない作品(5<x≦6)

時間をロスしたと感じる作品(x≦5)


【世界構築】3点 (2点)

湯浅政明の最高アニメーションというだけで基礎点が2くらいつくのだが、今回はそれに加え、リアルでは決して実現しなさそうだけど技術的には可能っぽく見せている異常な能楽を見事に表現しており、その映像と音楽に惚れ込んだ。特にアヴちゃん演じる犬王の歌は別格であり、湯浅政明の映像と合わさることでとてつもない威力を持っていた。キンプリのプリズムショーを観ている時にもこのような体験をしたことがあるが、まさか似たような感覚を覚えることになるとは。料亭で大真面目にゲーミング・ハンバーグを出されるような驚きがあった。もちろん、ハンバーグなので美味しいのは保証済みです。

 

【可読性】0.5点 (1点)

音楽が常に流れているような作品で素晴らしい……が、友魚の歌が割と代わり映えせずに延々と流れていた部分があり、そこはちょっと飽きてしまった。この飽きは本作品にとって致命的な気がするのでやや深刻に捉えた。


【構成】1.5点 (2点)

平家の呪いをうけ異形の子として産まれた犬王が、同じく平家の呪いで失明した友魚とともに音楽で平家の魂を浄化していくというストーリーはかなりすっきりしていて好み。一方で、犬王と友魚が最初から別れて呼び込み訳と演技に別れていたのが謎だった。あそこまで画期的なものを作るのなら、最初から琵琶法師と能楽を融合させたほうが絶対にいいだろうと思ってしまう。まあラストの舞台で融合する美しさを考えるとこういう話でも問題はないものの、途中で「こいつらはそれぞれ何をしているんだ?」と思ってしまい、集客効率の悪さにやや冷めたのはちょっと悲しいところ。

とはいえ、勧善懲悪もしっかり聞いていたし、それ以上に作品としてオリジナリティを築いているので、その辺りは十分カバーできていると思います。

 

【台詞】1点 (2点)

特に響いたものは無いが、的外れというものでもない。

 

【主題】1点 (2点)

新しいことと権力との闘争とでも言えばいいのだろうか。新しさは常に革命の可能性を秘めており、体制を破壊する可能性を有している(事実、作中でも現実でも、これまで愛されていた能楽も琵琶もほとんど過去のものになってしまった)。そういう風に考えるとふたりはあまりにもあっさり暴力を有した体制に潰されてしまい、ちょっと悲しいことになっている。流石にあれだけの熱狂をうめば、誰かがこっそり篝火のように絶やさずに受け継いでいてもいいものだが、その辺りの整合性やテーマとしてのインパクトに欠ける印象があった。まあでもその一種の新しさも「異界」との融合によって生まれたものだし、すべて荼毘に付してお終いというやり口でも問題ないと思う。好みではないけれど。

 

【キャラ】1点 (1点) 

キャラはしっかり立っていたと思います。やはり異形である犬王の造詣が素晴らしい。生まれ変わった犬王の顔が思ったのと違った方向性でう~~~~むとなったけれど、まあそういうものでしょう。内面はしっかりと保たれていたので問題ないです。

 

加点要素

【百合/関係性】0.5点 (2点)

幼なじみBLとでも言うべき作品だと思う。本当はもう少し最後の別れに時間を割いてほしかったが、ああいうものかもしれん。さっぱりしていて良かったです。

 

【総括】

ぶっ飛び方が凄まじいので、ぜひとも映画館で見ることを推奨したい作品。湯浅政明の描く人間の描き方や、その身体性の表現はやっぱり天才的だし、アヴちゃんの声によって生み出される立体感はすごかった。舞パートで音に乗るのはとても楽しいし、ぜひとも絶叫上映などを開催してほしいところ。一緒に歌いたくなります。オススメ。

第4回百合文芸小説コンテストで『河出書房新社賞』を受賞しました

過去の記事はこちら。

negishiso.hatenablog.com

この記事からおよそ1ヶ月が経ちました。

www.pixiv.net

www.pixivision.net

www.pixiv.net

まあ、ツイートの通りです。

文面が妙に落ち着いているのは、受賞の事前連絡が来ていたからですね。

事前連絡が来た時の私の反応は、確か次のようなものだった気がします*1

ある日の夕方、会社でスマホを弄っていたらpixiv公式*2からメッセージが来ていました。頭には「百合文芸」のゆの字も無かったので*3、「はて、いったいなんのお知らせだろう?」*4と首を傾げます。何も考えずに開いてみると*5、「河出書房新社賞」を受賞とのことです。私は井之頭五郎の顔つきで、「へえ、そういうのもあるのか」と思いました。*6

もしかして自分、天才なんでしょうか?笑*7

続報が来たら*8お伝えします。ではまた。*9

*1:ここから先、「嘘」があるぞ

*2:嘘です、正しくはpixiv小説編集部でした

*3:嘘です、毎日一時間に一回は「百合文芸」でTwitterサーチしていました

*4:これも嘘です、絶対に百合文芸だと確信しました

*5:嘘です、「受賞しろ受賞しろ受賞しろ頼む頼む頼む頼む頼む頼む」と念じていました

*6:すべて真っ赤な嘘です。「受賞」「5万円」「河出」の文字を見た瞬間に一気に身体に寒気が走りました。一瞬でパニックになって、思わず私用携帯を机に落として「うおおおお」と唸って頭を抱えていました。これは一般的には奇行に該当しますが、自分は普段から職場でよく頭を抱えたり唸ったりしているので、他の人からは特に何も言われませんでした。普段から奇行をしていて本当によかったです。そこから先はあまり覚えていないのですが、退勤してすぐに「とにかくこういう時って喜べばいいんだよな」と考え、ひとりで居酒屋に入って泥酔して、次の日は早朝から謎のパワーに満ちあふれた身体をどう取り扱ったらいいのか分からなくて、小雨のなか近所の公園で「わああああ」と叫んで走り回って、spotifyでいよわさんの『さよならジャックポット』とか『IMAWANOKIWA』とか『ディアーマイウィッチクラフト』とかを流して踊り狂っているうちに体力が尽きて、なんだか人生どうでもよくなって今に至ります。途中、pixivの件があったので「これどうすっかな」と思いましたが、ただお金が貰えるだけの賞ならともかく、「河出書房新社より刊行予定の百合小説アンソロジーへの収録検討」とかいう百合の文字書きオタクにとって異常な幸福度をもたらす副賞があったので(「検討」であったとしても!)、流石にそれには勝てませんでした。これに勝てる人間がいたら本当に尊敬します。自分には無理でした。「いや、でもお前が辞退したら例の件ぜんぶ解決して被害者もマジで救われるよ」という話であれば流石に人間の尊厳を優先しますが、自分が辞退したところでpixiv社が別に被害者のフォローを確約してくれるわけではないし、そもそもその時点で出ている声明文を読む限り、自分達が何をすべきかも本当に分かっていないようだったので、「多分これ辞退してもパフォーマンスとして見栄えがいいだけで誰も幸せにはならないな」と考え、受賞を受け入れた次第です。

*7:嘘です、ぜんぶ嘘。凡人なりにここ数年間ずっと創作について勉強してきた成果だと前向きに捉えています。就活をせずに映画を100本見たり(一応就職はしました)毎日暇さえあれば小説や漫画を色々読んで(たまにVtuberの切り抜きを見て)物語の構成や人の心が動かされるキャラや言い回し、百合という関係性が持つ問題点などを真剣に考え続けてきた結果です。当たり前の話ですけれど、天才ってなかなかいないんですよね。周りにいるすごい人たちって、みんな努力をし続けてきた(ちょい才能のある)凡人だと思っています(しかし稀に例外はいます)。今回のコンテストは記念応募した方もそれなりにいらっしゃるとは思いますが、自分の百合や文章に真剣に向き合ってきた人たちもいっぱいいると思うんですよね。他の方の選評を読んでいても「これ、自分が少しでも違う戦略をとっていたら(あるいは、他の人がほんの少しでも指摘された点を克服していれば)、自分じゃない人が選ばれていた可能性は全然あったんだな」と思うし、大賞を受賞した坂崎さんの選評を読むと(まだ応募作は読んでないです、申し訳ない)拙作とは全然クオリティが違うんだなあと。要するに、自分は「運良く」選ばれたわけです(当たり前ですが)。そして自分はこの「運」を最大限に活用して、もう少し先にあるものを眺めるための努力はした方がいいんだろうなと考えています。実際に眺められるかはともかくとして、努力だけはしておかないと、後からいくら後悔しても遅いですからね。この賞がめちゃくちゃ欲しかった人は沢山いると思いますし(自分もその中のひとりですが)、人生に何の目標もなかったので、とりあえずはその辺りに方針を定めて、引き続き色々頑張っていこうと考えています。改めて、この度は拙作を名誉ある賞に選んでいただきありがとうございました。最近自分が書いた作品については、前の記事に纏めています→()。もしよろしければ眺めてみてください。

*8:嘘です、無いかもしれない

*9:これが嘘にならないことを願って。

【自選】自分が書いたお気に入り文章ランキングTOP10

特に他意はないのですが、ここ数年で話題にしてもらえたり、自分でも気に入っている文章や記事をランキング形式で10位まで纏めてみようと思います。一応二次創作も含みますので、気になる方はご注意ください。

なぜこんなことをするのか?

理由は察してください。

 

10位『高級パスタ店に異常独身男性が突撃したらガチでやばいことになるという話』(ブログ:日記)

negishiso.hatenablog.com

ねぎしそをよく知る人なら「え、これが10位なの?」とびっくりするのではないでしょうか? 確かに、この記事は未だに『新薬史観』のなかでもトップレベルのアクセス数を誇っているはずですし*1、自分の存在を(良くも悪くも)多くの人に認知してもらうきっかけになった、それなりに大切な記事です。今の人間関係にもけっこう影響がありましたし。

じゃあなんでこの文章のランキングが10位なのかと言うと、この文章が強いエピソードをそのままブログに落とし込んだ「ほぼ日記」だからです。確かに、色々文章として優れたものにするために技巧的に拘った部分はあります。スマイルクーポンと全然スマイルじゃない結末を対比させたり、オタクが喜びそうな言語をわざと選んだり*2、臨場感のある場面描写を心がけたり……。

ただ、自分が一番拘り抜いた、

キモさの一番搾り。それが自分だった。

要するに、その日の自分は声優ライブのTシャツを着ていた。

この「要するに」の物語圧縮効果について感動してくれる人がそこまで居なくて*3、かなり凹みました。みんな歌う店主のエピソードの強さばかりを取り上げて、「文才がある」だとか「文豪」だとか持ち上げてくるのですが、最近のネットの傾向として、ただ自分に免疫がない(あるいは強烈な)エピソードに触れるだけで、執筆者に「文才」が備わっていると表現する人間が多い気がするので、今回もそれなんだろうなと思った次第です。

というわけで、自分の文章力が実際のエピソードに力負けした悲しみの記念碑として、自分のなかでは上位に押し上げることができない作品になっています。

一方で、MOTHERシリーズで著名な糸井重里さんから文章のセンスを褒めてもらえたことはそれなりに自分の励みになっていて(エピソードではなく「センス」なのが嬉しいポイント)、これを機に「人生の指針として、脚本家を目指すのもアリかもしれないな……」と考え始めたところはあります。

 

9位『みなさま、これまでありがとうございましたm(_ _)m』(小説:一次創作)

negishiso.hatenablog.com

キャラクターとして消費されがちなおじさん構文の主体である「おじさん」に、なんとか生命の息吹を吹き込めないか?と考えて書いた小説です。同時に、ブログという形式でしか表現できない作品にしようと考えていたので、日記という体裁にしてみました。ただ、内容が内容なだけにガチ通報されると困るので、おじさんにカポーティを読ませたり、終盤手前で敢えて文体を崩して読者の意識の覚醒を狙い、ほんのりフィクションであると気付いてもらえたらと考えていたのですが、ブックマークのコメントを見ると「その試みは失敗してますよ」「下手くそ」みたいな感じで叩かれていて凹みました。でも個人的には気に入っている作品です。

 

8位『二枚羽の天使になれたら』(小説:二次創作, 私に天使が舞い降りた!, ひなみや)

www.pixiv.net

一時期、SFにかなりハマっていた時期があって*4、その影響で自分の書く二次創作の文体がガチガチに固くなっていたことがあります。一方で、元来自分は関係性のエモを追求したり、メタファるのが好きなことに加え、できるだけ原作の設定を破壊してはならないというキツめの縛りを設けている(つもりな)ので、結果として出力されるのがなんだかよく分からない文体になってしまいました。読んでくれた知人からも、「お前の作品は何が面白いのかわからない」「読む気を無くす」と言われることが多かった覚えがあります。

そのなかでも、この作品は個人的にはなかなかそこら辺のバランスがうまく調節できた作品として自分の心のなかに残っています。読み返していないので、もしかしたら思い出補正されているかもしれません。

 

7位『本日6年間通い詰めたラーメン二郎を退店しました』(ブログ:日記) 

negishiso.hatenablog.com

これは普通にお気に入りの日記です。ラーメン二郎と自分との間には、村上春樹でも比喩できないような不思議な結びつきがあって、それは時々、自分をひどく混乱させます。そうして、混乱しながら出力した文章がこれってワケです。当惑がところどころから滲み出ていて、読み返すだけでも気恥ずかしいですね。誰かのラブレターを盗み読んでいる気分になってきます。

 

6位『気持ちを言葉にしようという話』(ブログ:日記)

negishiso.hatenablog.com

ねぎしそ聖人説をフォローする記事です。嘘です。それはともかく、百合漫画の最高峰と名高い『徒然日和』の作者である土室圭先生に向けて書いたファンレターの話は、何度読み返しても気が狂っていて、そのときの感情をしっかり文章に残してくれた自分に感謝しています。ちなみに、このブログを第1作として、『徒然日和とぼく』シリーズは続編2作がありますので、興味があればブログ内検索で探してみてください。

 

5位『黒い虹』(小説:二次創作, 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会, ゆうぽむ)

www.pixiv.net

知り合いの勧めで「劇団ままごと」をはじめとする舞台を観ていた時期があったのですが、そこで感じた「語り」の強さをうまく文章に落とし込めないかなと考えながら書いた作品です。個人的には、上原歩夢と高咲侑のキャラの要素を踏まえた上で、うまく纏まっている良い感じの二次創作だと考えています。知らんけど。

 

4位『【ネタバレ注意】劇場版 少女☆歌劇レヴュースタァライト 考察 』(ブログ:感想系)

negishiso.hatenablog.com

こういう考察合戦は速さが命なので*5、2回視聴してすぐに投稿してみたのですが、思いの外読まれて高評価をいただき、自己肯定感を満たせてよかったです。ちなみにこの文章の新規性は「かれひかが大切にしてきた交換は奪い合いの隠蔽でしかない」くらいのものなので、そこまで優れたものではないと思っています。でも色んな人から褒められたので、この順位にしました。褒められるのだいすき!

 

3位『地雷カプと和解せよ。』(ブログ:日記?)

negishiso.hatenablog.com

実はこの記事、地雷カプへの憎悪を思う存分に込めて筆が乗るままに書き散らかしたのですが、投稿時は全然反応がありませんでした。ところが、ランキング10位に挙げた高級パスタの記事がバズったことにより、過去に投稿していたこの記事もバズに巻き込まれるかたちで読んでもらえたという経緯があります。

奇しくも、一方的に認知していてSFの読み手として尊敬している、いとう階さんに言及してもらったことで、拡散に火がついた覚えがあります。ありがとうございました(勝手に引用してすみません)。ハヤカワSFの溝口さんからも「令和のチャック・パラニューク」だと言及されていた記憶があるのですが、ツイートが見当たらないので幻覚だったのかもしれません。

やや長文になったのが唯一の心残りですね。内容的にも、もっと圧縮できると思います。

negishiso.hatenablog.com

ちなみに、内容の関連性から選外にしましたが、続編として上記の記事があります。こちらは『地雷カプと和解せよ。』を読んで下さった(自分にとっての)地雷カプを推している人と通話をさせてもらい、「地雷カプの人間と共存することは可能である(!)」と理解できた貴重な体験を元にした文章です。一個人のマシュマロへの回答という形にはなっていますが、地雷カプに悩む人間へのひとつの解決策として、ある程度の射程を持った考え方だと思うので、参考にしていただければと思います。

 

2位『シャボン玉とメイク』(小説:二次創作, トロピカル~ジュ!プリキュア, まなロラ)

www.pixiv.net

新C99の冬コミで電子媒体として無料頒布したものの、1回もDLしてもらえなかった作品です*6。流石に悲しかった。でも、撤収間際にフォロワーからTwitterで頒布していた電子版を製本してもらって(!?)、手渡された時に、「そっか、人生ってこんなに自由でいいんだ」と思いました。その自由さへの憧れはその先の創作にも活かされ、一次創作での破茶滅茶な設定に繋がっていきます。多分。

個人的には、トロピカル〜ジュ!プリキュアの持つテーマ性や、まなつとローラとの関係性、また秘密めいた「愚者の棺」というアイテムの活用法など、思いつく限りのアイデアをしっかり落とし込めた点で満足はしているのですが、ラストの物語の組み立て方にやや難ありかなと自覚しています。スピード感だけで説得力がないというか。原作では完全なギャグで片づけられた本作ですが、しっかりと人間と人魚の恋に向き合った作品があってもいいのではないかと考える自分にとって、拙作はそれなりに力を持っているものだと信じたいです。

 

1位『あの日、私たちはバスに乗った』(小説:一次創作)

www.pixiv.net

第4回百合文芸小説コンテストで河出書房新社賞を受賞した作品です。今までありとあらゆる人生のイベントから逃げてきた自分にとって、残されたものは百合と文章だけでした。百合文芸というドンピシャのコンテストを目の前にして、「これからも逃れていいのか?」と自問自答して、締め切り二日前に思い立ち、死に物狂いで書き上げた作品です。直前に読んでいたアレッサンドロ・バリッコ『シティ』からそれなりの影響を受けていて、架空のキャラを取り扱うこと/その存在を信じることの意義や、かねてから考えていた「百合」という空虚かつ密度の高い関係性、同性愛に対する不理解、かつての社会システム(それは今も続いています)からの避難場所として機能していたエス文化、また虚構を真実だと「無理やり捉えさせられる」物語の力についていろいろ考えて、文章に落とし込んでみた作品です。一方で、この作品のテーマ的に短編でないと勝負ができないと考えたり、他の作品と差別化するために文章力で常にジャブをかまし、最後に強烈なストレートをかますことを意識して作品を構築していきました。うまくいくかどうかドキドキでしたが、結果的に(運良く)拾ってもらえて、本当に嬉しかったです。自分の拘りが初めて認められたように感じました。

結果論にはなりますが、あの時「ここで自分は応募しなければならない」と直感的に感じることができて、本当に良かったと思います。いくら優れた技量を有していても、応募しなければ受賞することは絶対にあり得ないので。自分の周りには文章の上手い人が沢山いて、結構劣等感を感じていたのですが、これを機に少しは自分を認めてあげることができそうです。

問題点はただひとつ、これを超える作品を今後も書き続けることができるのか?ということです。こればっかりはわからない。割とこの作品、バグによって生まれたところもあるので……。

 

以上、ねぎしそが選ぶ自選お気に入り文章ランキングTOP10でした。

これからも引き続き、文章を書いていきたいと思います。評価されようがされまいが、自分にはそれしか残されていないので……。

(自分全然小説界隈のしきたりが分からないのですが、こういう賞を受賞したらなんかアンソロとか呼んで貰えるものなんですかね?自分は基本的に暇なので、もし自分に興味を持ってくださった方がいたら是非なんか、こう、欲しいです)

連絡先はTwitter(@negishiso)のDMとか、メール(negishiso893⭐︎gmail.com)に頂ければと思います。まぁ来ないと思いますけれど、念のため。宣伝せずに後悔するなら、宣伝して後悔した方がいいですからね。

よろしくお願いします!

*1:記事ごとのアクセス数が分からないので断定はできませんが、おそらくそう

*2:「異常独身男性」や「キモさの一番搾り」等

*3:多少はいました。

https://twitter.com/NORIAKIISGOOD/status/1302663088353632256?s=20&t=jtYJpULKqo2KNAmwcBdQXA

https://twitter.com/su_san178210/status/1302578748865142784?s=20&t=jtYJpULKqo2KNAmwcBdQXA

*4:今も「どちらかと言えばそう」です

*5:情報を出すのが遅いと大抵n番煎じになり、自分の考察力(笑)をアピールできなくなる

*6:Twitterでもコミケ開場時間に電子版を無料公開していて、そちらは何回かDLしてもらえました

大橋明代『海辺のエトランゼ』観た!

大橋明代『海辺のエトランゼ』(2020)

映画「海辺のエトランゼ」大橋明代監督インタビュー「日常をていねいに描きたい」 | WebNewtype

映画『海辺のエトランゼ』公式サイト

 

【総合評価】8.5点(総合12点:全体10点+百合2点)

【作品の立ち位置】

オールタイム・ベスト・コンテンツ(10<x)

ガチで大事にしたい作品(9<x≦10)

積極的推し作品(8<x≦9)

オススメの手札に入る作品(7<x≦8)

まずまずな作品(6<x≦7)

自分からは話をしない作品(5<x≦6)

時間をロスしたと感じる作品(x≦5)


【世界構築】2点 (2点)

離島に住む人間の暮らしが実写映画のような演出で表現されていてよかった。ライティングや波風の音、背景の色合いなど、まるで旅行をしているかのような気持ちにもなれる、かなり素晴らしい映像・音声だと思う。人間の作画も非常に丁寧で安定しており、全体的に高レベルであると感じた。一方で、この作品独自の世界観というものを感じにくい点に難点があると思ったが、まあ日常作品だしな……と思ってそっちの面での基準は考えないようにした。

 

【可読性】1点 (1点)

全然引っかからずに観れてよかったです。


【構成】1.5点 (2点)

同性愛者の人間(駿)が好きな男(実央)に出逢い、ナンパ「するまで」ではなく「してから」に比重を置いているストーリーなのがよかった(オタクあるあるとして、同性愛系二次創作は恋愛の成就をゴールに設定しがちなので)。とはいえ、恋愛の成就をゴールにした作品同様、本作も障害として同性愛特有の周囲の視線、不理解さが置かれているのは変わりない。これは最初に「ナンパした男が(別に呼んでもないのに)帰ってきた」という設定にしていたのが良くて、同棲しつつも駿と実央の問題は何も解決していない(寧ろ未来の選択肢が徐々に狭まっていくという点で悪化すらしている)点が優れているなと思った。あとの許嫁との衝突はすでにクリアされている点も物語を円滑にするうえで、いい働きをしていたし、家族との問題は、まあだいたい想像通りのかたちに落ち着いて良かった。途中で許嫁から「せめてキスをしてくれ」と言ったのを実央が割り込みキスするのは非常に驚いた。普通の日常のなかにも適度にスリリングな展開に持っていく手腕がよかったです。原作通りなのかな?

 

【台詞】1.5点 (2点)

やや恋愛脳気味の実央と、若干冷めている駿の掛け合いがよかった。

 

【主題】1.5点 (2点)

同性愛者の日常を描きながら、勝手にその愛を高尚なものにするでもなく、低俗なものにするでもなく、ありのままの性欲を伴った恋愛を描いているのを好ましく感じた。やはりこの作品でもっとも素晴らしい動きをしているのが実央で、彼によってこの物語はここまでのメッセージを持つことになったのだと思う(自分の印象だと、同性愛の恋愛ものは駿×駿みたく探り合う関係が多いような気がする)。一方で、あくまで自分の感情として、過去の自分を孤独から救ってくれた恩人に対して、ここまで明確な性欲を感じるのか?という疑問は捨てきれなかった。おそらく実央は生来の同性愛者ではないと思うのだけれど、駿に対して一度限りでも所有したいという欲望があるわけでもなく(実央が目指しているのはずっと駿の隣にいることなので)、性的交渉をしなければ別れるという切迫感があるわけでもない。ただ彼は自然と駿と性的交渉をしようとしている。自分にはそのスタンスやモチベがあまり分からなかったのだが、これについては自分の恋愛観が強く反映されている気がするので、他の人は気にはならないのかもしれない。

 

【キャラ】1点 (1点) 

とてもよかった。みんなキャラが立っていたように思う。レズビアンカップルのおとなしめの女の子*1の存在感がもう少しあれば嬉しかったかもしれない。

 

加点要素

【百合/関係性】1点 (2点)

該当描写あり。とはいえ百合に関するとふたりの関係性はあまり重視されておらず、物語性がなかったのでそこまで良さを感じることはなかった。でもかわいい女の子が幸せそうに寄り添っているのはいいものだと思います。BL方面については、素直にいいなと思いました。狂うほどではない。ふたつ合わせてこの点数。

 

【総括】

なかなかに良い作品でした。何回観ても楽しめるかもしれないなと思える点で、エンタメとしても優れているように思う。ガチガチの異性愛主義の人間(職場にいるおっさんとか)に見せるとどういう反応をするのか気になった。漫画原作には続きもあるようなので、気が向いたら読むかもしれない。

*1:名前を調べるために公式サイトに飛んだのだが、キャラが掲載されて居らず笑いました。無記名でいきます

樋口真嗣『シン・ウルトラマン』観た!

樋口真嗣『シン・ウルトラマン』(2022)

シン・ウルトラマン」=おっさんホイホイの理由 | スージー鈴木の「月間エンタメ大賞」 | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース

映画『シン・ウルトラマン』公式サイト

【総合評価】10.5点(総合12点:全体10点+百合2点)

【作品の立ち位置】

オールタイム・ベスト・コンテンツ(10<x)

ガチで大事にしたい作品(9<x≦10)

積極的推し作品(8<x≦9)

オススメの手札に入る作品(7<x≦8)

まずまずな作品(6<x≦7)

自分からは話をしない作品(5<x≦6)

時間をロスしたと感じる作品(x≦5)


【世界構築】2.5点 (2点)

開始1分の素早い作品世界の紹介、あるいは怪獣たちの畳みかけで完全に心を掴まれた。庵野秀明だと思った。監督は樋口真嗣だけど。

この作品を通して得られたものは、「特撮ってこんなに面白いんだ」という気付きと、「エヴァって特撮だったんだ」という気付きだ。この感想は、自分がエヴァという作品を「デザインのよい異形が襲ってきて+専門の機関が対策しようとして+人間の醜さや愚かさを描く」作品くらいにしか思っていないから出てきているものです。異論は認めます。成田亨の本来のデザインを踏襲したというウルトラマンもすごく良くて、異形(SCP)感が増していて好み。また、しっかりと宇宙に飛び出てSFをしてくれるのも嬉しいポイントだった。めちゃくちゃに好きな世界観。

 

【可読性】1点 (1点)

真ん中あたりでやや間延びするが、気になるほどではない。


【構成】2点 (2点)

丁寧に作られていたと思う。ウルトラマンの戦う敵が段階的に強くなっていくのも良いし、人間をあくまで素材としてしか認識していない宇宙人たちとの対立もしっかり描かれていた。

 

【台詞】1.5点 (2点)

多少コミカルに描くことで、台詞を多少遊ばせても作品世界を崩していない。自分は本当にこれが最高の手法だと考えているので、それを実践している作品を見ると興奮してしまう。とはいえ、心にめちゃ響く台詞や会話の応酬があったかと言えばなかったので、この点数にしました。「そんなに人間が好きになったのか、ウルトラマン」とか「私の好きな言葉です」はまあまあ好き。

 

【主題】1.5点 (2点)

人間はちっぽけで愚かだけど頑張ってやっていきます、以外のものは無いと思うし、それでいいと思う。

 

【キャラ】1.5点 (1点) 

みんなよかったです。特にメフィラス星人のキャラ立ちはなかなかのものがあった。ブランコを漕がせたり、居酒屋で割り勘しようとするのはすごくいい発想だと思う。自分には思いつけない。

 

加点要素

【百合/関係性】0点 (2点)

該当描写無し。

 

【総括】

自分が一番良かったと感じるのが、ゼットン戦の最後に出てくる制限時間が表示されるのシーンである。βカプセルを使うことでバンクの発生、および時間が遅くなり、さらにコンマの領域に入ってさらにバンクが発生し、時が遅くなる。その畳みかけのタイミングや色遣いが圧倒的すぎて、本気で映画館で絶叫しそうになった。自分の性癖を的確に突いてくるシーンで、あれを見るためだけに俺は今日まで生きてきたのかもしれないとまで思った。それくらい脳汁の出たシーンを内包する作品として、「オールタイム・ベスト・コンテンツ」として記載させてもらっています。もちろん、全体的に非常に出来が良かったので文句なしの傑作ではあるのだけれど(エヴァの根底にあるのが特撮だというのもようやく実感できたし)、それでもやはり個人的には忘れられない作品になった。あの後のブラックホールみたいなのに飲み込まれる演出も楽しかったし。まだ観てない人は絶対に映画館で見て欲しい作品です。バンク2回掛けは本当に気持ち良い。

 

そういえば、この作品の感想としてセクハラ云々があるのを思い出した。実は自分は全然そういうものを感じなくて、なんとなく女性が巨大化した辺りかなとは思うのだけれど(それともお尻を叩くアレか?)、マジで心当たりがないのでショックを感じる。自分がセクハラを検知できないアンテナをしていることにである。割とつらいので、セクハラ箇所が分かる人がいたら教えてください。

アンドレイ・コンチャロフスキー『親愛なる同志たちへ』観た!

アンドレイ・コンチャロフスキー『親愛なる同志たちへ』(2022)

映画『親愛なる同志たちへ』公式サイト

【総合評価】7点(総合12点:全体10点+百合2点)

【作品の立ち位置】

オールタイム・ベスト・コンテンツ(10<x)

ガチで大事にしたい作品(9<x≦10)

積極的推し作品(8<x≦9)

オススメの手札に入る作品(7<x≦8)

まずまずな作品(6<x≦7)

自分からは話をしない作品(5<x≦6)

時間をロスしたと感じる作品(x≦5)


【世界構築】1.5点 (2点)

ソビエト連邦時代のロシアで実際に起きた事件を、アンドレイ・コンチャロフスキー監督が映像化したもの。モノクロで描かれることで、当時の空気感を感じやすくなっていて良かった。街の共産党員の幹部の集まりにあまり現実感を感じなかったというか、なんかしょぼいものを感じたので微妙な気持ちになった。とはいえ、共産党員の全体集会の空気は非常によかったと記憶している。銃を発砲する感じも切羽詰まっており、なかなかによかった。

 

【可読性】1点 (1点)

めちゃ眠かったのでやや寝たが作品に罪は無く、ふつうに飽きなかった。


【構成】1.5点 (2点)

共産党万歳から、娘の安否や党の隠蔽体質を通じて徐々にその思想が揺らいでいくのが良かった。とはいえ、別に構成に工夫はないよなとも思う。

 

【台詞】1点 (2点)

普通。あまり記憶に残っていないが、ヒトラーの真似をするお爺ちゃんの台詞が結構よかった覚えがある。

 

【主題】1.5点 (2点)

自分が心を委ねている国家が本当に正しいのか、というのを描いているのだが、今更ながらロシアだけがここまで責められるのは可哀想になってきた。当時の日本でもこういうことは絶対にあっただろうし、何なら今の日本政府も共産/民主主義以前に国民に隠しまくっていることがあるだろう。人間が運営している以上当然のことである。この作品について語るには、「共産主義を信じていた人が~」という文脈ではなく、何かしらに信頼を寄せている人全般にまで主語を拡大する必要があると思った。そして最後に主人公のリューダが到達するように、自分の大切なものを誠実に守ってくれる場所を探すことが一番大事なのだと思う。それを邪魔する集合体に自身が所属しているのであれば、さっさと離れた方が良い。

 

【キャラ】0.5点 (1点) 

普通。

 

加点要素

【百合/関係性】0点 (2点)

該当描写無し。

 

【総括】

この映画を観たのは4月だったのだが、まだロシアのウクライナ侵攻が真剣に議論されちているころだったように思う。今となっては、ロシアとウクライナが戦争していることに3月の時ほど心を痛めている人は少ないのではないだろうか。自分はある程度の額をウクライナ側に寄付したものの、もう精神が疲弊するだけなので、ウクライナの情勢には首を突っ込みたくないとすら思っている。当時は「ロシアの一方的な暴力に負けないでほしい!」と送ったお金も、ここまで長期化すると、寄付することでさらに自分以外の人間を戦線に送り出すことになるのだと考えてしまい、自分が軽薄な行為をしているのではないかと思えてくる。決してウクライナに負けろと言っているわけではないのだが、本作が教えてくれたように今の日本が観ている世界が必ずしも正しいとも限らない。結局はみな、自分が守りたいと思うものを守る側につく。いまの日本はメディアがそう報道しているからウクライナを守りたいと考える人が多いが、そうでない国はまったく逆の現象が起きているだろう。そのどちらが悪いのか、何が正しいのかを考えることに自分が疲弊しているのは事実であり、なんだかもうこういう文章を書いているだけで気が重くなってくる。願うのはどちらも戦闘行為を今すぐにやめることだ。自分がやられて嫌なことは他人にもしないという倫理を未だに自分は持っている。それが全世界にも生きているのであれば、本作のような悲しい出来事も起こらなかったと思うが、人間はあまりに難しいのでよく分からない。誰を信じれば良いのか分からないという、リューダの悩みが自分にも少しは理解できるような気がする。